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2章:査察へ行きたい
序盤の頼れる強敵といったらコレ!
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「ヘラ様、隠れてください!」
いつも冷静なグロリアからの鋭い声に、ほとんど反射的に手入れもあまりされていない木々の間に縮こまり、こそこそと身を隠す。
む、やはり地上では我が探知能力が阻害されるようだ。ここはもうすでに魔王領であるというのになんと未練がましいことか、忌々しい神のやつめ。
地縛霊領、トーアは脆弱な人間共にとって過ごしやすい温暖な気候と高い山の少ない平地が広がる、なんとも退屈な地域だ。このような場所には人間の国や街が興りやすく、そして、我が魔王軍も攻め込みやすい。
それでも、なかなか攻めあぐねて征服できなかったのは、かつてこの地にあった城塞とその主によるところが大きかった。長年の間我が軍勢の攻撃に持ちこたえていた堅牢な守りは、我が敵ながら称賛に値する。
「ヘラ様、何をぼーっとしてるんすか。アイツら興奮状態なんで、さすがに今見つかるのはマズいっすよ!」
「お、おうふ、ちょっと過去の栄光に浸っていてな」
「転移魔法使わないからこんなことになるんすよ」
「いやいや、むしろこういうハプニングこそ旅の醍醐味やろがい」
しかしまあ、足を踏み入れて早々に、このような事態に巻き込まれるとは思ってもみなかったが。まあ、不測の事態、というのも、実にお忍びらしくていいではないか。現場の生の声、いや、雄叫びを聞けるのはとても貴重だからな。
我々が隠れている大木のすぐそばを、身体の内側から震わせるような轟音ともに駆け抜けるは。
オークの群れか。
オーク族。人間なら大人3人分はあろう巨大な体躯とそれに見合うほどの怪力で身の丈ほどもある戦斧を軽々と振り回す、骨をも砕く二本の大きな牙と、わずかな獲物の匂いをも嗅ぎ分ける大きな鼻、そして、どんな音も聞き逃さない大きな耳を持つ獰猛な魔族だ。
なるほど、この辺りは奴らの縄張りか。
甘美なる獲物の気配に鼻息を荒く鳴らし、その疾駆に森全体を地響かせながらも、生い茂る木々を滑らかにすり抜けるその様は、もはや勇壮さを越えて荘厳さすら感じさせるではないか。なんと素晴らしい!
「では、行き当たりばったりで申し訳ないが、さっそく査察を開始しようではないか」
「はい、了解っす、ヘラ様」
「かしこまりました、ヘラ様は私達の傍を離れないでください」
我らはこっそりと過ぎ去っていったオーク達の大きな足痕を追う。これも査察の一環だ、あやつらの働きぶりをしっかりと見極めてやろうぞ。
我らは彼らに見つからないように、少し小高くなった場所から様子を窺う。
そこには、往来のため粗雑に舗装された道に横倒しになって壊された馬車が数台と、逃げ遅れた人間や馬の死体。それに、オークの巨体にぐるりと包囲されて身動きの取れない人間共が十数人と座らされていた。
荷台より散乱した品々やこの人数を鑑みるに、こやつらは人間の行商旅団、といったところか。
つまり、こやつらは人間の馬車を襲撃したのだ。いいぞ、もっとやれ。
それにしても愚かにも我が魔王領を横断しようとは、人間共め、あまりにも浅薄な考えだと言わざるをえないな。
「ぐへへ、うまそうな人間がたくさんいるぜ! とっとと捕まえてお楽しみといこうじゃねえか!」
オークの一体が言う通り、確かに、服装は幾分かみすぼらしいが目鼻立ちの整った少女がいるな。それに、あの少女はまだ幼いが成長すればいずれ美しくなるだろう。あれは服装が一人だけ違うな、さてはこの行商隊のリーダーの娘か、うむ、悪くないな。
ちなみに、魔族にも肉の好みはもちろんあって、オークが人肉を喰らうことは滅多にないから、うまそうというのは所謂比喩で、つまり、えっちな意味の方だ。
美少女に生まれてしまったというのは憐れだな、これからこやつらのねぐらであんなことやこんなことをされるのだろう。ああそうだ、徹底的に薄い本して、人間の娘どもに癒えぬほどの屈辱と恐怖を植え付けてやるのだ。
……しかし。
いつも冷静なグロリアからの鋭い声に、ほとんど反射的に手入れもあまりされていない木々の間に縮こまり、こそこそと身を隠す。
む、やはり地上では我が探知能力が阻害されるようだ。ここはもうすでに魔王領であるというのになんと未練がましいことか、忌々しい神のやつめ。
地縛霊領、トーアは脆弱な人間共にとって過ごしやすい温暖な気候と高い山の少ない平地が広がる、なんとも退屈な地域だ。このような場所には人間の国や街が興りやすく、そして、我が魔王軍も攻め込みやすい。
それでも、なかなか攻めあぐねて征服できなかったのは、かつてこの地にあった城塞とその主によるところが大きかった。長年の間我が軍勢の攻撃に持ちこたえていた堅牢な守りは、我が敵ながら称賛に値する。
「ヘラ様、何をぼーっとしてるんすか。アイツら興奮状態なんで、さすがに今見つかるのはマズいっすよ!」
「お、おうふ、ちょっと過去の栄光に浸っていてな」
「転移魔法使わないからこんなことになるんすよ」
「いやいや、むしろこういうハプニングこそ旅の醍醐味やろがい」
しかしまあ、足を踏み入れて早々に、このような事態に巻き込まれるとは思ってもみなかったが。まあ、不測の事態、というのも、実にお忍びらしくていいではないか。現場の生の声、いや、雄叫びを聞けるのはとても貴重だからな。
我々が隠れている大木のすぐそばを、身体の内側から震わせるような轟音ともに駆け抜けるは。
オークの群れか。
オーク族。人間なら大人3人分はあろう巨大な体躯とそれに見合うほどの怪力で身の丈ほどもある戦斧を軽々と振り回す、骨をも砕く二本の大きな牙と、わずかな獲物の匂いをも嗅ぎ分ける大きな鼻、そして、どんな音も聞き逃さない大きな耳を持つ獰猛な魔族だ。
なるほど、この辺りは奴らの縄張りか。
甘美なる獲物の気配に鼻息を荒く鳴らし、その疾駆に森全体を地響かせながらも、生い茂る木々を滑らかにすり抜けるその様は、もはや勇壮さを越えて荘厳さすら感じさせるではないか。なんと素晴らしい!
「では、行き当たりばったりで申し訳ないが、さっそく査察を開始しようではないか」
「はい、了解っす、ヘラ様」
「かしこまりました、ヘラ様は私達の傍を離れないでください」
我らはこっそりと過ぎ去っていったオーク達の大きな足痕を追う。これも査察の一環だ、あやつらの働きぶりをしっかりと見極めてやろうぞ。
我らは彼らに見つからないように、少し小高くなった場所から様子を窺う。
そこには、往来のため粗雑に舗装された道に横倒しになって壊された馬車が数台と、逃げ遅れた人間や馬の死体。それに、オークの巨体にぐるりと包囲されて身動きの取れない人間共が十数人と座らされていた。
荷台より散乱した品々やこの人数を鑑みるに、こやつらは人間の行商旅団、といったところか。
つまり、こやつらは人間の馬車を襲撃したのだ。いいぞ、もっとやれ。
それにしても愚かにも我が魔王領を横断しようとは、人間共め、あまりにも浅薄な考えだと言わざるをえないな。
「ぐへへ、うまそうな人間がたくさんいるぜ! とっとと捕まえてお楽しみといこうじゃねえか!」
オークの一体が言う通り、確かに、服装は幾分かみすぼらしいが目鼻立ちの整った少女がいるな。それに、あの少女はまだ幼いが成長すればいずれ美しくなるだろう。あれは服装が一人だけ違うな、さてはこの行商隊のリーダーの娘か、うむ、悪くないな。
ちなみに、魔族にも肉の好みはもちろんあって、オークが人肉を喰らうことは滅多にないから、うまそうというのは所謂比喩で、つまり、えっちな意味の方だ。
美少女に生まれてしまったというのは憐れだな、これからこやつらのねぐらであんなことやこんなことをされるのだろう。ああそうだ、徹底的に薄い本して、人間の娘どもに癒えぬほどの屈辱と恐怖を植え付けてやるのだ。
……しかし。
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