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1章:魔王様、魔王引退するってよ

護衛(護衛とは言ってない)

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「そうですわ、お父様、護衛を付けましょう、そうしましょう!」

「いや、我に護衛など不要だ、我が魔王としての力は未だ健在」

「ダメですよ、お父様のような美少女が一人で歩いている方が怪しいですし危険です!」

「そ、そういうものか?」

 旅という経験がない我はステラの言うことを聞き入れるしかない。こやつは研修として遠方の領土に赴任させていたからな。その辺の見識は我よりもあるだろう。

「というわけで、こちらが護衛のふたりです」

「不可解なまでに準備が良いな」

 どこからともなく現れたふたりはどちらもビシッと黒いスーツを着ていて、かたや、金髪褐色のすらりとした長身で、もう一方は我よりは背は高いがそれでも、護衛としては小柄で理知的なメガネを掛けた少年のようだが。

「オスじゃん」

 我は多様性を尊重しているし護衛の性別などどちらでもいいのだが、でも、ステラ、この前言ってなかったっけ、オスは滅びよ、って。このふたりは中性的な顔立ちだが、男物のスーツを着ているぞ。

「いいえ、これを見てください、お父様」

 ステラの言葉とともに彼らが何の恥じらいもなく上着を脱ぐと、そこには一体あのぴったりとしたスーツのどこに収納されていたのか、ずいぶんとご立派なものがぷるるんっと露わになる。いや、それ、どうせ女の身体になるなら我にも実装してほしかったなあ。我、完全に少女らしい見た目相応の慎ましやかな身体付きなんだよなあ。

「いやんッ、やっぱり男装女子は最高ですわ!」

「ステラ、キミの性癖は全く理解し難い」

「こちらの金髪褐色イケメンがサキュバスのオフィーリアで、クールメガネショタ風の方がスライムのグロリアですわ」

「そうか、これからよろしく頼むぞ、オフィーリア、グロリア」

 ……ちょっと待って、魔物のチョイスが不穏じゃない? ねえ、これ大丈夫? 薄い本によくあるヤツじゃない? 月曜のようにたわわな羨ましいお胸をぷるんっと収納しながらも、ふたりが我へと向ける眼差しがなにやらねっとりしている気がするのは、気のせい、ということにしておこう。

「これからよろしくお願いしますね、魔王様」オフィーリア、ぺろりと舌なめずり。

「私達、色々と手取り足取りお世話差し上げたいと思っています」色々って何? 手取り足取りって何? ねえ、グロリア?

「お二人とも、バ美肉お父様が可愛いからって決して襲わないでくださいね」

「わかっていますよ、ステラ様、タイミングですね」

「その時は、ええ、はい、ちゃんとお知らせげふんげふん」

 なんかステラとの変な目配せとさりげないハンドサインがあまりにも趣深いのだが。護衛が付いていながら貞操の危機ってそんなことある? どっちもやべえヤツじゃん。

「ステラ、なんかキミ、異世界の文化にめっちゃ影響されてない?」

「気のせいです」

 そういえば、最近転生者とかいう異世界からやってきた者が、彼らが元いた世界の技術や知識をひけらかして好き放題やっている、と報告があったような。今は、同族相手に見苦しく俺TUEEEEだけをやっているから良いものの、その矛先が魔界に向けられると面倒だ。

 そうだ、それに、今はパーティから追放された者、というのも要注意らしい。実は不当な評価だったとか使えないと思われていたスキルが実はすごかった、などという、ざまあな輩もうろついているらしい。

 遭遇次第転生者や追放者、ついでに未来予知者である悪役令嬢は即刻殺そう。ステラの今後にも悪影響だし。

「じゃ、じゃあ我は行くけど、魔王としての業務とかよろしくね」

「はい、魔界のことはこの新魔王、ステラに安心してお任せください」

 ステラへの引継ぎ業務はしっかりやったし、わからないことは我が参謀もサポートしてくれるだろう。バックアップ体制はばっちりだ。シャーリイの母親らしいお節介な横やりもなんとかなるだろう。

「あなた、ハンカチはちゃんと持ったの? そんな新しい革靴で靴擦れは平気かしら? そうだ、絆創膏も持っていきなさいね?」

「ねえ、我、完全に子ども扱いされてない?」

 出発しようとしたところで、我の周りでテキパキと、我に何かを持たせつつ銀髪を梳かしお菓子を食べさせようとするシャーリイ。

「ええい、我のことは我で出来るもん、いちいち手を出すな!」

「ま、あなたったら反抗期かしら」

「そんなもん我にはないわ!」

 そうして、シャーリイの執拗な準備から逃げ出すように魔王城から飛び出した。「あなた、お弁当忘れてるわよ!」というシャーリイの声が後ろから聞こえてきたが、ここで戻るわけにもいかず、我が今日のお昼は抜き、というのが確定した。
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