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街明かりの外から

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 川岸のぎらつく街明かりを睨み付けて。

 すぐに視線を落とす。

 あの汚ならしい光に比べれば、このがらくた置き場の小さな焚き火の方がまだマシだ。そう、どこまでも尊大に自分へと言い聞かす。

 そうでもしなければ、このような屈辱に耐えることなど到底出来そうになかった。

「まあまあ、こんなところまで落ちぶれちまって今さら何を後悔しようってんだ」

 そやつは、一つ目に機械が組み合わさったちっぽけな妖怪だった。きっと名前もないのだろう。我がこんな物ノ怪と話すなど考えたこともなかった。

「まさか、俺たち妖怪の方が人間に迫害されちまうとはなあ、ずいぶんと世知辛い世の中になったもんだ。あんただってそう思うだろ?」

 そやつの表情はさっぱりうかがい知れなかったが、どこか諦観したような乾いた笑みを浮かべているような気がした。この惨憺たる現状を楽しんでいるようには見えないが。

「……我はお前らのような些末な妖怪とは違う、我は神であるぞ」

「へっ、あんたが神様、ねえ」

 一つ目がぎょろりと我が姿を眺めた。それが神たる我に対する信心からではないことははっきりとわかった。

 我はうんざりと、怜悧に燃えるささやかな焚き火から視線を上げる。

 古き我らが慣れ親しんだ闇夜の暗闇は、近頃ではすっかり変わり果てて。

 淀んだネオンと耳障りな電子音と月明かりの寂しさを遮る喧騒が入り雑じる病んだ夜となってしまった。この惨状を喜んでいるのは、今もあの高層ビルの屋上で下界を蔑む歓楽の神だけであろう。

「そうだ、なあ、あんたの名前を教えてくれよ、カミサマさんよぉ~」

「我が名は人間に付けられ、その名こそ我が実存と成す。……我が名はもうすでに失われている」
 
 人間は我をキャラクターとした。我が名を分霊とする安っぽい偶像が大量に作られ、欲望に消費され、そして、飽いて棄てられて、あっさりと忘れ去られた。

 かつて人間の生殺与奪をいたずらに弄んだあの強大な力はもうすでに残渣すら残っていなかった。

「なんだ、それじゃあ、あんたを神様だと奉るような人間はとっくにいなくなっちまってるってことじゃないか」

「そんなことは……」

 すぐにこんな妖怪の戯言に反論しようとして。

 しかし。

 一つ目の機械に反射する我が姿に、その言葉は口から出る前にあっけなく霧散してしまった。

 未練がないと言えば嘘になる。

 後悔がないと嘯けば痛くなる。

 かの栄華を取り戻したくなる。

 目の前の名無しと何が変わる。

 我が誇らしき姿はどこにある?

 だからこそ。

 最後に残ったモノを使って人間に好いてもらおうとこのような紛い物の姿にまで成り下がり。

 それでも、こんな場所にいる我には、ただ、あの忌まわしき対岸の街明かりを見つめることしか出来なかった。
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