218 / 235
白紙
ーー 縺九∩縺斐mし ーー②
しおりを挟む
「あ、そうだ、メアリー・スーには会いました?」
絶望的な世界を眺めてなお、小烏丸はまるで世間話でもしようかというフランクさ。今さら討たれた怪物の話なんてして、彼女はこの世界に対して何も感じていないのか。これで満足なのか。
「……ええ。森の奥で化け物と出会う、なんて経験、もう二度とごめんだわ」
メアリーはどんな物語にでもいてはならない存在だった。どうしてそんな彼女が生まれ、そして、この世界へと転生し、そして、現実を改変しようとしたのか。今となっては何もわからないし、もうどうでもいい。
「彼女は、あの現実改変能力から発生した転生者でしてね、異能の方を元に転生した完全なイレギュラーだったんですよ」
あんなの言われなくても当たり前にもちろんイレギュラーだ。あんな化け物がポコポコ転生していたら、小烏丸が手を下さずともあっという間に世界は破滅する。
「いや、彼女を倒してくれて助かりました。神であるワタクシでさえあの異能には手を焼いていたんですよ」
制御不可能、物語の登場人物では到底敵わない現実改変者。
「どうでもいい転生者に彼女の能力をコピーさせて監視役にしようとしたんですけどね。ま、あえなく裏切られましたけど」
飄々とそう語る彼女には、憎悪に歪んだアヴァリスの悲哀は理解できやしないだろう。いや、わたしにも全くもって理解不能だったけど、それでも、この女神よりは人の心はわかっているつもりだ。今思えばアヴァリスは憐れな被害者だった。神様に見捨てられたんじゃ誰も彼を救えやしない。
「当然ね、ひとの心も知らないで、よくもまあ神様だなんて名乗れたものね」
わたしの物語は、心を知る物語だ。だって、白紙の世界にいたわたしは感情も何も知らなかったんだもん。
きっと、そのための物語で、そのための冒険だったんだから。
何も知らない、何も持たないちっぽけな少女だったわたしの成長の物語。
そういう物語ってことでいいじゃない。結構悪くないテーマじゃん、素敵じゃない。
だから今はもう、何も持っていない無色透明、なんて言わせない。
世界を創ったのは誰で、物語を語るのは誰で、この物語は誰の物なのか。それはもはや重要じゃなくなったかもしれない。
今さらこの物語の真のストーリーなんて興味はない。一人称じゃ描けないわたしの計り知れない場面の描写に意味なんてない。
ただ、目の前にいる諸悪の根源である女神を倒し、この白紙世界を元の錯誤世界へ、そして、“始源拾弐機関”が司る元の錯誤世界秩序機能へと戻す、そんなハッピーエンドにすることだけを希う。
「アナタが神様かどうかなんてもうあまり気にしてないの、わたしはただ伏線の回収がしたかっただけ」
「おや、ずいぶんメタ的なことを言いますね、いいんですか、それ?」
「それに……、」
「それに?」
「アナタが何者であれ、この世界を、わたしの物語を壊したなら、わたしがやることは決まってるもの」
「ああ、まあ、そうなりますよねー」
「神様だって殺してみせる!」
「あっは! やっぱりクライマックスはその方が盛り上がりますよね!」
その引き攣った笑顔が、今にも暴発してしまいそうな歪んだ哄笑。戦うことを望んでいたかのような嘲笑。わたしには、彼女がこの世界のどれを望んでいたのかわからなかった。だって、そのどれもを望んでいなさそうに見えたから。
絶望的な世界を眺めてなお、小烏丸はまるで世間話でもしようかというフランクさ。今さら討たれた怪物の話なんてして、彼女はこの世界に対して何も感じていないのか。これで満足なのか。
「……ええ。森の奥で化け物と出会う、なんて経験、もう二度とごめんだわ」
メアリーはどんな物語にでもいてはならない存在だった。どうしてそんな彼女が生まれ、そして、この世界へと転生し、そして、現実を改変しようとしたのか。今となっては何もわからないし、もうどうでもいい。
「彼女は、あの現実改変能力から発生した転生者でしてね、異能の方を元に転生した完全なイレギュラーだったんですよ」
あんなの言われなくても当たり前にもちろんイレギュラーだ。あんな化け物がポコポコ転生していたら、小烏丸が手を下さずともあっという間に世界は破滅する。
「いや、彼女を倒してくれて助かりました。神であるワタクシでさえあの異能には手を焼いていたんですよ」
制御不可能、物語の登場人物では到底敵わない現実改変者。
「どうでもいい転生者に彼女の能力をコピーさせて監視役にしようとしたんですけどね。ま、あえなく裏切られましたけど」
飄々とそう語る彼女には、憎悪に歪んだアヴァリスの悲哀は理解できやしないだろう。いや、わたしにも全くもって理解不能だったけど、それでも、この女神よりは人の心はわかっているつもりだ。今思えばアヴァリスは憐れな被害者だった。神様に見捨てられたんじゃ誰も彼を救えやしない。
「当然ね、ひとの心も知らないで、よくもまあ神様だなんて名乗れたものね」
わたしの物語は、心を知る物語だ。だって、白紙の世界にいたわたしは感情も何も知らなかったんだもん。
きっと、そのための物語で、そのための冒険だったんだから。
何も知らない、何も持たないちっぽけな少女だったわたしの成長の物語。
そういう物語ってことでいいじゃない。結構悪くないテーマじゃん、素敵じゃない。
だから今はもう、何も持っていない無色透明、なんて言わせない。
世界を創ったのは誰で、物語を語るのは誰で、この物語は誰の物なのか。それはもはや重要じゃなくなったかもしれない。
今さらこの物語の真のストーリーなんて興味はない。一人称じゃ描けないわたしの計り知れない場面の描写に意味なんてない。
ただ、目の前にいる諸悪の根源である女神を倒し、この白紙世界を元の錯誤世界へ、そして、“始源拾弐機関”が司る元の錯誤世界秩序機能へと戻す、そんなハッピーエンドにすることだけを希う。
「アナタが神様かどうかなんてもうあまり気にしてないの、わたしはただ伏線の回収がしたかっただけ」
「おや、ずいぶんメタ的なことを言いますね、いいんですか、それ?」
「それに……、」
「それに?」
「アナタが何者であれ、この世界を、わたしの物語を壊したなら、わたしがやることは決まってるもの」
「ああ、まあ、そうなりますよねー」
「神様だって殺してみせる!」
「あっは! やっぱりクライマックスはその方が盛り上がりますよね!」
その引き攣った笑顔が、今にも暴発してしまいそうな歪んだ哄笑。戦うことを望んでいたかのような嘲笑。わたしには、彼女がこの世界のどれを望んでいたのかわからなかった。だって、そのどれもを望んでいなさそうに見えたから。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方
tea
ファンタジー
はずれスキル持ちなので、十八になったら田舎でスローライフしようと都落ちの日を心待ちにしていた。
しかし、何故かギルマスのゴリ押しで問答無用とばかりに女勇者のパーティーに組み込まれてしまった。
追放(解放)してもらうため、はずれスキルの無駄遣いをしながら過去に心の傷を負っていた女勇者を無責任に甘やかしていたら、女勇者から慕われ懐かれ、かえって放してもらえなくなってしまったのだが?
どうなる俺の田舎でのスローライフ???
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる