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目的、この物語のテーマ

―― Re:【倫理狂い    】   ――③

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「なあ、善行だと言って罪もない市民を虐殺したり、悪の名の元に圧政者に反旗を翻す、それらのどちらが善でどちらが悪なんだろうね」

 ふらりと、呟くようにわたしにそう問いかけて、だけど、彼はきっと答えなんて期待していないのだろう、なんとなくそう思った。誰にも、自分にも、世界にすら興味がないような彼が、そんな質問の答えがたとえどんな素晴らしいものだったって満足するようにはとても思えない。

 そして、そんなのは議論の余地すらない。彼らに大義名分がある限り、その当事者双方が善であり、そして、同時に悪でもあるのだ。なんて意地悪な問いかしら。

 わたし達のジグレイヴィオンでの革命だって、結局どちらが正しかったのかは誰にも決められない。わたし達にはわたし達の、あの転生者には転生者の正義がそこにはあったはずなのだから。

 だから、答えなんてない、模範解答なんてない、沈黙すら正解になりえない。善悪を司るはずの彼にだってそんなことはとっくにわかっているはずなのに。

「そう、キミも理解しているだろ? この古ぼけたカビ臭い世界に生きるものにとって、明確な善悪の基準なんてまだ必要ない、」

 何も答えられないわたしに対し、それでも、彼はさっきまでと変わらない諦観の眼差しを向ける。彼が座る腐りかけの木箱がぎしりと軋んだ。

 ああ、そうか、だから、彼は、彼女は、

「だから、この世界はまだぼくらが存在する理由に至っていないんだ」

 だから彼らは自分達の存在にも理由にも物語にすらも興味がないのか。

 なんてことかしら、この世界には善悪という曖昧なものを司るものが存在している。善と悪、二律背反するものを司る、きっと唯一の“始源拾弐機関”。

 どこの誰が物事の善悪を決めるのか、“始源拾弐機関”が司っているから正しいのか。

 それが真に正しいものかどうかすら誰も知る由がない。

 それは絶対に公平にならない。なぜなら、何も基準がないから。

 万人に倫理の基準があって、それはある者にとっては善であるかもしれないけど、またある者にとっては悪かもしれない。どちらの言い分が正しいのか誰にもわからない。不完全な世界に住むわたし達が作り上げた法なんて、倫理の前には何の意味も持たない。

 だけど、善悪を司る、なんて、そんな不確定な機能があっていいのか。それをはたして、機能と呼んでいいのか。

 くらりと眩暈すらしてしまう、この矛盾。

 倫理観の統一、は確かに世界の進化の先にはあるかもしれないけど、それは今ではない、遠い未来のお話だ。この物語にディストピアサイエンスフィクションはまだ早い。違う物語でやるべきだ。

 善とはなんだ、悪とはなんだ。
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