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起承転結《 》

――    【深層義肢】――⑦

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「【超弦骨格暫定式・波動帝國】が壊されたことによりこの世界から振動と音が失われたはずだったが、彼女は最期に音を奏でたようだ。辛うじてまだ彼女の振動は世界と共にある、」

 ほんの一拍。【深層義肢】には珍しいそのささやかな逡巡がわたしの胸にもやもやを残す。

「それも、時間の問題ではあるが」

 う、そういうことか、時間制限付き、ってことね。だからこそ、彼女はわたしには頼みたくなかったのかもしれない。だって、わたしはこの世界から音が消えてしまうのなんて絶対にイヤだもの。絶対にもう一度音を奏でようって思うもの。

 【超弦骨格暫定式・波動帝國】の最期の演奏がどこまで続くのかわからないけど、4分33秒より長いことを願う他ない。一刻の猶予もないことは確かで、わたしには彼女の生演奏を聴くこともできないってこともわかってる。この世界はどこまで意図してない音が起きている状態の沈黙に耐えることができるのだろうか。

 きっと神様は転生者達に何も言っていない。“始源拾弐機関”が破壊されたらどうなるか。全ての秩序が消え去った混沌たる新世界の創造の時に、彼ら転生者がどうなるのか。だって、いくら異世界からの転生者である彼らだって、もうこの世界の理の中で生きているものなんだもん。

 時間が消え、星が消え、音が消え、虚無が消え、破壊が消え、熱が消え、存在定義が消え、そして、希望が消えた時、それらによって綴られていたもの達はどうなってしまうのか。わたしにはわからない。ただ、きっとこの錯誤世界は消えてしまう、ということはなんとなくわかってる。それは、真に物語の終焉だ。

 彼らはきっと捨て駒。

 神様によるあの大戦での彼らの扱いは、まさにそういうものだった。大量生産、大量消費、悪しき文化だ。

 まあ、神様にぼくのかんがえた最強の異能力とすてーたすまっくすを与えられて有頂天になっているようなもの達だ、この錯誤世界、ミスティカエラの世界構造なんて興味も関心もないのだろう。彼らは飽くなき承認欲求の怪物で、それさえ満たされれば物語がどうなろうと構わないのだ。

 神様によって理不尽に殺されて、この錯誤世界、ミスティカエラに連れられた挙句、自らの手で第二の人生を終わらせようとしている。

 どうにかして彼らにそのことを教えてあげたいけど、でも、それは彼らの愚行を止める理由にはならないかもしれない。

 なぜならば、彼らは遍く破滅思想なのだ。

 わたしが見てきた転生者はそう多くない。でも、ほとんどの転生者がそうだった。

 自分だけが気持ち良くなれれば他人なんてどうでもいい。

 この世界なんてどうなってもいい。

 どうせ死ぬはずだった自分の命なんてどうでもいい。

 こんな、およそ命あるものが持つべき生存本能、というべきものが致命的に欠落しているようなもの達が、生命の尊さを、自分自身の尊さを果たして理解できるのだろうか。

 話し合えばわかり合える、でも、話し合いすらもできなければ?


ーー        ーー
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