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起承転結《 》
―― 【深層義肢】――④
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「この大戦により、【軌条空論・紙一重】が司っていた世界の均衡は崩れた。我々は錯誤世界秩序機能としてこの世界を守らねばならぬ、そう、たとえ敗北者だとしても」
ああ、なんて虚しい機能だろうか。
感情を排したような無機質な言葉と口調。【深層義肢】が元々そんな感じだったのかはわからないけど、そんな彼女のノイズ混じりの音声がとても寂しくて、やっぱり悔しくて。
「……ねえ、たとえ、この世界に必要ないとしても……?」
この世界はとっくにわたし達、“始源拾弐機関”のことなんて必要なくて、神様の思い描く新世界では完全に、恐るるに足らない敵だ。それなのに、わたし達は結局この錯誤世界の秩序を維持するための機能として存在しなくてはならない。今さらこの世界のどこに守るべき秩序なんてあるのだろうか。
「それなら、わたし達は何のために存在しているんだろう」
ずっと前、わたしは、自分がこの世界に必要なのかどうかわからなかった。
この物語の主人公がわたしであるべき理由を見いだせなかった。
いや、まだわからないままだ。
だけれども、わたしが必要じゃない理由もなかったんだ。
無色透明で何も持たないわたしでも、きっと存在理由がある。それを探す物語だ。
だからこそ、“始源拾弐機関”をただのシステムなんかだと思いたくない。彼らにだって胸躍る物語とこの壊れてしまった世界にだって存在するべき理由が必ずあるはずなんだ。どれほどの時間が掛かってもわたしはそんなお話を聞いてみたい。
……でも、神様には? あの飄々とした小烏丸は自身の存在理由を教えてくれるだろうか。きっと教えてくれないだろうな。
「我は存在定義を司るもの。だが、我には存在理由は分からぬ」
「うん、わたしにもわからない。だけど、きっとそれはだれかが司っていたり教えてくれるようなものじゃないと思うんだ。それは、見つけるもの、だもの」
「そうか、そなたはそれを探しているのだな」
「そう、わたしの物語はそういう物語、わたしがわたしの足でわたし自身を探すわたしのための物語」
「……素敵な物語だ。しかし、こんなにも小さな足で、しかも裸足で、我らはそなたをたった独りで歩かせてしまったのだな、すまない、心より謝罪したい」
「んーん、だ・か・ら、これはそういう物語だからいいんだって」
ホントはもっと穏やかな旅路になると思っていたんだけどね、ちゃんとかわいい靴も履いて、あのマイペースな馬車にまったり揺られたりなんかしちゃって。そして、どこかで世界を守っているような大きな機械鎧に出くわして戦々恐々とするんだ。
そんな物語のはずが、小鳥遊 小烏丸とかいう訳わからんのが勝手にわたしの物語をテコ入れしやがったせいで、こんな殺伐としたお話になっちゃったけど。わたしのモチベーションの低下でエタっちまったらタダじゃおかないぞ。
「それに、この物語、実は独りだったときなんてあんまりないのよ?」
そう、わたしのそばにはいつも誰かがいてくれた。そのおかげで楽しかったこともさみしかったこともあって、だから、わたしが独りだった、なんて感じたこともなかった。まあ、それにはいつも唐突で理不尽かつ不条理な別れが伴ってはいたのだけれども。
ーー ーー
ああ、なんて虚しい機能だろうか。
感情を排したような無機質な言葉と口調。【深層義肢】が元々そんな感じだったのかはわからないけど、そんな彼女のノイズ混じりの音声がとても寂しくて、やっぱり悔しくて。
「……ねえ、たとえ、この世界に必要ないとしても……?」
この世界はとっくにわたし達、“始源拾弐機関”のことなんて必要なくて、神様の思い描く新世界では完全に、恐るるに足らない敵だ。それなのに、わたし達は結局この錯誤世界の秩序を維持するための機能として存在しなくてはならない。今さらこの世界のどこに守るべき秩序なんてあるのだろうか。
「それなら、わたし達は何のために存在しているんだろう」
ずっと前、わたしは、自分がこの世界に必要なのかどうかわからなかった。
この物語の主人公がわたしであるべき理由を見いだせなかった。
いや、まだわからないままだ。
だけれども、わたしが必要じゃない理由もなかったんだ。
無色透明で何も持たないわたしでも、きっと存在理由がある。それを探す物語だ。
だからこそ、“始源拾弐機関”をただのシステムなんかだと思いたくない。彼らにだって胸躍る物語とこの壊れてしまった世界にだって存在するべき理由が必ずあるはずなんだ。どれほどの時間が掛かってもわたしはそんなお話を聞いてみたい。
……でも、神様には? あの飄々とした小烏丸は自身の存在理由を教えてくれるだろうか。きっと教えてくれないだろうな。
「我は存在定義を司るもの。だが、我には存在理由は分からぬ」
「うん、わたしにもわからない。だけど、きっとそれはだれかが司っていたり教えてくれるようなものじゃないと思うんだ。それは、見つけるもの、だもの」
「そうか、そなたはそれを探しているのだな」
「そう、わたしの物語はそういう物語、わたしがわたしの足でわたし自身を探すわたしのための物語」
「……素敵な物語だ。しかし、こんなにも小さな足で、しかも裸足で、我らはそなたをたった独りで歩かせてしまったのだな、すまない、心より謝罪したい」
「んーん、だ・か・ら、これはそういう物語だからいいんだって」
ホントはもっと穏やかな旅路になると思っていたんだけどね、ちゃんとかわいい靴も履いて、あのマイペースな馬車にまったり揺られたりなんかしちゃって。そして、どこかで世界を守っているような大きな機械鎧に出くわして戦々恐々とするんだ。
そんな物語のはずが、小鳥遊 小烏丸とかいう訳わからんのが勝手にわたしの物語をテコ入れしやがったせいで、こんな殺伐としたお話になっちゃったけど。わたしのモチベーションの低下でエタっちまったらタダじゃおかないぞ。
「それに、この物語、実は独りだったときなんてあんまりないのよ?」
そう、わたしのそばにはいつも誰かがいてくれた。そのおかげで楽しかったこともさみしかったこともあって、だから、わたしが独りだった、なんて感じたこともなかった。まあ、それにはいつも唐突で理不尽かつ不条理な別れが伴ってはいたのだけれども。
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