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白紙→描写
ーー 【 】 ーー???
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「助けてくれてありがとう、ほんとにありがとう。感謝してもしきれないわ」
「どういたしまして。それに、あんなところに引っ掛かった女の子を見つけといて、さすがに助けないわけにはいかないしな」
「……それは、そうね」確かにすぎる。
「それで、キミの名前は? あんなところで何してたんだい?」
ばさりとフードを外しながら。頑丈そうな革のフードはきっと枝が頭や目に刺さらないようにしていたんだ。彼はこの森に慣れ親しんでいる。木こりなのか、猟師なのか、はたまた両方とも? 彼はこの森と生きている。
無造作に切られた短い金髪は汗とフードを被っていたせいで少しぼさぼさになっている。少し日焼けした無骨な顔の中で、わたしの2倍はありそうなそのがっしりとした体格に似合わない穏やかそうな緑色の小さな目が、ほん少しの……好奇心だろうか、に輝いていた。わたしよりもずっと年上、だけど、どこか少年みたいに無邪気な……あ、待って、わたし、年齢不詳だ。……生後1時間くらい?
空を墜落中、わたしは自分の名前を思い出した。ラフィーナには教えてあげられなかったけど、今なら言える。
「――えっと、わたしの名前は、【透明幻想・錯綜少女基底】…………たぶん」
ラフィーナみたいに堂々と軽やかに、そして、あっけなく尻すぼみに。
彼は明らかに怪訝な表情をした。もしかしたら機嫌を損ねたのかもしれない。せっかく助けた少女が意味不明な妄言を吐いている、と。
自分でもおかしいと思ったもん。自分でも驚いてる、信じられない。こんなのがわたしの名前のはずがない。きっと、ラフィーナ・アストランチア・ペールホワイトみたいなかわいい名前だって思ってたのに。
でも、わたしの口から、いや、本質から、存在定義からすらりと出てきたのは確かに、【透明幻想・錯綜少女基底】、という名前だった。いや、名前かどうかすらあやしいけれど、それでも、いまのところこれだけがわたし自身を確かに定義する唯一のもの。
わたしはこれしか持っていない。
この世界に存在しているわたし自身、という違和感よりもごく自然に、それがわたしの名前だと受け入れられた。認めたくはないけど。
そして、この名前はどうやらこの世界では明らかに異質みたいだった。
「なんだそれ? 大丈夫か? 頭でも強く打ってるんじゃ……」
「だ、大丈夫だと思うけど、もしかしたらそうなのかも」
慌てて誤魔化し。
「あー、えーっと、わたしの名前は、基底……キティ、そう、キティよ。ただのキティ。キティって呼んで」
ただのキティ、だなんて。ふふ、まるでラフィーナみたいな言い方ね。なんとなく表情には出さずに苦笑。
「そうか、キティ、か。とりあえず無事みたいでよかったよ。オレの名前はケヴィン。ケヴィン・ハンターマークだ」
まだ少しだけ疑惑の眼差しを向けるケヴィンはそれでも皮の手袋を外して右手を差し出してきた。びくり、一瞬身構えちゃった。
これが何の意味なのかわからない。けど、きっと友好的なものだと思う。だからわたしもケヴィンと同じように右手を伸ばしてみる。
と、どうやらこれはお互いの右手が触れそうだと思って、ゆっくりと恐る恐るケヴィンの右手に触れてみる。間違っていたらどうしよう。ばくばくと自分の鼓動が聞こえる気がする。
「よろしく、キティ。良ければオレが住んでいる村まで案内しようか? 君はぼろぼろでしかもだいぶ疲れているみたいだ。何もない村だがこの森で野宿するよりはゆっくりと休めると思うぞ」
ケヴィンはわたしの右手を握った。良かった、間違ってなかった!
ケヴィンの手は全然痛くなくて、むしろまるでわたしの手がガラス細工か何かだと思っているみたいに優しかった。確かに、ケヴィンの手はわたしの手を覆い隠してしまうんじゃないかってくらいに大きかったけど。
「……キティ、君の手はとても冷たいな、身体が冷えているのか?」
「え? うーん、少なくとも肝が冷えるような体験はしたばかりね」
それで、わたしもよくわからないけど、きっとこれは友好的な挨拶なんだと思ってケヴィンのごつごつして大きな手をそっときゅっと握り返した。
この世界ではじめてのコミュニケーションはどうやら上手くいったみたい。少なくともわたしはそう思うわ。
「よろしくね、ケヴィン。そう、わたしはとってもくたくた。身体中どこもかしこも痛いし、服はぼろぼろでかわいくないし、おまけに何も持ってない」
「……そんな極限状態の君があんなところで何をしていたんだ?」
「物語を始めようとしていたの。それで空から堕ちてアナタに助けられた」
「……君は一体何者なんだ?」
ーー there was a dear little girl ーー
「どういたしまして。それに、あんなところに引っ掛かった女の子を見つけといて、さすがに助けないわけにはいかないしな」
「……それは、そうね」確かにすぎる。
「それで、キミの名前は? あんなところで何してたんだい?」
ばさりとフードを外しながら。頑丈そうな革のフードはきっと枝が頭や目に刺さらないようにしていたんだ。彼はこの森に慣れ親しんでいる。木こりなのか、猟師なのか、はたまた両方とも? 彼はこの森と生きている。
無造作に切られた短い金髪は汗とフードを被っていたせいで少しぼさぼさになっている。少し日焼けした無骨な顔の中で、わたしの2倍はありそうなそのがっしりとした体格に似合わない穏やかそうな緑色の小さな目が、ほん少しの……好奇心だろうか、に輝いていた。わたしよりもずっと年上、だけど、どこか少年みたいに無邪気な……あ、待って、わたし、年齢不詳だ。……生後1時間くらい?
空を墜落中、わたしは自分の名前を思い出した。ラフィーナには教えてあげられなかったけど、今なら言える。
「――えっと、わたしの名前は、【透明幻想・錯綜少女基底】…………たぶん」
ラフィーナみたいに堂々と軽やかに、そして、あっけなく尻すぼみに。
彼は明らかに怪訝な表情をした。もしかしたら機嫌を損ねたのかもしれない。せっかく助けた少女が意味不明な妄言を吐いている、と。
自分でもおかしいと思ったもん。自分でも驚いてる、信じられない。こんなのがわたしの名前のはずがない。きっと、ラフィーナ・アストランチア・ペールホワイトみたいなかわいい名前だって思ってたのに。
でも、わたしの口から、いや、本質から、存在定義からすらりと出てきたのは確かに、【透明幻想・錯綜少女基底】、という名前だった。いや、名前かどうかすらあやしいけれど、それでも、いまのところこれだけがわたし自身を確かに定義する唯一のもの。
わたしはこれしか持っていない。
この世界に存在しているわたし自身、という違和感よりもごく自然に、それがわたしの名前だと受け入れられた。認めたくはないけど。
そして、この名前はどうやらこの世界では明らかに異質みたいだった。
「なんだそれ? 大丈夫か? 頭でも強く打ってるんじゃ……」
「だ、大丈夫だと思うけど、もしかしたらそうなのかも」
慌てて誤魔化し。
「あー、えーっと、わたしの名前は、基底……キティ、そう、キティよ。ただのキティ。キティって呼んで」
ただのキティ、だなんて。ふふ、まるでラフィーナみたいな言い方ね。なんとなく表情には出さずに苦笑。
「そうか、キティ、か。とりあえず無事みたいでよかったよ。オレの名前はケヴィン。ケヴィン・ハンターマークだ」
まだ少しだけ疑惑の眼差しを向けるケヴィンはそれでも皮の手袋を外して右手を差し出してきた。びくり、一瞬身構えちゃった。
これが何の意味なのかわからない。けど、きっと友好的なものだと思う。だからわたしもケヴィンと同じように右手を伸ばしてみる。
と、どうやらこれはお互いの右手が触れそうだと思って、ゆっくりと恐る恐るケヴィンの右手に触れてみる。間違っていたらどうしよう。ばくばくと自分の鼓動が聞こえる気がする。
「よろしく、キティ。良ければオレが住んでいる村まで案内しようか? 君はぼろぼろでしかもだいぶ疲れているみたいだ。何もない村だがこの森で野宿するよりはゆっくりと休めると思うぞ」
ケヴィンはわたしの右手を握った。良かった、間違ってなかった!
ケヴィンの手は全然痛くなくて、むしろまるでわたしの手がガラス細工か何かだと思っているみたいに優しかった。確かに、ケヴィンの手はわたしの手を覆い隠してしまうんじゃないかってくらいに大きかったけど。
「……キティ、君の手はとても冷たいな、身体が冷えているのか?」
「え? うーん、少なくとも肝が冷えるような体験はしたばかりね」
それで、わたしもよくわからないけど、きっとこれは友好的な挨拶なんだと思ってケヴィンのごつごつして大きな手をそっときゅっと握り返した。
この世界ではじめてのコミュニケーションはどうやら上手くいったみたい。少なくともわたしはそう思うわ。
「よろしくね、ケヴィン。そう、わたしはとってもくたくた。身体中どこもかしこも痛いし、服はぼろぼろでかわいくないし、おまけに何も持ってない」
「……そんな極限状態の君があんなところで何をしていたんだ?」
「物語を始めようとしていたの。それで空から堕ちてアナタに助けられた」
「……君は一体何者なんだ?」
ーー there was a dear little girl ーー
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