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Prologue

異世界情緒ーーPrologueーー

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「とりあえず魔王に会いに行こうかの」

「「え゛っ!?」」

 あまりにもお気楽な調子に思わず変な声を上げてしまったわたしとエルルカ。

 ケヴィンが言ってたっけ、魔王はその昔、世界の半分を支配していた悪いヤツだって。そんなヤツに会いに行くなんて正気かしら、このおじいちゃん。あ、もしかして、とても残念なことだけど実は、もうすでにボケてしまって……

「魔王、アヴァルギリオン、そやつなら数千年前のこともわかるだろうからな」

 でも、おじいちゃんは相変わらずの調子。馬車を駆るおじいちゃんの背中に向けるわたしの、憐みのこもった眼差しに気付いているのかいないのか。

「と、ところで、ふたりは何か素敵な魔法で戦えたりするのかしら?」

 なんかあまりにもイヤな予感しかしないけど、一応念のために訊いてみる。もしかしたら、いいえ、きっとそうよ、ふたりとも実はすごい魔法使いなんじゃないかしら!?

「え、私? 魔法なんてちょっとした初級程度よ。物を浮かせる魔法は本の整理整頓に便利ね」

「わしはほとんど隠遁した身、何もできん。若い頃はそれなりに魔法の研鑽を積んでおったが、王家直属の教師職に就いて完全に鈍ったわい」

 ふたりともただの好奇心旺盛な普通の研究者だった! あれ、これ、大丈夫? わたし、死ぬ? 物語、終わっちゃう?

「ふふ、大丈夫大丈夫、盗賊も魔物もめったに現れるものじゃないから」

 あまりにも絶望的な表情をしていたのだろうか、わたしの顔を覗き込んだエルルカは吹き出してしまうのを堪えながら、わたしの頭をぽむぽむ撫でた。

 今日は冒険にはもってこいのさわやかな快晴。

 遮るもののない平原は少し暑くて、林の木陰に入れば涼しい。優しく風が通り過ぎれば、ふわり、草と土の匂いを運んでくれてわたしの長い白髪をそっと揺らす。

 馬車に積んだ食料は次の街までは十分もちそうなくらい。着替えはエルルカの分が大半で街に着くたびどんどん増えていく。

 そして、古ぼけた本がその隙間にぎっしり詰め込まれている。

 こんな大荷物を運んでお馬さんは平気なのかしら。

 わたし達を色んな街に連れて行ってくれているこの2頭のお馬さんはずいぶんと穏やかな性格らしく、あの逃亡劇以来、どうやったって急ぎ足にはなってくれない。まあ、わたし達の旅はそんなに急ぐものでもない、冒険はお馬さん達のペースにお任せしながら。

 馬車でののんびり道中、わたしがどこから来たのか、わたしが何をしたのか、わたしは何をしたいのか、今のところ何もわからないままけどわかるところまでを話した。

 わたしの名前、あの白の世界からの創造、或いは脱出、ラフィーナ、という謎の少女。わたしが知っているのはそれだけ。

 それで、話しながら気づいたんだけど、結局のところ、やっぱりわたしは自分自身のことが何もわからないんだ、ってことがわかっただけだった。

 “始源拾弐機関”を探しているのだって、ただ言葉の響きが似ているってだけで、わたしが関係あるかどうかの確証はひとつもないんだもん。

 目的も動機もテーマも魅力すらもない物語。

 まだ真っ白なだけのページ。物語はまだはじまったばかり。

 わたしはそこに何を綴りたいのか。もしかしたらそれを探しているのかも。
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