それは語られなかっただけ

karon

文字の大きさ
上 下
8 / 14

共犯者と主犯

しおりを挟む
 系図を確認してみよう。
 彦人大兄皇子。
 父は敏達天皇、異母兄弟に用明天皇、崇峻天皇、推古天皇がいる。息子は舒明天皇と茅渟王。
 茅渟王の娘が皇極天皇、息子が孝徳天皇。
 つまり天智天皇は彦人大兄皇子の孫でありひ孫であったという。
「なんか、俺、この彦人大兄皇子ってのが怨霊みたいな気がしてきた」
 中大兄の皇子が蘇我氏の焼き討ちを敢行した時は生きていなかったはずだが、確かにこの人怨霊になっていてもおかしくないなと思う。
「山背大兄皇子は一度逃げ延びたが戦って犠牲者が出るのを嫌って自害した、自分の兄弟や妻子にも自害を命じたとかあるが」
「いや、ないから、それに山背大兄皇子が死ねといったとしても皆さん仲良く自殺するわけないだろ」
 太郎ですらわかることだ。自殺なんかするわけない。ましてや我が子を守るためなら普通は戦いを選ぶ。
「戦ったけど負けて皆殺しにされたんだろうなあ」
「入鹿が殺したっていうけど、実行犯巨勢徳太とかいう奴は孝徳天皇の家臣に数えられているわけで、実行犯は孝徳天皇だろうな」
「なるほど、で真犯人もそいつ?」
「いや、入鹿を殺害したのは天智天皇と天武天皇だ、むしろ共犯者のポジションじゃないか」
「共犯者か、つまり四人全員犯人ってことになるんじゃねえの」
「もちろんその通りだ、むしろ真犯人というより主犯を探し出している感じだな」
 とにかく俺はおかきを死守しながら話を続ける。
「孝徳天皇は徳の字天皇だからな、最初から主犯ではないと思っていた」
「怨霊になっても仕方がない天皇ね」
 この話になると太郎の理解は早い。
 孝徳天皇は即位はした、しかしそのあと天智天皇にいびり殺されている。
 それはもう陰険ないびりで、天皇としてなまじ即位してしまったからこそ屈辱的な扱いをこれでもかとされて一人寂しく死んでいった。
 そして、その子孫は皆殺しにされた。
 有間皇子の悲劇が有名だ。まさしく徳の字天皇にふさわしい末路だ。
「まあ、山背大兄皇子が自殺したっていうのはおそらく自分たちの手を汚していないっていうポーズと山背大兄皇子を聖人の子孫に祭り上げるためにしたことだろう」
 俺がそう言うと太郎は首をかしげた。
「だから聖徳太子が誕生した。聖徳太子はその瞬間に聖人となり同時に怨霊になったんだ」 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

不思議な訪問者

ゆきもと けい
ミステリー
かかってきた1本の電話は、40年前に亡くなっている筈の従弟からだった。そんなことが本当にあるのだろうか。電話の主は本当に本人なのか、あるいは偽物なのか…偽物なら目的は何なのか…会って確かめることにしたのだが…一部、実話も含んでおります。読んで頂けたら幸いです。

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

どんでん返し

あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

濡れ衣の商人

鷹栖 透
ミステリー
25歳、若手商社マン田中の平穏な日常は、突然の横領容疑で暗転する。身に覚えのない濡れ衣、会社からの疑いの目、そして迫り来る不安。真犯人を探す孤独な戦いが、ここから始まる。 親友、上司、同僚…身近な人物が次々と容疑者として浮かび上がる中、田中は疑惑の迷宮へと足を踏み入れる。巧妙に仕組まれた罠、隠蔽された真実、そして信頼と裏切りの連鎖。それぞれの alibi の裏に隠された秘密とは? 緻密に描かれた人間関係、複雑に絡み合う動機、そして衝撃の真相。田中の執念深い調査は、やがて事件の核心へと迫っていく。全ての謎が解き明かされる時、あなたは想像を絶する結末に言葉を失うだろう。一気読み必至の本格ミステリー、ここに開幕!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...