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アンビバレンツ
しおりを挟む近付いてくるのはパトカーのサイレンの音。よくわからないが誰かが通報したんだろう。
地下でも最近の携帯は通じるのか、それとも俺たちの後に店に入ろうとして事態に気づいて逃げ出した奴がいたのかは知らないが警察はこの事実を知ったらしい。
さてどうしようか。
警察が踏み込む前にすべてを終わらせなければならない。
俺は横目で敦を見た。いつもとは違っておどおどとした敦の姿はどこかうらぶれて見えた。
大柄な体つきなのにまるで小動物のようにおびえて見える。
敦にとっては目の前の刃物を持った男も怖いがこれからやってくる警察も怖いのだろう。
警察に目をつけられればとっても痛い腹を探られることは間違いないのだから。
そんな怖い目に合わせないように何とか別の世界に一秒でも早く送り込んでやりたいと心から思うのだが。
まず人目が多すぎる。困った、適当に何人か始末してくれないかな。
俺は期待に満ちた目を刃物を持った男に向けた。
一人殺されたら周りの視線はそっちに向かうだろう。そうしたすきに敦を始末できないかと思うのだがなかなか動かない。
このまま警察が乗り込んできた日にゃ。
しかし、結構こういう立てこもり関係はたとえ犯人が未成年でも警察は結構時間をかける。だとすれば余裕はあるか。
いや、あまり逸ってもミスがあってはならない。
俺が刃物男に狙われる可能性、そんなもんあるわけないだろう。俺は誰よりも目立たない男だ。 舞台の真ん中に立っていたってスルーされる。
自分の考えで傷ついてどうする。
思わず自虐したが俺は周囲を見回す。
地下なので、窓はない。店の出入り口は入ってきたあの場所だけだろうか。もしかしたら従業員用の出入り口がある可能性は高いが確定ではない。
店の内装は低いテーブルにソファがあり、カウンター席があった。そのすべてが何となく毒々しい色合いだった。
動くと目立つのでそれ以上は観察できない。
カウンターの奥には刃物があるはずだ。さっきのカクテルにレモンスライスが乗っているのを見た。
まったくもって今日は仕事をするつもりがなかったので、俺の手持ちの武器は何もない。いや、事故に見せかけるためにブラックジャックぐらいしか使わないけど。
「うえ」
うめきごえがきこえた
綺羅が口を押えてえずいている。有機溶剤の臭いで吐き気を催したのだろう。
眉をしかめて必死に耐えているようだ。
「大丈夫か?」
俺がそう声をかけると細い首をフルフルと振った。まずいな、アルコールだけじゃなくてこの手の揮発するものにも弱いのかもしれない。
そして俺は頭を抱えそうになった。敦を始末して綺羅を救う。相反する目的は果てしなく困難だった。
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