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叫び
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男が入って来た当初はとても静かだった。さっきまでせわしなく大声で話していたグループもまるで凍り付いたように黙りこくって男を見ていた。
瞬くほどのつかの間の静寂。
そのあとは爆発するような悲鳴だった。
敦は悲鳴すら上げられず上ずったうめき声をあげて椅子からずるずると転げ落ちた。
もしかしたら腰を抜かしたのかもしれない。
綺羅の方は顔を伏せて、こちらは悲鳴を噛み殺すことに成功していた。
敦を殺る時にあれ、邪魔だな。
あれを先に片づけるべきだろうか。俺は乱入してきた男を観察していた。
筋骨隆々としているが目が逝っちゃっている感じだが。
俺は目立たないながら一応身体は鍛えている。最近はボクササイズも始めた。それなりに動ける自信はある。
人を傷つける度胸は言うまでもなく。死なん程度に痛めつけることは可能だろう。しかしその場合お手柄とか言われて警察に連れていかれるのはちょっと困るが。
それにあれはあくまで前座、本命がいるんだし。
俺は敦を横目で見た。敦は歯の根が合わないようだ。そして綺羅はどこかいぶかしむような目で俺を見ていた。
「なんだか嫌な目で敦を見ていたね」
思わず喉がぐうっとなった。なんでこんな時にこいつは冷静に俺を観察なんかしているんだ。
だがそれ以上のリアクションは取れなかった。
有機溶剤の頭がくらくらするような異臭が濃くなった。
後ろに置いてあったらしいポリタンクを床にまき散らしている。
「逃げるなよ、逃げたらこれに火をつける。あっという間に燃え広がるぞ」
換気の悪い地下の店で放火なんかされたら焼死するより先に一酸化炭素中毒でお陀仏だ。一酸化炭素中毒は言われているほど楽な死に方じゃないらしい。
綺羅はハンカチを取り出して口に当てていた。
俺も袖で口元を覆う。中毒になるのは御免だ。
「でえがやああああ」
わけのわからない叫び声を男が発した。それは笑い声だったらしい男は狂ったように笑う。この異臭の中大きく口を開けて。どうやらまともな思考をしていないようだ。
「うええ」
綺羅は悪臭に辟易しているようだ。奇麗な顔をしかめている。
「大丈夫か」
俺はあえて綺羅の方を介抱してやった。
たぶん、腰を抜かしている姿で俺に介抱されたらその恥で敦の心が傷つくだろう。せめてもの俺の優しさだ。
「あれさあ、薬決めちゃってる?だとしたら神経とかまともに働いているのかな」
綺羅は冷静だ。敦が盛大に泡を食っているからだろうか。他の人間が取り乱したら遅れたものは冷静になるしかないという俗信を思い出す。
「多分、これからどうしてこんなことをしたか叫びだすんじゃないか?」
「なんでわかるの?」
「だってお約束だろう」
俺は正しかった。大声ではあるが極めて聞き取りにくい声で男はいろいろと叫びだしたのだ。
「お前らが悪いんだ」
要約すればそんなことを言っていた。たぶん嘘ではないんだろう。明らかにここにいる連中はいいことをしているとは言い難い。
瞬くほどのつかの間の静寂。
そのあとは爆発するような悲鳴だった。
敦は悲鳴すら上げられず上ずったうめき声をあげて椅子からずるずると転げ落ちた。
もしかしたら腰を抜かしたのかもしれない。
綺羅の方は顔を伏せて、こちらは悲鳴を噛み殺すことに成功していた。
敦を殺る時にあれ、邪魔だな。
あれを先に片づけるべきだろうか。俺は乱入してきた男を観察していた。
筋骨隆々としているが目が逝っちゃっている感じだが。
俺は目立たないながら一応身体は鍛えている。最近はボクササイズも始めた。それなりに動ける自信はある。
人を傷つける度胸は言うまでもなく。死なん程度に痛めつけることは可能だろう。しかしその場合お手柄とか言われて警察に連れていかれるのはちょっと困るが。
それにあれはあくまで前座、本命がいるんだし。
俺は敦を横目で見た。敦は歯の根が合わないようだ。そして綺羅はどこかいぶかしむような目で俺を見ていた。
「なんだか嫌な目で敦を見ていたね」
思わず喉がぐうっとなった。なんでこんな時にこいつは冷静に俺を観察なんかしているんだ。
だがそれ以上のリアクションは取れなかった。
有機溶剤の頭がくらくらするような異臭が濃くなった。
後ろに置いてあったらしいポリタンクを床にまき散らしている。
「逃げるなよ、逃げたらこれに火をつける。あっという間に燃え広がるぞ」
換気の悪い地下の店で放火なんかされたら焼死するより先に一酸化炭素中毒でお陀仏だ。一酸化炭素中毒は言われているほど楽な死に方じゃないらしい。
綺羅はハンカチを取り出して口に当てていた。
俺も袖で口元を覆う。中毒になるのは御免だ。
「でえがやああああ」
わけのわからない叫び声を男が発した。それは笑い声だったらしい男は狂ったように笑う。この異臭の中大きく口を開けて。どうやらまともな思考をしていないようだ。
「うええ」
綺羅は悪臭に辟易しているようだ。奇麗な顔をしかめている。
「大丈夫か」
俺はあえて綺羅の方を介抱してやった。
たぶん、腰を抜かしている姿で俺に介抱されたらその恥で敦の心が傷つくだろう。せめてもの俺の優しさだ。
「あれさあ、薬決めちゃってる?だとしたら神経とかまともに働いているのかな」
綺羅は冷静だ。敦が盛大に泡を食っているからだろうか。他の人間が取り乱したら遅れたものは冷静になるしかないという俗信を思い出す。
「多分、これからどうしてこんなことをしたか叫びだすんじゃないか?」
「なんでわかるの?」
「だってお約束だろう」
俺は正しかった。大声ではあるが極めて聞き取りにくい声で男はいろいろと叫びだしたのだ。
「お前らが悪いんだ」
要約すればそんなことを言っていた。たぶん嘘ではないんだろう。明らかにここにいる連中はいいことをしているとは言い難い。
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