ダークアクターMOB

karon

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困難な状況

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 男は血走った目で俺たちを見下ろしていた。
 俺たちの中では一番背の高いのは敦だがその敦より確実に十センチ以上高い。
 刃物はいつでもさせるような角度で持っている。そしてあのまがまがしい輝きから推察して切れ味の悪いなまくらではないだろう。
 そして男は憤怒の形相を浮かべていた。どういうわけか知らないが怒り狂っている。そして唯一の出入り口であるドアの前で仁王立ちしているわけだ。
「どういうこと?」
 綺羅が首をかしげた。
 素面なのは俺と綺羅だけだろう。他の人間はアルコールかそれとも怪しげな薬で思考回路を鈍らせている。
 それでも事態は明らかで遅れて悲鳴が聞こえたり丸テーブルの下に潜り込もうとしたりと右往左往する姿があちらこちらで見られた。
 俺たち三人は思わず固まっていたがとりあえず地震ではないのでテーブルの下に隠れても無駄と判断した。後はトイレにこもって刃物を避ける方法だが。
「あの、シンナーの臭いがする」
 綺羅が鼻にしわを寄せた。シンナーと言えば危ない遊びが浮かんでくるがもう一つの使い方は火をつければ燃えるということだ。
 それを思い浮かべた瞬間に俺はトイレにこもる作戦をあきらめた。放火されたら逃げ切れないし焼け死ぬのは苦しそうだ。
 綺羅は茫然としているのか立ち尽くしたままだ、敦はどうしていいのかわからない顔をしてその場に立ち尽くしている。
 普通に考えればもうすぐ警察が来るだろう。しかしここはちょっと怪しげな取引をする連中御用達の店だと推察できるし多分外していないと思う。そんな店に警察が来たら痛くもない腹を探られるだろう。
 俺も後ろ暗いところはなくもないけれど、今までの仕事は一応事故に見せかけているので疑われていないんじゃないかなと希望的観測を打ち立ててみる。
 今の段階で警察が来たら一番危ないのは敦だろうな。この店の常連だしおそらく怪しげな取引に手を染めているし。
 しかし、ここで敦が捕まってしまうと敦を始末することができない。いくら何でも留置所に侵入なんてリスキーなことで切るわけがない。
 そしてもう一つ思いついてしまったことが。
 もしあの乱入者に敦が殺されたりしたら、俺のもらえるはずの報酬がどうなってしまうのだろう。
 やばい、俺の金が手に入らなくなってしまう。
 警察に捕まってもこの乱入男に殺されても俺には一文の得もない。これは困る。
 俺は報酬で事務に言った李演技の勉強用のDVDなんかを手に入れたりしている。その金が入らないのはマジで困る。
 さっさと敦を殺さないと、それも今すぐにでも。
 しかしこの衆人環視の中もうすぐ警察が来るというこの状況はあまりにも厳しい。
 その場合、あの男を始末するのが先決か。
 俺は刃物を手にして怪しげな呼吸をしている男を横目で見た。薬でもやっているのか目の焦点が合っていない。
 そして、綺羅はどうしているのか。
 怯えている様子はない。さて、どうしようか。
 今までの中で一番困難なミッションに俺は大きく息を吐いた。 
 
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