ダークアクターMOB

karon

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光り輝く舞台

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 燦然と輝くスポットライト。俺はそれにまぶしそうに目を細めた。
「おいM、どうした?」
 自分の出が終わった綺羅がくっきりと書いたマスカラ越しに俺を見た。綺羅の衣装には大きく血糊が飛んでいた。
 さっき盛大に殺された後だ。
「俺がしけた顔してるのはいつものことだろ」
 舞台では主役の敦が大きく身振りをして死んでいた。この芝居バタバタ人が死ぬなあ。
 敦は大柄で毎日ボディビルのトレーニングを欠かさない引き締まった身体のあいつは肉体派俳優と呼ばれている。顔はそこそこだが身体がとても目立つ男だ。
 俺の職業は舞台俳優。万年わき役だが所属している劇団は結構大きいし、人気がある。
 俺は器用な役者と呼ばれているが、いまいち地味だと言われている。
 そういうわけで仲間内からMと呼ばれている。モブのMだ。
 本当は俺の本名のイニシャルが二つともMだったことからついたあだ名だがそのまま定着してしまっている。やけで芸名もそれにした。
 目の前にいる綺羅は芸名通りキラキラしい性別不詳の美形だ。
 メイクなしでメイクした俺より映える顔をしていた。一応性別は男だそうだ。俺が確認したわけではないが、なんでも本名は竜児だそうだ。
 肩に届かない程度の髪を垂らしている彼はぱっと見ボーイッシュな女子に見える。
 もう一人沙羅というのもいるが、そっちは正真正銘ボーイッシュ女子だがそっちの方が男子に近いと言われた。
 この二人ぱっと見は似ているのだが赤の他人だという。しかしそのよく似た容姿を利用してよく双子役をやっていたりする。
 男である綺羅が女を演じ女である沙羅が男を演じる倒錯的な演目もあったりする。この二人はそうしたことから妖しい関係を疑われるが、正真正銘友人同士だと言っていた。
 むしろ沙羅は綺羅のことを毛嫌いしている。なぜなら色香というか妖しさガキらの特徴であり、沙羅はむしろ健康的な明るさが売りだ。つまりそのせいで余計綺羅が女に間違われる頻度が多いのだ。
 俺は実力はある。演技力なら劇団でも上位に入る。
 だけど、印象の薄い顔と中肉中背のありふれた体格。そしてどこか吸引力がない。
 綺羅の妖しさとか沙羅の明るさとかそいつなりの個性そんなものがないのだ。
「ああ、俺の出番だ」
 そう言ってスポーツドリンクでのどを潤す綺羅を後にし俺は舞台に出た。
 と言ってもクライマックス、その他大勢と一緒に出て一言二言台詞のある役なのだが。
 非業の最期を遂げたヒーローヒロインの墓の前で俺は誓いの言葉を周りに合わせて叫び俺の出番と舞台は終わった。
 最後はカーテンコール、主役たちの背後で控えているだけだ。
 綺羅は真ん中で喝さいを浴びている。準主役といってもいいくらい目立つ役柄なので当然だが。
 そして、本日の主役を務めた敦は大きく腕を振り上げてアピールしていた。
 いつも俺は陰に沈んでいる。光が明るければ明るいほど俺のいる場所は一層暗い。
 
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