恋の無駄騒ぎ

karon

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第二十一章

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 ドンペリーは朗々と語る。
「泥棒を見つけたら決して近づいてはならん、我らはこの地の領民なのだ、そのような卑しい存在にかかわりあうことはならぬ」
 まことにその通りと衛視たちは答える。
「赤子を泣かす乳母には、早く寝かし付けろと命じろ」
 まったくもってその通りと衛視たちは答える。
「酔っ払いどもは早めに寝かしつけることだ」
「寝ない場合はどうするので?」
「その時は寝るまで待つがいい。どうせそう時はかからないだろう」
 そして咳払いをする。
「明日は領主さまのご息女の婚礼だ、何事もなく終わらせねば」
 まことにまことにその通りと衛視たちは答えた。
 
 べろべろに酔っ払った二人は軒下で大声でわめいていた。
「しかし、よくもまあうまく引っかかったものだな」
 コンラートはゴブレットをもてあそびながら呟く。
「まあ、あれだ、俺は先見の明があるからな」
 ポラチョは大分出来上がっていた。顔は真っ赤になり息も荒くなっている。
「あのマーゴットをたぶらかしたのも先見の明のたまものだ」
「そうか、たまたま引っかかったのがヒローインの小間使いだっただけじゃないのか?何しろ城中の腰元に言い寄っていたじゃないか」
 コンラートの戯言をポラチョは黙って黙殺した。
「俺はマーゴットにおべっかを山ほど使いヒローインのドレスだってお前の方がよく似合う。お前の方が美しいと何度も言った。そしてまんまとマーゴットはヒローインの衣装の一つをこっそり借りて俺とのあいびきにやってきたというわけさ」
「それでごまかせるか?言っちゃなんだがマーゴットとヒローインは似ても似つかないんじゃないか」
「そこはそれだ、ヨハン様がちゃんと場所を考えてくださった。丁度後ろ姿しか見えない場所を選んでベネディクトとペドロ様にご覧になっていただいたという寸法さ」
 ポラチョは胸を張って嘲笑う。
「かくしてヒローインは淫売の汚名を着たわけだ。婚礼の前日男と逢引とは全く持ってふしだらな」
「本当にマーゴットをヒローインだと二人は思い込んだのか」
「それはもう、明日の婚礼ではベネディクトはヒローインのような淫売と婚礼などごめんだと騒ぎ立て、ペドロ様は面目を無くされるだろう。ヨハン様はその有様を見て笑いが止まらないという寸法」
「あわれなもんだ。そのまま嫁ず後家加、明日はヒローインの婚礼ではなく葬列だな」
 そして二人は下品な笑い声を立てた。
「この者どもを捕らえよ。顰蹙なる姫君ヒローイン様にまことに無礼な発言だ」
 ドンペリーが引きつれた衛視たちに告げた。
「確かにとてもまともじゃないことを言っていたようですが。かかわっていいのでしょうか」
「ヒローイン様のためだ仕方あるまい」
 べろべろの二人はあっさりと捕まった。

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