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後始末
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「何をしているんだお前は」
戸棚に隠れていた黒曜はあたりを調べていた兵士にあっさりと見つかった。その黒曜の姿を呆れたように皇帝は見返していた。
非常に説明に困る場所にいた黒曜は何と言って言い逃れようかと悩んだ。
その間に、皇帝の部下たちはてきぱきと事を進めていく。
そして周囲の雰囲気はとてつもなく気まずい。
うずくまったままの翡翠とその傍らに膝をついて慰めようとする弟らしい少年。
いつもついている妓女と兵装の男達はそのまま引き離されて連れていかれた。
そして罪人として、その見知らぬ男は引きずられて連れていかれた、足を怪我しているのだがそんなことはお構いなしという態だ。
「あの、どうしてこちらに?」
「ああ、食料品に毒物を混入させていた不届き者がいたので尋問しているうちに、こちらに別の在任がいるという話を聞きだした」
それ以上の話は聞けないようだった。
その時皇帝が自分のうかつさに歯噛みしていたことも黒曜は気づかなかった。
ありえた話なのに、最初っから想定などしていなかった事実。
恵介達を殺したのは女である。
気づくきっかけは目の前にあったというのに。
そう、翡翠が手元に置きたがった妓女、それはおそらく旧知の人間だったからだろう。
そして、確かに目の前で見たのだ。あの妓女は兵士の戦闘技術を身に着けているということを。
そのことを捕らえた業者の男の言葉を聞くまで思い出しもしなかった。
「あの女が殺した」
もみ消しは双方からのものだった。恵介達側は、よりによって女に殺されたという事実を隠蔽しようとした、そして、そして翡翠の率いた都の住人も翡翠を守るために隠し通そうとしたのだろう。
皮肉といえば、これほど皮肉なことはないだろう。
翡翠を何からかばおうとしたのかといえば、たぶん王宮付近の権力者からだろうと推測できたからだ。
何に利用されるかわからない、美貌の少女ならなおさらだ。
「あの、これからどうなさるおつもりですか」
「なにも、謀反人が離宮内に入り込んだ。それを捕らえた、そしてその手引きをしたものは罰を受ける。それだけだ、それ以外何も起きなかった」
自分にも沈黙を守れと暗に言われているのだろうと判断した。
これは本来なら自分も知るはずのなかったことだ。
「淑妃ですか?」
「かといって位を落とすわけにもいかないがな、あれをあの地位に置いておくのも理由がある」
それからしばらく無言が続いた。
「しかし、さっきのあれが夫婦喧嘩というものだろうか」
その言葉に、答えを期待していないと思ったが、黒曜は心中で思う。
それ絶対違いますからと。
夫婦喧嘩というものを詳しく知らない黒曜でも、あんな殺伐としたものではないと思う。思いたいのかもしれないが。
皇帝が立ち去った後、黒曜は翡翠のもとに歩いて行った。
「手を貸しますよ、歩けますか?」
妊婦をこんなところでうずくまっていさせるわけにはいかない。
「やむをえません、貴方も手伝って」
翡翠の弟に声をかける。
少年は不思議そうな顔をして黒曜を見た。
戸棚に隠れていた黒曜はあたりを調べていた兵士にあっさりと見つかった。その黒曜の姿を呆れたように皇帝は見返していた。
非常に説明に困る場所にいた黒曜は何と言って言い逃れようかと悩んだ。
その間に、皇帝の部下たちはてきぱきと事を進めていく。
そして周囲の雰囲気はとてつもなく気まずい。
うずくまったままの翡翠とその傍らに膝をついて慰めようとする弟らしい少年。
いつもついている妓女と兵装の男達はそのまま引き離されて連れていかれた。
そして罪人として、その見知らぬ男は引きずられて連れていかれた、足を怪我しているのだがそんなことはお構いなしという態だ。
「あの、どうしてこちらに?」
「ああ、食料品に毒物を混入させていた不届き者がいたので尋問しているうちに、こちらに別の在任がいるという話を聞きだした」
それ以上の話は聞けないようだった。
その時皇帝が自分のうかつさに歯噛みしていたことも黒曜は気づかなかった。
ありえた話なのに、最初っから想定などしていなかった事実。
恵介達を殺したのは女である。
気づくきっかけは目の前にあったというのに。
そう、翡翠が手元に置きたがった妓女、それはおそらく旧知の人間だったからだろう。
そして、確かに目の前で見たのだ。あの妓女は兵士の戦闘技術を身に着けているということを。
そのことを捕らえた業者の男の言葉を聞くまで思い出しもしなかった。
「あの女が殺した」
もみ消しは双方からのものだった。恵介達側は、よりによって女に殺されたという事実を隠蔽しようとした、そして、そして翡翠の率いた都の住人も翡翠を守るために隠し通そうとしたのだろう。
皮肉といえば、これほど皮肉なことはないだろう。
翡翠を何からかばおうとしたのかといえば、たぶん王宮付近の権力者からだろうと推測できたからだ。
何に利用されるかわからない、美貌の少女ならなおさらだ。
「あの、これからどうなさるおつもりですか」
「なにも、謀反人が離宮内に入り込んだ。それを捕らえた、そしてその手引きをしたものは罰を受ける。それだけだ、それ以外何も起きなかった」
自分にも沈黙を守れと暗に言われているのだろうと判断した。
これは本来なら自分も知るはずのなかったことだ。
「淑妃ですか?」
「かといって位を落とすわけにもいかないがな、あれをあの地位に置いておくのも理由がある」
それからしばらく無言が続いた。
「しかし、さっきのあれが夫婦喧嘩というものだろうか」
その言葉に、答えを期待していないと思ったが、黒曜は心中で思う。
それ絶対違いますからと。
夫婦喧嘩というものを詳しく知らない黒曜でも、あんな殺伐としたものではないと思う。思いたいのかもしれないが。
皇帝が立ち去った後、黒曜は翡翠のもとに歩いて行った。
「手を貸しますよ、歩けますか?」
妊婦をこんなところでうずくまっていさせるわけにはいかない。
「やむをえません、貴方も手伝って」
翡翠の弟に声をかける。
少年は不思議そうな顔をして黒曜を見た。
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