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ささやかな晩餐
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悪阻はだいぶおさまったようだがそれでも脂っこい料理はきついというので、鈿花は主菜を鶏の蒸し物にした。それに加えて香味野菜入りの粥と酢の物、玉子入りの羹。
「用意された食材に何か異常はなかったの?」
一応やっておくかという具合に、鈿花が匙で一口ずつ口に入れた後貴妃は羹を口にする。
「あったと言えばあったけれど、葱の束に水仙の葉っぱが混じっていましたねえ」
「ふうん」
鈿花と貴妃はかつて食糧難に直面した時のことを思い出した。
正規の野菜だけではとても足りず。思い余って花壇で育てていた花や、その辺の雑草を食べた人たちはとても多かった。
一部は味はともかく食べられるということが分かった。そして一部はシャレにならない毒性を発揮して、屍の山を築いた。
水仙は死にはしないものの、数日身体が使い物にならくなる程度の毒性を発揮していたはずだ。
これから先も毒性のある植物を野菜に混ぜて配達される可能性は十分にある。
「あの時のことは無駄じゃなかったねえ」
かなりの数の毒性植物に二人は詳しくなっていた。
「そういえば、あの神官の中毒って何だったのかしら」
「植物毒じゃないんじゃないかと思いますよ、あれはほとんどの場合、吐き下しでしたしねえ」
「そうね、血を吐くような、もしかしたら毒蛇の毒かもしれないわね、あれは肉を溶かす作用のある毒があるそうよ」
「さもなければ鉱物ですか」
「鉱物は困るわね、匂いで分かりにくいんモノ」
そんなことを話しながら、粥を口に運ぶ。
「水仙がどうかしたのか」
いつの間にか皇帝が部屋の前に立っていた。
慌てて二人は食事を中断して跪いた。
「ああ、食事なら続けろ、それと俺の分はないのか」
「申し訳ありません、羹しか残っておりませんが」
羹を一人分作るのは難しいので、大目に作って具だけ変えて次に回す予定だった。
「まあいい、宰相が来たそうだな」
貴妃は無言でうなずいた。
「羹だけ出してもらおうか、それと貴妃はちゃんと食べるがいい」
泡を食って食事を中断していた貴妃は再び卓に着いた。
「それを作ったのは」
鶏の蒸し物を見て聞いた。
「私です」
鈿花はそれだけを答えた。
「何を言っていた」
「二代前の皇后の話を」
羹をよそって皇帝の前に出す。細かい作法が決まっているかもしれないが、鈿花はそんなもの知らない。
一さじだけ毒身代わりに鈿花が飲んだ。
それからすぐに貴妃の背後で控える。
「旨そうだな」
鶏の蒸し物に物欲しげな視線を向ける。
「事前連絡さえいただけるなら用意しておきますが」
貴妃がそっと釘をさす。一人分より、二人分作ったほうがかえって手間がかからないので鈿花としても否はない。
「いや、そういうことじゃなくお前、どう思った?」
「別に何も、それほど極端でなくとも、歴史を紐解けば似たようなことをなさった方はたくさんいますし」
「ああ、俺もむしろあの皇后はわかりやすいと思うぞ、むしろ俺が本気で気味悪いと思ったのは父のほうだからな」
皇帝は、羹を一口口にした後レンゲをもてあそぶ。
「自分の子が殺されまくっている状況で、よく無心家に子供を作り続けられたもんだ」
そして、貴妃の腹を見た。
「悪阻がきつかったそうだな、これから腹が出てくれば、さぞ重かろう」
「母となるものはすべてこれに耐えているものです。それなしには済みませんから」
「父も、兄と同じだ、何もかも無関心で、ただ周りに流されていただけ、だがそれは皇帝という地位のせいだったのかもしれない。国家を背負うということをまじめに考えていたら気がふれそうになるから、あえて現実を見なかったのかもな」
不意に皇帝な遠い目をした。
「明日また夕餉に来るので用意しておけ」
鈿花は深くお辞儀をした。
「用意された食材に何か異常はなかったの?」
一応やっておくかという具合に、鈿花が匙で一口ずつ口に入れた後貴妃は羹を口にする。
「あったと言えばあったけれど、葱の束に水仙の葉っぱが混じっていましたねえ」
「ふうん」
鈿花と貴妃はかつて食糧難に直面した時のことを思い出した。
正規の野菜だけではとても足りず。思い余って花壇で育てていた花や、その辺の雑草を食べた人たちはとても多かった。
一部は味はともかく食べられるということが分かった。そして一部はシャレにならない毒性を発揮して、屍の山を築いた。
水仙は死にはしないものの、数日身体が使い物にならくなる程度の毒性を発揮していたはずだ。
これから先も毒性のある植物を野菜に混ぜて配達される可能性は十分にある。
「あの時のことは無駄じゃなかったねえ」
かなりの数の毒性植物に二人は詳しくなっていた。
「そういえば、あの神官の中毒って何だったのかしら」
「植物毒じゃないんじゃないかと思いますよ、あれはほとんどの場合、吐き下しでしたしねえ」
「そうね、血を吐くような、もしかしたら毒蛇の毒かもしれないわね、あれは肉を溶かす作用のある毒があるそうよ」
「さもなければ鉱物ですか」
「鉱物は困るわね、匂いで分かりにくいんモノ」
そんなことを話しながら、粥を口に運ぶ。
「水仙がどうかしたのか」
いつの間にか皇帝が部屋の前に立っていた。
慌てて二人は食事を中断して跪いた。
「ああ、食事なら続けろ、それと俺の分はないのか」
「申し訳ありません、羹しか残っておりませんが」
羹を一人分作るのは難しいので、大目に作って具だけ変えて次に回す予定だった。
「まあいい、宰相が来たそうだな」
貴妃は無言でうなずいた。
「羹だけ出してもらおうか、それと貴妃はちゃんと食べるがいい」
泡を食って食事を中断していた貴妃は再び卓に着いた。
「それを作ったのは」
鶏の蒸し物を見て聞いた。
「私です」
鈿花はそれだけを答えた。
「何を言っていた」
「二代前の皇后の話を」
羹をよそって皇帝の前に出す。細かい作法が決まっているかもしれないが、鈿花はそんなもの知らない。
一さじだけ毒身代わりに鈿花が飲んだ。
それからすぐに貴妃の背後で控える。
「旨そうだな」
鶏の蒸し物に物欲しげな視線を向ける。
「事前連絡さえいただけるなら用意しておきますが」
貴妃がそっと釘をさす。一人分より、二人分作ったほうがかえって手間がかからないので鈿花としても否はない。
「いや、そういうことじゃなくお前、どう思った?」
「別に何も、それほど極端でなくとも、歴史を紐解けば似たようなことをなさった方はたくさんいますし」
「ああ、俺もむしろあの皇后はわかりやすいと思うぞ、むしろ俺が本気で気味悪いと思ったのは父のほうだからな」
皇帝は、羹を一口口にした後レンゲをもてあそぶ。
「自分の子が殺されまくっている状況で、よく無心家に子供を作り続けられたもんだ」
そして、貴妃の腹を見た。
「悪阻がきつかったそうだな、これから腹が出てくれば、さぞ重かろう」
「母となるものはすべてこれに耐えているものです。それなしには済みませんから」
「父も、兄と同じだ、何もかも無関心で、ただ周りに流されていただけ、だがそれは皇帝という地位のせいだったのかもしれない。国家を背負うということをまじめに考えていたら気がふれそうになるから、あえて現実を見なかったのかもな」
不意に皇帝な遠い目をした。
「明日また夕餉に来るので用意しておけ」
鈿花は深くお辞儀をした。
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