たとえるならばそれは嵐

karon

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離宮

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 離宮に着けば各自の部屋に入る。
 これから二か月ここで暮らすため引っ越し荷物を開く。
 衣装は長持ごと持ってきたのでそれをしまう場所に置けばいい。二か月なら気候もだいぶ変わるので形や材質も様々だ。
 その上、季節に合わせた装いもということで衣装は膨れ上がる。
 とても一人分とは思えない。
「たぶん、少ないほうなんでしょうねえ」
 空間はだいぶ余っている。やはり主の性格を考えると、最低限以上を持つ可能性は限りなく低い。
 それを考えるとほかの妃達の衣装は。
 考えたくなくて鈿花はとりあえず今使う衣装だけを出して扉を閉める。

 鈿花の持ってきた衣装を侍女たちに渡すと、さっそくお召し替えだ。
 体調のことであまり公の場に出なかった貴妃だが、さすがに今回ばかりは欠席できない。
 青地に緑の刺繍がびっしりとされた盛装をまとうと、今度は髪結いと化粧になる。
 妓女の化粧と違って上品な化粧になる。
 紅こそ濃い色だが、引く線は細い。
 表情を動かさずじっと化粧が終わるまで動かない。
 背後ではもう一人の侍女が長い髪をまとめていく。
 化粧を終えた侍女も髪結いを手伝い始めた。
 化粧も髪結いも王宮では細かく規則が決まっているらしいので鈿花は手を出せない。
 髪を結いあげたら、次に爪を磨く。
 爪に色を付けず、油で磨くだけにとどめる。そういえば淑妃は爪も真っ赤に染めていたなと鈿花は思い出した。
 徳妃はあまり見なかったが、確か賢妃は染めていなかった。
 結構な時間が経過してようやく侍女が貴妃から離れ、鏡を持ってきた。
 結構大型の鏡で、運んでくるのが大変そうだった。しかし大型の鏡すなわち高級品という法則から、手を出すのを控える。
 うっかり壊した日には弁済など孫子の代までかかっても不可能だからだ。
 鏡の前で立ち上がり、一通り回ってくる。どうもその様子は儀式めいていた。
 そして、すうっと鈿花の前に貴妃が手を伸ばした。
「すまないけれど、支えてくれる?」
 鈿花もそっとその手のひらを握る。
 うかつに転ぶわけにはいかないし、足の悪い貴妃だ、もしものことがあってはまずい。
 妊娠した妃が侍女の介助で歩くのはそう珍しいことではないらしいので、周りは何も言わないだろう。
 鈿花は貴妃の背後に回り右手と右手を重ねた。
 転びそうになったら後ろから支える姿勢だ。身体を預けきる姿勢はまずい。
 二人の侍女が恭しく扉を開けた。

 皇帝とその側近たちがずらりと並んで立っていた。
 中には韓将軍、賢妃の父親の姿も見える。そして、聖職者の衣装をまとった老人。その中には淑妃と貴妃の身内はいない。
 貴妃の場合もともと親族が少ないので仕方がないが、淑妃の場合は、親族が中央に阻害されているとい理由なのでより深刻だ。
 妃達が一礼するが、皇帝は一言だけ声をかけて後は無言だ。
 その様子を後ろで膝をついてみていた鈿花は思う。
 誰をおもんばかっているんだろう。皇后か、それとも韓将軍か。
 一番お気に入りの妃に一言も声をかけないなんて。
 いいのかと思ってみてみても当の貴妃は全く動じていない。
 そのまま妃達は下がって、儀式が始まる。
 妓女たちが踊りだす。本来は鈿花も混ざるはずだったが、貴妃の要請でそれは休んでいる。
 穢れを払う等の儀式としての移動なので、踊りが終わったとたん聖職者たちが前に出て、妙な抑揚の祈りをささげた。
 もともと古来からの祈りの言葉で、抑揚がおかしく聞こえるのは、古い発音が混じっているかららしい。
 私語厳禁なので、ひたすら膝をついた姿勢のまま控えている。
 動かないというのも苦行だ。
 今頃さっきの妓女たちは控室でだらけているんだろうなと筋違いとは思いつつ逆恨みをしてしまうくらい苦行だ。
 だがここまで苦行に耐えたのだからせめて穏健に終わってほしいという希望はあっさり打ち砕かれた。
 祝詞を唱えていた老人が一人血を吐いて倒れた。

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