たとえるならばそれは嵐

karon

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意地

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 元は鈿花からの手紙を読んでいた。
「それじゃ、月姫も一緒に行くのか」
 李恩が手紙をのぞき込む。
「何をしているんだ」
 唐突に声をかけられて二人は飛び上がった。
「いや、何でもありませんよ」
 自分の立場では目上の人のほうが多い。とっさに出る言葉はいつも敬語になった。
「何を読んでいるんだ」
「いや、そこは察してくださいよ」
 そう言って李恩が手紙を隠させた。
「女からの手紙ですよ、見せたらちょっと気まずいと思いますしね」
 嘘ではないが誤解を招くような発言をする。
「ああ、そりゃ野暮を聞いたな」
 その男は見上げるほどに背が高かった。
 中肉中背より少しだけましという程度の元と李恩では比べ物にならないくらい。
「それはそうと、何の用件で」
「いや、あんまり熱心に読んでいたんでね、そんな相手がいたとは知らなかった」
「古い知己ですが、最近古巣に戻ってきたんですよ」
 そう言ってごまかす。
 元と李恩は賢妃の警護をする予定なのだ。こっそり貴妃を手助けをしようなどと企んでいると知られたらいろいろまずい。
 一般には知られていない貴妃の本名で記されているが、それを目の前の男が知らないとは限らないのだ。
 何しろ即位前から皇帝に仕えている相手なのだから。
「英大尉が探していたぞ」
「それはどうも」
 二人はあたふたと駆け出した。その際、懐にしまった手紙を抑えるしぐさに大切なものなのだと感じさせられた。
「やれやれ」
 朱雷はあの二人に常々同情していた。
「韓将軍にあの二人は粘着されているらしい。そんなにも知りたいのか、あの男を殺した男のことを」
 かつて内乱を起こした男。そして、その内乱の途中で殺された男。
 傑物と呼ばれていた男だった。韓将軍は、それを殺めることができた男を異常に警戒している。
 現場でそれを見ていた二人をこうして軍人として拘束するほどに。
 二人が配属されたのは死んだ男のいた領地だった。
 その地では、男は英雄とされていた。そのため皇帝即位後も抵抗は激しかった。そこに二人は英雄を殺した一味として配属されたのだ。
 正直よく生きていたものだと思う。
 韓将軍としては二人が音を上げて、情報を吐くかと思っていたが、一向に二人はそれを口に資しない。
 部下と上司という関係ではあるが、三人それぞれが戦っているような姿だ。
「いい加減にすればいいのに」
 誰にともなくつぶやいた。

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