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月の姫
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一通りの儀式を終えて、妃達はしずしずと降りてくる。
先頭は黒い帯を締めた賢妃だった。
妃たちは薄布をかぶっているので、その造作はわからない。
しかし、その体格はわかる。
一番小柄なのが賢妃、そして、すらりと背が高い淑妃、徳妃と貴妃が同じくらいの中肉中背だろうか。
最後尾にいるのがおそらく貴妃だ。なんだか足元が少しおぼつかないように見える。
体調の悪い妊婦でも、儀式は出なければならないらしい。
その光景を見るともなしに見ていた鈿花は、階段にひざまずいている侍女が妙な動きをしていることに気づいた。
ちらちらと降りてくる妃達を見ている。
まるで目測を図っているようだと思った時、最後尾の貴妃がその侍女のわきを通った。
その瞬間、貴妃の身体がかしいだ。
そのまま滑り落ちるかと思ったが、とっさに足を踏ん張り転倒を避ける。それでもぐらついている身体をすぐ前を歩いていた妃が振り替ええて支えた。
鈿花はそのまま階段を駆け上がった。
貴妃を抱えているもう一人の妃、帯の色からして徳妃だろう。その妃が鈿花をとどめようとした。しかし、侍女の襟首をつかんで鈿花は無理やり引き立てた。
「貴女いったい何を」
いきなり意味不明な行動をした舞姫を胡乱なまなざしで見つめる徳妃、しかし、その侍女の懐に手をやり、それを引き出した。
黄灰色の薄布だった。とても、足元の階段に酷似した色合いの。
「なるほど、この布を階段に敷いておき、踏んだのを確かめて、引っ張ったわけ」
貴妃を狙ったのは妊婦だからだろうか。妊婦なら立ち眩みを起こして倒れてもおかしくない。あるいは腹の子を殺すためか。
鈿花の説明を聞いて、二人の妃が肩をびくつかせた。
貴妃の足腰が思ったよりしっかりしていたのが敗因だが。しっかりと静止していなければならない役目にもかかわらず頭をやたら動かしたのも問題だった。
鈿花にがっちりと首をつかまれているにもかかわらず侍女は無言を貫く。
「そこの貴女、その女を逃がさないようにして、降りなさい」
徳妃は、いかにも人に命令しなれた高慢な口調でそう言った。
それでも小刻みに震えている貴妃を支えている。
鈿花は襟首をつかんだ手を放し、そのまま流れるように肩関節を決めた。
笛のような甲高い悲鳴が聞こえた。
そのまま鈿花は女を引っ張っていく。
鈿花を避けるように賢妃と淑妃が飛びのいた。
そのまま二人は転がるように階段駆け下りた。鈿花はその二人を見下ろしつつ、女を引っ張っていく、背後で、徳妃が貴妃に肩を貸してやりながら、ゆっくりと降りてくる。
騒ぎを聞きつけた衛兵が鈿花と女を取り囲む。
ようやく降りてきた貴妃がその場に膝をついた。
「どうか、その舞姫の罪は問わないでくださいまし」
すぐそばにいる皇帝に膝をついたまま懇願する。
どうやら、階段を鈿花は登ってはいけなかったらしい。
「どうか、お願いします。そのものをお救いくださいまし」
そのか細い声に、聞き覚えがあった。
驚いていないことに驚いていた。
「罪は相殺でいいのではないでしょうか」
徳妃がそう言った。
「場を汚した罪は、この謀反人を捕らえた功績と相殺すべきでございます」
鈿花は女から手を離した。そして、妃達、皇帝に一礼する。
女が衛兵たちに取り押さえられているのが背後の気配で分かった。だが、鈿花は貴妃を視界に収め続けた。
かつて、翡翠より尊い名で呼ばれていた。
天空の唯一無二の宝珠。
月の姫。あまりにも変わりすぎたその姿をただ追っていた。
先頭は黒い帯を締めた賢妃だった。
妃たちは薄布をかぶっているので、その造作はわからない。
しかし、その体格はわかる。
一番小柄なのが賢妃、そして、すらりと背が高い淑妃、徳妃と貴妃が同じくらいの中肉中背だろうか。
最後尾にいるのがおそらく貴妃だ。なんだか足元が少しおぼつかないように見える。
体調の悪い妊婦でも、儀式は出なければならないらしい。
その光景を見るともなしに見ていた鈿花は、階段にひざまずいている侍女が妙な動きをしていることに気づいた。
ちらちらと降りてくる妃達を見ている。
まるで目測を図っているようだと思った時、最後尾の貴妃がその侍女のわきを通った。
その瞬間、貴妃の身体がかしいだ。
そのまま滑り落ちるかと思ったが、とっさに足を踏ん張り転倒を避ける。それでもぐらついている身体をすぐ前を歩いていた妃が振り替ええて支えた。
鈿花はそのまま階段を駆け上がった。
貴妃を抱えているもう一人の妃、帯の色からして徳妃だろう。その妃が鈿花をとどめようとした。しかし、侍女の襟首をつかんで鈿花は無理やり引き立てた。
「貴女いったい何を」
いきなり意味不明な行動をした舞姫を胡乱なまなざしで見つめる徳妃、しかし、その侍女の懐に手をやり、それを引き出した。
黄灰色の薄布だった。とても、足元の階段に酷似した色合いの。
「なるほど、この布を階段に敷いておき、踏んだのを確かめて、引っ張ったわけ」
貴妃を狙ったのは妊婦だからだろうか。妊婦なら立ち眩みを起こして倒れてもおかしくない。あるいは腹の子を殺すためか。
鈿花の説明を聞いて、二人の妃が肩をびくつかせた。
貴妃の足腰が思ったよりしっかりしていたのが敗因だが。しっかりと静止していなければならない役目にもかかわらず頭をやたら動かしたのも問題だった。
鈿花にがっちりと首をつかまれているにもかかわらず侍女は無言を貫く。
「そこの貴女、その女を逃がさないようにして、降りなさい」
徳妃は、いかにも人に命令しなれた高慢な口調でそう言った。
それでも小刻みに震えている貴妃を支えている。
鈿花は襟首をつかんだ手を放し、そのまま流れるように肩関節を決めた。
笛のような甲高い悲鳴が聞こえた。
そのまま鈿花は女を引っ張っていく。
鈿花を避けるように賢妃と淑妃が飛びのいた。
そのまま二人は転がるように階段駆け下りた。鈿花はその二人を見下ろしつつ、女を引っ張っていく、背後で、徳妃が貴妃に肩を貸してやりながら、ゆっくりと降りてくる。
騒ぎを聞きつけた衛兵が鈿花と女を取り囲む。
ようやく降りてきた貴妃がその場に膝をついた。
「どうか、その舞姫の罪は問わないでくださいまし」
すぐそばにいる皇帝に膝をついたまま懇願する。
どうやら、階段を鈿花は登ってはいけなかったらしい。
「どうか、お願いします。そのものをお救いくださいまし」
そのか細い声に、聞き覚えがあった。
驚いていないことに驚いていた。
「罪は相殺でいいのではないでしょうか」
徳妃がそう言った。
「場を汚した罪は、この謀反人を捕らえた功績と相殺すべきでございます」
鈿花は女から手を離した。そして、妃達、皇帝に一礼する。
女が衛兵たちに取り押さえられているのが背後の気配で分かった。だが、鈿花は貴妃を視界に収め続けた。
かつて、翡翠より尊い名で呼ばれていた。
天空の唯一無二の宝珠。
月の姫。あまりにも変わりすぎたその姿をただ追っていた。
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