たとえるならばそれは嵐

karon

文字の大きさ
上 下
7 / 73

再就職

しおりを挟む
「馬鹿かあんたら」
 そう怒鳴りつけている女の後ろ姿。
 ああ、そうだ、確か名前は風花、料理店の娘で、今は店を切り盛りしているらしい。ようやく思い出した。
 鈿花はずきずきと痛む頭を抱えながら起き上がる。
「大丈夫なの、倒れたって」
 振り返った風花に鈿花は小さく首を振っていた。
「夢を見てたわ、月姫のところで、勉強を習ったり、佶家の護衛達と戦ったり、あのころの夢を」
 鈿花はそう呟くと風花はますます顔をしかめる。
「そう、ろくに説明もせずにあそこに連れて行ったなんて、そりゃ倒れるわよ」
 ぎろっと風花が、元と李恩を睨みつけた。
「それはそうと、これからどうするの?」
「わからない」
 囚われの身から急に自由になれた。だけど家族はもういない、天涯孤独の身の上になったことを自覚したばかり、そんな鈿花にこれからの展望を考えるなど荷が重かった。
「よかったら、うちに来てくれていいのよ、最近お客も多いし、手伝いの人を雇おうかと思っていたところなんだから」
「そうか、それもいいかもね」
 候補の一つとして考えておこう。
「とりあえず、一度王宮に戻るわ」
 今後のことを考えると、一度王宮に戻らずそのまま風花に雇われるのも問題になる気がした。
「あの、さ俺らも悪気があったわけじゃなくて」
 元がおどおどと口を開く。
「言いずらい気持ちはわからないでもないから、言われても信じられない気もしただろうし」
 そんな質の悪い嘘をつく連中だとも思っていないが。
「王宮であいさつしたら、一度こっちに戻るし、その時に話そう」
 鈿花はそう言って、よろけながら立ち上がる。
 どうやら店の奥の従業員用の食堂に運び込まれていたようだ。
「じゃ、一度戻ろうか」
 そう言って、元と李恩を見た。
「一応身元引受人だし、勝手に就職しちゃまずいでしょ」

 王宮に戻ると、なんだか偉そうな初老の女官が鈿花を待ち受けていた。
「何をしていましたか?」
「いえ、街で食事を」
 なんとなく威圧感を感じて鈿花は後ずさる。
「本日は貴女に、任命書を手渡さねばなりません」
 いきなり言われて、理解ができなかった。
「王宮付きの舞姫として採用が決まりました」
 思わず眼玉を落としそうになる。
「あの、どうしてでしょうか」
「貴妃様が、自分のせいで、何やら縁を切られたそうだと、それで王に頼んでくださったのです、貴妃様の慈悲に感謝しなさい」
 実は就職が決まりそうだったのですがと言いずらい雰囲気だ。
 王宮で雇われた舞姫がどういう職務なのかちょっとわからないが、今までより待遇はいいだろうと鈿花は覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔石交換手はひそかに忙しい

押野桜
ファンタジー
メーユ王国の2級文官、イズールは「お年寄り専門」の魔石交換手。 辺境勤務の騎士団第4団団長アドルとの一日一回わずかな時間の定期連絡が楽しみの地味な毎日だ。 しかし、ひょんなことから国一番の「謎の歌姫」をすることになってしまい……?!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~

山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝 大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する! 「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」 今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。 苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。 守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。 そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。 ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。 「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」 「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」 3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

転生召喚者は異世界で陰謀を暴く~神獣を従えた白き魔女~

*⋆☾┈羽月┈☽⋆*
ファンタジー
両親を事故で亡くし、叔父夫婦のもとへ引き取られた少女・白銀葵。 遺産目当てだった叔父夫婦からは虐げられ、冷遇されていながらも ”家族として認めてほしい” ”必要な存在になりたい” という淡い希望を抱き続けていた。 そんなある日、道路へ飛び出した子供を救うため命を散らした。 次に目を覚ました場所は神界。 時空の女神クロノスと出会い、葵は自身の魂に特別な力が宿っていることを知る。 その答えを探すため異世界へ転生することになり、シエル・フェンローズとして新たな人生を歩む事になった。 召喚の儀式中、何者かに妨害されて危険区域「ヴェルグリムの深森」へと飛ばされてしまう。 異世界で次第に明らかになっていくシエルの正体。 彼女の召喚が妨害された背景には、世界を揺るがすほどの陰謀が隠されていた……。 前世で孤独だった少女が異世界で出会った仲間と共に、隠された真実を暴いて少しずつ成長していく光の物語――。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...