風に溶けた詩

karon

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 メイフェザー氏はそのまま行方不明ということになった。行方不明になっていた当日自力で帰ってくることもなく昼になって森を捜索したが彼の姿が見えなかった。
 連れてきた女は全く何も知らないと言い張っていた。
 だいぶ混乱し本当に事情が分かっていないように思えた。
 アリスの父親はできる限り問いただし、かつてこの地に住んでいた詩人の未発見の遺作がここにあると信じ込んでいたという話を聞きだした。
 むろんその話を聞いて彼は笑い飛ばした。
 そんなものが発見されたらとっくに発表していると。またくだんの詩人の作風はバドコック氏とは違いすぎるために自分の作品として発表するのは最初からなかった。
 メイフェザーの親族がしばらくこの村に滞在し事情を説明され、また付近の探索を行ったがやはり彼の存在を見つけることはできなかった。
 その痕跡すら見つからないまま日々は過ぎていく。
 アリスはかつて遺跡のあった丘にいた。
 エイミーに聞いたけれどデイジーの姿は見えないらしい。
 最初はメアリーのようにデイジーが見えなくなったのかと思った、だけどエイミーも見えないということならデイジーは本当にいないようだ。
 結局デイジーはどうなったんだろう。
 アリスはぼんやりと折れた柱を眺めていた。
 ふわふわの白髪をなびかせた老人が倒れた柱を調べていた。
「おや、アリスちゃん」
 老人はにっこりと笑う。彼は何度もこの丘を調べていた学者だった。
「どうしたんだね」
「ちょっとね」
 顔見知りの老人にアリスは少しだけ笑って見せた。
「何を持っているんだね」
 アリスが持っていた本に目を止めた老人は尋ねたがアリスはそっと本の表紙を見せた。ゲートの詩集、あれほどメイフェザーの求めていたものがどんなものなんだろうかと思い手に取ってみた。
「詩集か」
 アリスの父親が詩人であることは知っていたのでその娘が詩集を持っていてもそれには疑問を感じなかった。
「柱の下に骨があったって言ってたね」
「ああ、まず死体を埋めてその上に柱を立てたらしい、ここは墓地だったんだろうか」
「そうなの?」
 アリスはふと思い出した。デイジーの背後にいた男女はそろって似たような年齢だったことを思い出す。
 もしかしたら柱の下の骨は彼らだったんだろうか、だけど墓ならもっと年齢がばらけているのではないだろうか。
 そんなことを考えながらアリスは草の上に座って本のページをめくる。
「あれ、これは」
 老人が何かつぶやく。
 アリスが本を置いて老人のほうに向かう。
 風がページをめくっていく。そして最後のページにはこう記されていた。
 失われし最愛の娘デイジーに捧ぐ。
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