風に溶けた詩

karon

文字の大きさ
上 下
15 / 18

合唱

しおりを挟む
「デイジー?」
 メイフェザーはアリスのつぶやきを怪訝そうに聞いた。
「デイジーが歌っていたの」
 アリスはたどたどしく答えた。
 メイフェザーは大きく舌打ちをした。
 またはずれだ、だが今度こそ本物だろう。
「デイジーか、それはどこにいる」
 メイフェザーは周囲を見回す。しかし彼の目はそれらしい存在をとらえることができない。
 アリスは指を前方に突き出した。アリスの目にはそこにたたずむデイジーの姿が見えていたのだ。
 そしてデイジーの後ろから湧き出す人影。それもアリスには見えているがメイフェザーには見えていなかった。
「デイジー?」
 アリスは後ろに後ずさる。
「デイジーはこっちか」
 メイフェザーがデイジーのいる方向に人の形の複数の影が見えるところに向かって突っ込んでいく。
 アリスの耳は歌をとらえる。
 聞こえてきたのはまるで通じない言葉で歌われた歌。
 そしてデイジーの背後に複数の人影が見えてきた。
 それらは全員見慣れない衣装をまとった男女たちだった。
 はっきりとその容貌が見えてくると彼らがアリスの見慣れたこの村の住人とは違った人種であるように思えた。はっきりとは言えないが顔立ちの骨格が違う気がする。
 着ているのはシュミーズのようにずるずるとした白い服に何故か見覚えのある色とりどりの刺繡がびっしりと施されている。
 アリスはそれらを呆然として見ていた。
歌が聞こえる。デイジーの背後にいる大人たちが歌っている。
 そして聞きなれた歌声、デイジーも彼らに唱和して歌っている。
 その意味が一言たりとも聞き取れないその歌をデイジーも歌っていた。
 アリスは耳を抑えてうずくまる。今までデイジーの歌を聞いていてこんな恐怖を覚えたことがなかったのだ。聞いてはいけない、何か取り返しのつかないことになる、そんな不吉な予感がした。
 メイフェザーはアリスの様子に気づくことなくそれでもまっすぐに見えていないデイジーの方向に歩いて行った。
 唐突にアリスの目の前からデイジーが消えた。
 そして背後にいる男女もまた消える。アリスに残ったのは耳が痛くなるような沈黙。
 完全な無音。アリスの呼吸する音だけが響くようだ。
 何度もこの丘を訪ねたけれどアリスはこの丘がこんなにも静かだったことはどれほどさかのぼっても記憶にない。
 そしてメイフェザーも消えた。アリスは一人でその場にたたずんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アブソル版クトゥルフの呼び声

アブソル・フラルビ
ホラー
狂気の世界クトゥルフ神話。ラヴクラフトの遺したクトゥルフの呼び声を作者は別の方法で、読者に伝える。狂気と暗黒の世界へあなたを誘う。

絶海の孤島! 猿の群れに遺体を食べさせる葬儀島【猿噛み島】

spell breaker!
ホラー
交野 直哉(かたの なおや)の恋人、咲希(さき)の父親が不慮の事故死を遂げた。 急きょ、彼女の故郷である鹿児島のトカラ列島のひとつ、『悉平島(しっぺいとう)』に二人してかけつけることになった。 実は悉平島での葬送儀礼は、特殊な自然葬がおこなわれているのだという。 その方法とは、悉平島から沖合3キロのところに浮かぶ無人島『猿噛み島(さるがみじま)』に遺体を運び、そこで野ざらしにし、驚くべきことに島に棲息するニホンザルの群れに食べさせるという野蛮なやり方なのだ。ちょうどチベットの鳥葬の猿版といったところだ。 島で咲希の父親の遺体を食べさせ、事の成り行きを見守る交野。あまりの凄惨な現場に言葉を失う。 やがて猿噛み島にはニホンザル以外のモノが住んでいることに気がつく。 日をあらため再度、島に上陸し、猿葬を取り仕切る職人、平泉(ひらいずみ)に真相を聞き出すため迫った。 いったい島にどんな秘密を隠しているのかと――。 猿噛み島は恐るべきタブーを隠した場所だったのだ。

滅・百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話

黒巻雷鳴
ホラー
目覚めるとそこは、扉や窓のない完全な密室だった。顔も名前も知らない五人の女性たちは、当然ながら混乱状態に陥り── あの悪夢は、いまだ終わらずに幾度となく繰り返され続けていた。 『この部屋からの脱出方法はただひとつ。キミたちが恋人同士になること』 疑念と裏切り、崩壊と破滅。 この部屋に神の救いなど存在しない。 そして、きょうもまた、狂乱の宴が始まろうとしていたのだが…… 『さあ、隣人を愛すのだ』 生死を賭けた心理戦のなかで、真実の愛は育まれてカップルが誕生するのだろうか? ※この物語は、「百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話」の続編です。無断転載禁止。

禁踏区

nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。 そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという…… 隠された道の先に聳える巨大な廃屋。 そこで様々な怪異に遭遇する凛達。 しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた── 都市伝説と呪いの田舎ホラー

出雲の駄菓子屋日誌

にぎた
ホラー
舞台は観光地としてと有名な熱海。 主人公の菅野真太郎がいる「出雲の駄菓子屋」は、お菓子の他にも、古く珍しい骨董品も取り扱っていた。 中には、いわくつきの物まで。 年に一度、夏に行われる供養式。「今年の供養式は穏便にいかない気がする」という言葉の通り、数奇な運命の糸を辿った乱入者たちによって、会場は大混乱へ陥り、そして謎の白い光に飲み込まれてしまう。 目を開けると、そこは熱海の街にそっくりな異界――まさに「死の世界」であった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...