風に溶けた詩

karon

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知られざる

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 その日、メイフェザーは所用があって出版社に来ていた。
 それが目に入ったのは本当に偶然だった。
 書籍の校正をしている社員が困ったような顔をしていた。
「どうかしたのか?」
 灰色の髪をした貧相な男だった。それは折り目の着いた紙束 を悩ましげに見ていた。
「それは?」
 メイフェザーの問いに男は何やら呟いた後答えた。
「これはバドコック殿から届いたものなのですが」
 それは古の詩人の詩だった。本来はバドコックのオリジナルの詩が届くはずなのだが届いたのはそれだった。
「まさか盗作かね」
「いくら何でもこんな有名な詩をですか?」
 紙を手にその男は苦笑する。
 そしてメイフェザーは紙束を手にした。
 それはあまりに有名な詩ばかりだが見慣れない詩があった。
「これはいただいていいかね」
 それはその時はただの気まぐれだった。
「問い合わせてみますしかしバドコック氏は結構遠い所に住んでいるので時間がかかりそうですね。間に合うかな」
 ポリポリと自分の頭を書いてため息をつく。それ以上その男は紙に興味をなくしたらしい。
 そして数枚に一枚ある記憶にない詩を読んでみた。
 これは間違いなく同じ人間の手になるものだと確信した。
 知られていないかの有名な詩を書いた詩人の詩。
「これはとんでもない発見だ」
 男はバドコックに問い合わせる手紙を書く男を見た。そして封筒に書かれた住所を確認する。
 バドコックはその詩人がかつて住んでいた地所に住んでいた。
 まさかと思う。
 メイフェザーは上ずった声が自分ののどから出るのを感じた。
「後日事情を教えてくれ」
 そうメイフェザーがそう言った期待はしていなかったが律義に数日後事情をその男は教えてくれた。
「お嬢さんがタイプライターの練習をした紙を間違って送ったそうですよ」
 実につまらない話だと男はそう言った。
「たまたま詩集を練習に使ったんでしょう」
 その詩集なら持っている。あの詩は載っていない。その詩集は何度も熟読していた。
 もし、何かのはずみにあの詩人の知られざる詩を何かのはずみでバドコックが見つけたとしたら。
 男はちゃんと送られてきたバドコックの詩を製本するための作業を始めた。
 メイフェザーは何度もその詩を読んでいた。
 もしバドコックがそれを発見したとしたら、そしてそれを隠匿したとしたら。
 彼はスケジュールを確認した。なんとしてもバドコックのもとに行かなければならない。
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