風に溶けた詩

karon

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 アリスのレッスンはドアベルが鳴った直後に終わった。と
 メアリーがアリスのバイオリンを取り上げアリスを追い出したのだ。
「邪魔よ」
 それだけ言うとメアリーはピアノの前に座った。そして単純なメロディを自慢げに弾き始めた。
 メアリーの得意げな顔にアリスは唇をかむ。
 この家は森の反対方向に玄関があり、森の側は庭園になっていた。なんとなくアリスは庭に出ることにした。庭ではピアノの音はあまり聞こえない。
 アリスはとっさに庭園のほうに向かった。
 アリスの奏でる不協和音が終わったためかどこかに隠れていたディアレストとリガードがアリスの足元にじゃれついてきた。
 そっくりな猫を見分けるのは大きさしかない。ディアレストのほうが一回りだけ大きかった。
 つまり一匹だけならそれがディアレスとかリガードか見分けるすべはないということだ。
 庭にはエイミーが先に出ていた。
 エイミーはまだ家庭教師に勉強を習う段階には来ていなかった。
 エイミーは褐色の髪を肩のところで切りそろえられていた。
 自分の髪を扱えないからだ。もう少ししたら自分で結べるように伸ばし始めるだろう。
「デイジーいるね」
 エイミーがそっと指さす。
 デイジーが庭園の花をのぞき込んでいた。
 白い花の構造を興味深げに観察している。
「デイジー」
 アリスがそっと声をかけた。デイジーは夢中になっているようだ。花の構造のどこがそんなに興味深いのかアリスにはちっともわからない。
「デイジー?」
 デイジーはどこかを見ているのかわからない目をして振り返る。
 しばらくデイジーは空を見ているがゆっくりと振り返った。
「デイジー、何を見ていたの」
 アリスはデイジーにそう声をかけた。デイジーはぱちぱちと目を瞬かせた。
 そしてにっこりと笑う。そしてデイジーは両手を空に伸ばした。
「デイジー私たちは家に戻るけどデイジーはどうするの」
 デイジーはそっと私の手を握る。デイジーの手は少し乾いてひんやりとしていた。
「どこか行きたいの」
 そう尋ねたらデイジーは二人に先導して家の中に入っていった。アリスの後をエイミーとデイジーもついてきた。
三人が進んだのはこの家で一番大きな部屋、父親の仕事場兼書斎から聞きなれない声が聞こえた。
 アリスはそっとドアの隙間から中の様子をのぞき込んだ。
 少々枯れた声だが老人というほど年老いてはいないようだ。
 アリスは驚いた。髪の生え際と眉毛が驚くほど広い。髪の色は濃くのっぺりとした色白の顔に小さな目鼻がついているような顔なので余計に額がだだっ広く見えた。
 そして書いたような口ひげを生やしている。
 痩せて背の高い父親と違って背丈こそ父親よりやや低いが身体の厚みは倍近くありそうだ、その人は背後に女性を連れていた。
 その女性もとても背が高い。
 父親と二人向かい合って何やら話し込んでいるようだ。
 ぼそぼそと聞こえる声を何とか拾おうとアリスはそっとドアに張り付いた。
「随分とあちらにいらっしゃらないのですね」
 アリスは物心つく前にこの家に越してきた、エイミーはこの家で生まれた。メアリーはこの家に越してくる前のことを覚えていてそこがどれほどすごいところだったか自慢そうに言うことがあった。
 アリスはこの村しか記憶がない。ずいぶん前に父親が遠くに行っていたことがあった。メアリーは連れて行ってほしかったとしばらく膨れていた。
「そんなところで何をしているんだね」
 ドアの隙間からアリスの影が見えていたようだ。
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