解かり合えない二人

karon

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マリーアンヌの実家

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 少女はそのヴァイオレットの瞳を大きく見開いた。
 マリーアンヌ、そう呼ばれていた少女はふいにもう一つ自分の内側にいる誰かの声が自分を呼ぶのを感じた。
 真理と。
 マリーアンヌはかつて真理と呼ばれていた日本人の生まれ変わりだった。
 普通は生まれる前の記憶など思い出したりしない。だけど思い出してしまった。
 ピンクゴールドの髪をふんわりと流してバラ色の唇をにんまりと笑いの形に曲げた。
「嘘、マリーアンヌなんて、私マリーアンヌに生まれ変わったの?」
 真理がかつてやりこんでいた乙女ゲーム、多種多様なイケメンに出会い一対一の恋愛あり、逆ハーレム展開ありと乙女の夢を詰め込んだゲーム。
「虹色の夢の世界に生まれ変われるなんて、それもヒロインのマリーアンヌ。ああ、これは逆ハーレムをやれとの神の思し召しよね、善良に生きていたかいがあったわ」
 マリーアンヌは両の手を組んで天に祈った。
 この世界の世界観は異世界で、独自の宗教観があった。ちょっとギリシャ神話に似ている。
 まあパクったんだろうと思っていた。
「ジーウス様ありがとうございます」
 この世界の最高神にマリーアンヌは感謝の祈りをささげた。
 そこはマリーアンヌの家のある小さな荘園の庭先だった。マリーアンヌの足元には若草が生え茂り、空は薄い雲がただよう快晴で。それは見るも麗しい昼下がり。
 はたから見ればそんな美しい風景の中で。とても愛らしい少女が空に向かって祈っている微笑ましい図であったけれどマリーアンヌの心は逆ハーレムで埋め尽くされていた。
「まずは誰を攻略しようかしら。騎士団長の息子の精悍なイケメンかしら、それとも宰相の息子の眼鏡君かしら、やっぱり王太子様は確定よね」
 傍から見れば楽し気に微笑む愛らしい少女だが、その中身はかなりいっちゃっていた。
 もちろん、この国は貴族制をとっている。
 逆ハーレム対象はほぼ高位貴族なので、当然婚約者持ちだったりするのだがそんなことを気にするような神経はマリーアンヌは持っていなかった。
 複数のイケメンに囲まれてウハウハしている自分の姿しかその脳裏にない。
 もちろん一番の大物、王太子アーサーはどうしても手に入れなければならない。
 金髪碧眼で精悍でさらに騎士としての戦闘能力もあり、一番のイケメン。
 一番、本当に素晴らしい。
 マリーアンヌは辺境に領地を持つ下級貴族の娘だ。
 この国では貴族の子女は十五歳前後に中央の貴族専門学園に通うことになっている。
 乙女ゲーム『虹色の夢』はその学園が舞台になっている。
 攻略対象のイケメンには決め台詞がある。
 王太子アーサーの決め台詞は「レテの川とてこの愛は清められない」だった。何故ギリシャ神話が出てくるのだろう。
「いい台詞よね」
 マリーアンヌはウキウキとそう言った。
 学園入学まであと五年。マリーアンヌはそのための準備をできるだけしようと誓った。

 
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