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釣りの話

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 菫は後宮に出入りする人間を監視するのが仕事だ。
 新入りの女官をいろいろと試すことにした。
 菫は居間の王が後宮を開いた時からいる古顔だが、後宮の人員の入れ替わりが激しいので、それを知るものは少ない。
 今いる妃達。口を開けば、自分たちの下賜先や王に唯一寵愛されている芍薬殿に対する恨み言ばかりだ。
 つまり、芍薬殿を恨んでいるのは妃達の通常営業といいうことだ。そのあたりを利用すれば、おそらく相手は釣れる。
 王の望みは、言い訳の利かない状態に相手を追い込むこと。それならばそこをうまくつけばいい。
 美味しい餌には警戒心も薄れるものだ。
 そんなことを思いながら、菫は、自室に呼び出した女官を観察していた。
 菫の部屋には隠し通路と、その他もろもろの仕掛け、そして各しぶきが用意してあったりする。
 いずれ、年齢的に無理になる日も来るだろう。後宮に新たに来るのは、嫁入り適齢期の娘ばかりなので。
 菫の部屋は居間の菫が無理になったとき後任の菫に渡されることになっている。
 菫は王の犬の名。王の望みのために存在する。
 芍薬殿の弟が釣りだした相手、そつなく仕事をこなしているようだが、自分に比べればまだまだ甘い。
 菫の仕事をさっさと終わらせることにした。
 芍薬殿の噂、それだけであっさりと相手は釣れた。
 まずは決定的なことをしてもらわなければ、話は進まない。
 かといって、本物を囮にするわけにはいかない。かつてと今は違うのだ。
 まあちょうどいいものがあるし。最低限のことはできるだろう。
 菫はにんまりと笑った。

 ぶるっと悪寒を感じて真影は震えた。
 何かとてつもなく嫌な予感がした。ああ、いったい自分は何をやらされるんだろう。
 こういう時の予感はなぜかとても当たるのだ。
「何をしている?」
 こういう時忌々しいのは自分の父親だ。実の父親が、自分の娘を陥れようとしているのに、何もわからずひょうひょうとしている。
 まあ、せいぜい事実を知った後で青ざめるがいい。
 残念ながら、仮にも長期の父親という肩書があるので、表向き何の制裁もできないのだ。
 寵姫本人が、どういう目に合わせてもいいと断言しているのに、まったくもって融通が利かない。
 それでも、最低限のことをしてくれるつもりらしい。
 あれに馬鹿をやられたら、困るのは向こうも同じなのだから。
「大体お前は、誰のおかげで拝家に迎えてもらえたと思っているのか」
 それは、上級管理試験に合格した自分の実力です。と心中だけ答えておいた。
 あと、不正を徹底的につぶした王のおかげ。
「誰のおかげで、拝家に戻れたと思っているんですか」
 にっこり笑って真影はそう訊き返すだけにとどめた。
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