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妃達の外側

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 菫の妃はにらみ合う三人の妃を軽く目を伏せながら見ていた。
 鶏頭の妃はただ一人、王の相手に選ばれたと鼻高々だ。それをじりじりと見ているのが睡蓮と百合。
 そして、傍観者の顔をしている三人はその様子を見ているようで見ていない。
 否一人だけ見ている者もいる。
 勿忘草の妃。彼女のどこを王が気に入ったのかは知らないが、王直々に事態の収拾の協力を頼まれた。
 一番可愛らしい顔をしている、取柄はそれだけだと思う。
 まず金に汚い。そしていけずうずうしい。ずけずけと周囲に食い込んでいくその様はまるで破城槌のごとくだ。
 女官長も、要注意人物に指定しているようだ。
 何やら針仕事をしている。ちょこまかとネズミのように動く女だ。
「そういえば、ここに来いって言った人がいるんだよね、どんな顔をしてた?」
 玉蘭という、この中では一番味噌っかすといわれている妃にそんな話をしている。
 思わず聞き耳を立てた。
「よく覚えてないけど、まあ大体は実家の親に話して私はちらりとしか見ていないのだけど」
 そして首をかしげる。
「大体五十ぐらいかな、ちょっとがっちり体形で、顔もちょっと険しかった」
「あれ、じゃあ私のあった仲介人と別人? 六十ぐらいでちょっとふくよかで温和な顔つきの人だったけど」
 それから勿忘草は桂花に声をかける。
「桂花は?」
「私は、女だったらしい、顔は見ていないけれど、声の感じじゃ若くないと思うわ、玉蘭と同じく、親とだけ話してこちらには全く来なかったの」
「じゃ、全員別人?」
 勿忘草は腕を組んでうなる。
 早速操作は暗礁に乗り上げたらしい、いい気味だとほくそ笑みながらその様子を眺めていたが、とりあえず、情報は情報として受け取っておく。
 女たちを集めていた実行者は複数である可能性が高い。
 変装に巧みなものなら、勿忘草の言うような人物と玉蘭の言うような人物を演じ分けることもできなくはないのだが、それはあえて言わないでおく。
 それに桂花の言う女は当てはまらないだろう。
 いつの間にか勿忘草が横目で自分を見ていた。
 まったく嫌味な女だ。
「そういえば、頼まれていたもので来てますよ」
 そう言ってちょこちょことこちらに向かってきて手巾を手渡してきた。
 手巾には蝶と菫が刺繡されている。
 手際は見事だ、妃達がこぞってほしがるのも無理はない。
「また頼みたいですねえ、今度は黄色い菫で」
「そうすると、本草木の挿絵付きの本があるといいんですが」
「それなら私が持っているよ」
 もはや王の渡りなど完全にあきらめた玉蘭の部屋は、完全に一角に書庫ができている。
「わかった、後で借りに行く」
 そう言って勿忘草は菫と連れだって自室に戻った。

「仲介人ですが、それを調べているのは別の人間です、本来はそういうのは小規模にやるものですが、今回はどうも大掛かりなようです」
 菫がそういうと、美蘭は目を丸くした。
「普通は親が売り込みますから」
 そう言われて納得する。普通ある程度の大貴族なら娘を送り込もうとするだろう。
「ですが、今回、王はそれをなさらない、それで気を利かせた周囲が勝手にやったという見方もできるのですが、ちょっと人選が」
 菫は言葉を濁す。
 美蘭もそれは納得した。
「それでも娼婦に売られかけた娘なんて普通後宮に送らないわよね」
 睡蓮のことだ。調べるように言われる前のことだが、それは知っていた。
「それに貴女のように、騙して連れてくるということも」
「うんうん」
「ほかにも人選に問題がありすぎるんです」
「それを含めての裏か」
 しかし、他にも調べている人間がいるんなら、美蘭にできそうなことはさしてない気がする。
「具体的に他にどんな問題が?」
「いろいろです」
 菫は言葉を濁す。
「自分で聞きだすわ、そういえば、桂花は下げ渡された妃からいろいろ聞いているって言ってたけど、そんなのそれなりのおうちの話だよねえ」
「それ、小さい時のことでしょう? 先代の王の妃達は皆死を賜っているはずです」
 菫はあっさりと言った。

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