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寵愛争い裏表
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鶏頭と睡蓮が睨みあう。
そしてそれぞれがにっこりと笑った。笑いながら目だけは笑っていない。
「羨ましいわあ、鶏頭殿のふくよかな体つき」
そう言いながらくすくすと笑う。
「そうで上値、睡蓮殿は本当にほっそりとしていて」
ニコニコ笑いながら鶏頭もそういう。
「あれは何?」
唐突にほめあう二人を怪訝そうに美蘭は見ていた。
「ふくよか=デブ、ほっそり=貧乳」
桂花が小声で解説してくれた。
褒めると見せかけての貶し合いだったらしい。
にこにこ笑いながら、互いの身体的特徴を褒めあっているが、実際は貶しているらしい。
「言葉の応酬に飽きたら、互いの私物を破壊し始める。奴らに送った刺繍なんかは破壊される前提と考えておいたほうがいいわよお」
うわあと思いながら針を刺していく。
今作っているのは絹の端切れで作る花だ。
美蘭はその花を紐に縫いつけ髷の周りに巻き付けてある。
「あんたはそういうの似合うよねえ」
桂花が呟く。
今作っているのは、桜と石竹に頼まれた分だ。
やはりこの二人は似ている。もしかしたら姉妹かもしれない。
あまり素性については詮索しないように言われているのであえて訊かないが、それは念頭に入れておく。
「すいません」
声をかけられて美蘭が縫う手を止めて顔を上げた。
「少し、お時間よろしいでしょうか」
そこにいたのは菫だ。美蘭はまじまじと菫を観察する。一番似ている動物は猫だと思う。鶏頭と睡蓮の間をおろおろしているような態度をとっているが、実際は結構抜け目なさそうな感じだ。
「なんですか、ここで出来ない話でしょうか」
「ええ、内密に」
桂花が軽く肘で美蘭をつついた。警戒しろという忠告だろうか。
とりあえず、妃同士の対立は対岸の火事感覚なので美蘭はその忠告をありがたく思いつつもなかったことにしようと思った。
美蘭の部屋は半ば工房と化していた。刺繍枠や組紐の道具、それに雑多な端切れ類が卓の上を埋め尽くしていた。
その様子を物珍し気に見ていた菫は軽く横目で美蘭を見た。
「どうして陛下は貴女のような方に目をかけられたのでしょうね」
その言葉に美蘭は目をむいた。そのことは王と美蘭しか知らないはずだった。
「貴女に言っておきますが、むやみ下手を打って私の仕事を邪魔しないでくださいね」
美蘭を見下ろしながら菫は居丈高に言い放つ。
美蘭はついついだめだと思いながらも安く買ってしまうものがある。それは喧嘩だ。
この女は私に喧嘩を売っていると美蘭は判断した。
「貴女が後宮に派遣されているというのなら、どうして王は私に声をかけたのでしょうね」
言外にそっちがネタをなかなかつかまないから別口に頼んだんだろうと嫌味をぶつける。
「今、なんと言った、ど素人が」
「それならそっちは職業密偵失格でしょう、私が動いているなら黙ってみていればいいんですよ、私は王の命令で動いております、それを貴女がどうこう言う権利があるんですか?」
ぎり、と菫が歯を軋らせた。
「ずいぶんと大きな口をききますねえ勿忘草殿」
「貴女と、やり方が違うだけですよ、おそらく王はできるだけ多くの視点で物を見たい方なのでしょうね」
相手を怒らせたとみれば思いっきり肩透かしを食らわせる。
互いに目は笑っていない。
「御健闘をお祈りしますわ、菫殿」
「ええ本当に私も祈らせていただきますわ、勿忘草殿」
殺気を込めた視線をからませながら、それでも二人は笑いあった。
そしてそれぞれがにっこりと笑った。笑いながら目だけは笑っていない。
「羨ましいわあ、鶏頭殿のふくよかな体つき」
そう言いながらくすくすと笑う。
「そうで上値、睡蓮殿は本当にほっそりとしていて」
ニコニコ笑いながら鶏頭もそういう。
「あれは何?」
唐突にほめあう二人を怪訝そうに美蘭は見ていた。
「ふくよか=デブ、ほっそり=貧乳」
桂花が小声で解説してくれた。
褒めると見せかけての貶し合いだったらしい。
にこにこ笑いながら、互いの身体的特徴を褒めあっているが、実際は貶しているらしい。
「言葉の応酬に飽きたら、互いの私物を破壊し始める。奴らに送った刺繍なんかは破壊される前提と考えておいたほうがいいわよお」
うわあと思いながら針を刺していく。
今作っているのは絹の端切れで作る花だ。
美蘭はその花を紐に縫いつけ髷の周りに巻き付けてある。
「あんたはそういうの似合うよねえ」
桂花が呟く。
今作っているのは、桜と石竹に頼まれた分だ。
やはりこの二人は似ている。もしかしたら姉妹かもしれない。
あまり素性については詮索しないように言われているのであえて訊かないが、それは念頭に入れておく。
「すいません」
声をかけられて美蘭が縫う手を止めて顔を上げた。
「少し、お時間よろしいでしょうか」
そこにいたのは菫だ。美蘭はまじまじと菫を観察する。一番似ている動物は猫だと思う。鶏頭と睡蓮の間をおろおろしているような態度をとっているが、実際は結構抜け目なさそうな感じだ。
「なんですか、ここで出来ない話でしょうか」
「ええ、内密に」
桂花が軽く肘で美蘭をつついた。警戒しろという忠告だろうか。
とりあえず、妃同士の対立は対岸の火事感覚なので美蘭はその忠告をありがたく思いつつもなかったことにしようと思った。
美蘭の部屋は半ば工房と化していた。刺繍枠や組紐の道具、それに雑多な端切れ類が卓の上を埋め尽くしていた。
その様子を物珍し気に見ていた菫は軽く横目で美蘭を見た。
「どうして陛下は貴女のような方に目をかけられたのでしょうね」
その言葉に美蘭は目をむいた。そのことは王と美蘭しか知らないはずだった。
「貴女に言っておきますが、むやみ下手を打って私の仕事を邪魔しないでくださいね」
美蘭を見下ろしながら菫は居丈高に言い放つ。
美蘭はついついだめだと思いながらも安く買ってしまうものがある。それは喧嘩だ。
この女は私に喧嘩を売っていると美蘭は判断した。
「貴女が後宮に派遣されているというのなら、どうして王は私に声をかけたのでしょうね」
言外にそっちがネタをなかなかつかまないから別口に頼んだんだろうと嫌味をぶつける。
「今、なんと言った、ど素人が」
「それならそっちは職業密偵失格でしょう、私が動いているなら黙ってみていればいいんですよ、私は王の命令で動いております、それを貴女がどうこう言う権利があるんですか?」
ぎり、と菫が歯を軋らせた。
「ずいぶんと大きな口をききますねえ勿忘草殿」
「貴女と、やり方が違うだけですよ、おそらく王はできるだけ多くの視点で物を見たい方なのでしょうね」
相手を怒らせたとみれば思いっきり肩透かしを食らわせる。
互いに目は笑っていない。
「御健闘をお祈りしますわ、菫殿」
「ええ本当に私も祈らせていただきますわ、勿忘草殿」
殺気を込めた視線をからませながら、それでも二人は笑いあった。
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