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迎撃
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王宮の端っこにある倉庫の中に出入りの商人たちや、そして荷物を管理する随行員が閉じ込められていた。
王宮での火災と爆発。その容疑を受けているという話で周辺の皆が重苦しい表情をしている。
鍵がかけられていた扉が開く。そして、綺羅綺羅しい女性達が入ってきた。
光沢のある絹で作られた揃いの衣装をまとった女官たちが先ぶれだった。
それだけでも非現実的な光景だったが。その背後から現れたのは豪奢としか言いようのない衣装を身にまとった妃だった。
光源はわずかだ、だがそのわずかな光でも綺羅綺羅と衣装も装身具も輝いている。
衣装と装身具のインパクトが強すぎて妃の容姿は判別がつけがたい。
団扇で顔半分を隠したまま妃はゆっくりと話し始めた。
「不自由を掛けますが、そちらの非をあげつらう意味でこうしておるわけではありません。あくまで、念のための処置です、不自由を描けたせめてものわびです」
そう言って団扇を持っていないほうの手を挙げた。
妃の背後から、またそろいの衣装を身に着けた女官が今度は何やら荷物を持って現れた。
「少ないですが、どうぞ」
荷物は菓子類だった。
王宮で給される菓子類は当然最高級品だ。
めったに食べられない高級菓子に歓声が上がる。
妃はその場にたたずんでその様子をただ眺めていた。
女官たちの菓子目当てに近づいてくると見せかけた男達がそのすぐそばにいる芍薬の妃目指してじりじりと近づいてくるのを感じ、妃は軽く目を細める。
間合いを図っていた男たちが一斉にとびかかってくるのを防いだのは、女官たちの衣装の陰に隠れるようにしていた兵達だった。
姿勢を低くして、たっぷりとした衣の陰に隠れていた彼らは手にした短めの昆で飛びついてきた男たちを打ち据える。
芍薬の妃は微動だにせずそれをただ見ていた。
一撃であっさり気絶した男達。それを感情のない目で芍薬の妃は見降ろしている。
こそこそとその場から離れようとする男達もいた。
それらは一瞬息を飲んで呆然としていた商人たちがすぐに我に返って取り押さえられた。
「終わりましたか」
「はい、ですが、妃自ら囮になるなど危険すぎます」
妃のそばで控えていた武官が苦言を呈す。
「ですが、手っ取り早いでしょう」
薄く笑う。すでに危険に対して感覚が麻痺しているのかもしれない。
「では捕らえた男たちのことは王に知らせなさい、私はもう一度あちらに戻ります」
控えの間に戻ると告げると、半分は妃に、残りはたたき伏せられた男たちを拘束するために残ることになった。
残された商人たちは何とも言えない目で芍薬の妃の後ろ姿を見送った。
「なんだったんだ、さっきの音」
圭樹が、物干し台の前で呟く。
「なんだか宴の手順とは違った感じだったな」
漢途もそう言いながら洗濯物を干す。
夜干してもなかなか乾かないが、それを見越して小物を選択したのだ。
「そういうものなの?」
貴族の宴がどういうものなのか知らない真影だけが怪訝そうな顔をしていた。
王宮での火災と爆発。その容疑を受けているという話で周辺の皆が重苦しい表情をしている。
鍵がかけられていた扉が開く。そして、綺羅綺羅しい女性達が入ってきた。
光沢のある絹で作られた揃いの衣装をまとった女官たちが先ぶれだった。
それだけでも非現実的な光景だったが。その背後から現れたのは豪奢としか言いようのない衣装を身にまとった妃だった。
光源はわずかだ、だがそのわずかな光でも綺羅綺羅と衣装も装身具も輝いている。
衣装と装身具のインパクトが強すぎて妃の容姿は判別がつけがたい。
団扇で顔半分を隠したまま妃はゆっくりと話し始めた。
「不自由を掛けますが、そちらの非をあげつらう意味でこうしておるわけではありません。あくまで、念のための処置です、不自由を描けたせめてものわびです」
そう言って団扇を持っていないほうの手を挙げた。
妃の背後から、またそろいの衣装を身に着けた女官が今度は何やら荷物を持って現れた。
「少ないですが、どうぞ」
荷物は菓子類だった。
王宮で給される菓子類は当然最高級品だ。
めったに食べられない高級菓子に歓声が上がる。
妃はその場にたたずんでその様子をただ眺めていた。
女官たちの菓子目当てに近づいてくると見せかけた男達がそのすぐそばにいる芍薬の妃目指してじりじりと近づいてくるのを感じ、妃は軽く目を細める。
間合いを図っていた男たちが一斉にとびかかってくるのを防いだのは、女官たちの衣装の陰に隠れるようにしていた兵達だった。
姿勢を低くして、たっぷりとした衣の陰に隠れていた彼らは手にした短めの昆で飛びついてきた男たちを打ち据える。
芍薬の妃は微動だにせずそれをただ見ていた。
一撃であっさり気絶した男達。それを感情のない目で芍薬の妃は見降ろしている。
こそこそとその場から離れようとする男達もいた。
それらは一瞬息を飲んで呆然としていた商人たちがすぐに我に返って取り押さえられた。
「終わりましたか」
「はい、ですが、妃自ら囮になるなど危険すぎます」
妃のそばで控えていた武官が苦言を呈す。
「ですが、手っ取り早いでしょう」
薄く笑う。すでに危険に対して感覚が麻痺しているのかもしれない。
「では捕らえた男たちのことは王に知らせなさい、私はもう一度あちらに戻ります」
控えの間に戻ると告げると、半分は妃に、残りはたたき伏せられた男たちを拘束するために残ることになった。
残された商人たちは何とも言えない目で芍薬の妃の後ろ姿を見送った。
「なんだったんだ、さっきの音」
圭樹が、物干し台の前で呟く。
「なんだか宴の手順とは違った感じだったな」
漢途もそう言いながら洗濯物を干す。
夜干してもなかなか乾かないが、それを見越して小物を選択したのだ。
「そういうものなの?」
貴族の宴がどういうものなのか知らない真影だけが怪訝そうな顔をしていた。
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