上 下
6 / 154

世間話に寄せて

しおりを挟む
「しかし王も大胆なことをやりましたね」
 真影の横で柴源も洗濯をやりながら世間話を始めた。
「貴族や有力者の息子さん軒並み落ちましたしねえ」
 そういえば、結果発表の場で四つん這いで打ちひしがれていた先輩も中堅どころの貴族の息子だった。
 学問所では、基本的に学問だけ、家のことは関係ないを貫いていたが、学問所を出ればそうした根回しは横行していた。
「受かったのはごく少数、今回はほとんど一般市民階級ばかりですね」
「でも、僕と一緒の漢途と金武は貴族ですけど」
 ついでに圭樹は豪商の息子だ。
「だからほとんどといったんですよ、お試し受験の少数の貴族や有力者の息子、それと少数の、自分を落とすような命知らず羽織るまいと考えた最有力貴族の息子の半分くらいが合格しています」
 貴族の中間層はほぼ全滅ということか。
「結構恨みを買うんじゃないでしょうか」
 不正入試はもちろん悪いことだが、賄賂を払わなければ合格が危ないという思い込みがある状況がであったことも事実だ。
 それを考えれば恨みは買うだろう。
「とはいえ、今まで日の目を見れなかった、民間の秀才はどっと合格しましたし、不正で落とされた人たちも、来年は受けられないことを考えれば、貴族層の新人は当分薄くなりますね」
「それが狙いかなあ」
「もっと若いころにこんなことがあっていたら、私の人生も変わっていたんでしょうねえ」
 淡々とした口調だったが、その言葉には妙な重みがあった。
「その、商人をしていたことを回り道だと思っておられますか?」
「いろんなことがありました、そのほとんどがろくな事じゃなかった」
 前王と王弟達とその妃達そしてその妃の後ろにいる姻戚が寄ってたかってこの国をめちゃめちゃにするところだった。
 真影の幼いころにもとても悲惨な事件があった。国が荒れてまもってくれるものもなにもなく。
 王が即位したときには王都すら荒れ果てて廃墟と化した地区すらあった。
 そのため、王は極力貴族たちの勢力を削ごうとするきらいがある。
 真影は学問所以外の場所で貴族と会うこともなかったため特に貴族を嫌ってはいない。
「それに、付け目である妃も、特定の貴族とかかわりのある女性ではないですからねえ」
「そうなんですか?」
 王に妃がいるのは当たり前だが、その妃の存在はあまり知られていない。
 後宮にひっそりと暮らしているらしく、あまり表に出てくることもないのだという。
「一番身分が高いのは牡丹殿なんですが、今は芍薬殿一人ですね」
 この国では花の名前で妃の身分があらわされる。
 正妃待遇の牡丹、ついで芍薬、芙蓉、藤、蓮、菊は白黄紫の三色の順に上級妃しかし、今後宮にいるのは芍薬の身分を持つ妃のみだ。
 他に妃が三人いるが、それぞれ吾亦紅、菫、雛罌粟の身分を与えられている下級妃であり、またもう一人梅の身分の妃がいたが、褒章として臣下に与えられたという。
 その妃達に王が通うという話も聞かず、いざという時下げ渡すために買われているのだと言われている。
 それを当人たちがどう思っているかは知らないが、とにかく今、芍薬の妃以外に王の妻と呼ばれる存在はいない。
「そういえば、もうすぐ、隣国の使節を招いての会合があるのを知ってますよね」
 それはここに来る前から評判になっていた。
「どうやらもてなしに、芍薬殿も協力を要請されたらしいですよ」
 今までひっそりと後宮に隠れていた妃が表舞台に現れる。
 とはいえそれは真影にとっては遠い話だ。
 話しているうち、洗濯物は随分とはかどってもうすぐ終わるところに来ていた。
「あの、僕には姉がいました。姉は本来なら行かせられない学問所に行かせるために身を粉にして働いてくれました、そのことで僕が詫びると姉は言ったんです」
 真影は大きく息を吐いた。
「金を稼ぐってことも学ぶことはいっぱいある、私が損ばかりしているわけじゃない」
 姉は誇らかに笑った。
「いいお姉さんですね」
 柴源は薄く笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。 そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。 二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。 自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

処理中です...