闘えホワイト君

karon

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 退院するまで襲撃はなかった。
 僕は久しぶりの我が家で大きく伸びをした。ミランダさんは定期的に喚起をしてくれていたらしいが少し埃っぽい。
 少し掃除でもするかな。そう思って収納庫から箒と塵取りを取り出した。
 床を隅から掃いているとノックの音がした。
「誰ですか?」
 僕は恐る恐る扉を小さく開けた。
 そうすると見たことのない、やたら立派な服装をした壮年の男性が立っていた。
 額に撫でつけられた栗色の髪。
 特に目についたのはかっちりとした襟の紺色のスーツだった。
 いったい誰なんだろう。
「ホワイトさんですね、実は領主様からのお話が」
 領主様の執事だという彼はそう言って背後の馬車を指示した。
 もしかして即座にそれに乗れと?
 僕は箒を手にしたまま逡巡した。
 そして小さくため息をついた。この地で一番の権力者に逆らってもいいことはないだろう。
 僕は一応最低限の身だしなみを整えることだけ言って家の中に入った。
 新しいシャツを着て余所行きに持ってきたジャケットを羽織る。軽く髪をブラシで整えておめかしは終わり。
 そこまで着替えて家の外に出て戸締りをする。
「お待たせしました」
 待っていた相手の口ひげはまるで書いたように左右対称で整えられている。
 もともと髪を除く体毛は薄いほうなのでたぶんこの人と同じ年になっても僕はひげをはやさないだろうななどと考えながら僕は馬車に乗り込んだ。
 馬車は僕が今まで乗ったことがないほど上等だった。いや、もともと乗合馬車以外に乗ったことはないので比べるほうが間違っているか。
 僕はしばらく初めて乗る譲渡な馬車の乗り心地を楽しんでいた。
 領主のお屋敷は街の真ん中からちょっとだけ外れた場所にあった。
 中心の商業地から少し離れた場所だ。
 僕は馬車から降りてキレイな模様入りの石が敷き詰められた玄関に立った。
 ほかの使用人であろう今度は初老の男性が僕を待っていた。
「旦那様がお待ちです」
 そう言われて僕は小さく頭を下げたままその初老の人の後ろを歩いていく。
 その人はずいぶんと背が高く細身だがか弱い感じがしない。
 とっても上等な木を使われているんだろうなと思われる飴色の廊下を踏んで歩いている。たぶん壁や天井も上等なんだろうけれどきょろきょろと見まわす勇気はなかった。
 結構歩いた、さすがにこの家大きいな。
 病み上がりで少々体力が落ちているんだろうか。
「入り給え」
 ある扉の前でそう声をかけられた。前を行く男性が扉を開けた。
 何か滴るものを飲むのも躊躇しそうな淡いクリーム色の絨毯が見えた。
 そして重厚なライティングデスクの向こうで領主様が僕を出迎えた。
 この部屋はこの人の執務室なんだろうか。

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