平凡な魔法使いが平凡な望みをかなえようとした結果なぜか最強の彼女ができた話

karon

文字の大きさ
上 下
17 / 19

予言者

しおりを挟む
 ぽうっと柔らかな光が、あるものを中心に広がった。
 それはハルキゲニア。
 身体を丸めて胎児のポーズでハルキゲニアは宙に浮いていた。
 そして、周囲を包む金色の光。
「これはいったい?」
 思わずつぶやくが、誰も俺の疑問に答えてはくれない。
 マルレラとオピバニアも目を丸くしてそのそばでへたり込んでいた。
 オピバニアは空中をゆったりと漂いだした。
 ふいにオピバニアは身体を伸ばした。相変わらずつま先は床についていないがまっすぐに立っている。
 その姿勢のままハルキゲニアは眠っているように見えた。
 うっすらと開いていた唇が明らかに意思を持って動き出した。
「触れてはならない、ティランの聖剣は触れただけでひとの命を奪う。触れることができるのは選ばれしもののみ。選ばれしもの以外はそれに触れることは死を意味する」
 滔々と語られるその言葉、俺は茫然としてハルキゲニアを見ていた。
「いったい何が起きているんだ」
 唐突に光は消えて、ハルキゲニアは崩れ落ち、そのそばでへたり込んでいたマルレラとおぴ場にあの上に落ちた。
 押しつぶされて悲痛な悲鳴を上げる二人だが、それを全く我関せずとハルキゲニアは眠り続けていた。
「これは驚いた、彼女は魔法使いじゃない」
 そう言ったのはラガニア氏だった。
 まるでめったにない珍品を見つめるコレクターのような少々行ってしまっている視線を眠り続けるハルキゲニアに向ける。
「何なんですか、いったい」
「これはめったにいないんだ、彼女は預言者だ」
「あの詐欺とかで捕まるやつですか?」
 以前新聞で読んだ話を俺はしてみた。
「それは預言者を装った詐欺師のことだろう、私が行っているのは本物の預言者のことだ」
 眠っているハルキゲニアの髪にそっと手を触れる。
 下敷きになっているマルレラたちのことは最初から目に入っていない。
 俺は近くのソファからクッションをとってきて、ハルキゲニアを起こし、下敷きになっていた二人を解放した。そして、クッションを枕にして改めてハルキゲニアを寝かせた。
「彼女は魔法使いの学校に入るべきじゃなかったんだ、魔法使いとして下級なのも当たり前だ。本来預言者と魔法使いはその能力のベクトルが真逆なんだから」
「つまり、ハルキゲニアは学校を退学することになるわけだ」
 うっとうしい人間がいなくなるのは俺としても大歓迎だ。それに稀少な能力者として世に出られるならハルキゲニアの両親も喜ぶだろう。
 そして最初の問題に戻る。
 生きて帰れたら。
「預言者というならもうちょっと具体的な話をしてくれればいいのに」
「聖剣に触れたら危険だということを教えてくれたじゃないか」
 自分は選ばれしものであるという自信などこれっぽっちもない俺は、おそらく聖剣に触れたら死ぬタイプだろう。もし見つかればだが。
「見つかるめどがあるときに聞きたい予言だったな」
「もしかしたら、敵の人が聖剣を見つけて触って死んじゃってくれるといううれしい予言だったのかも」
 マルレラがようやくダメージから回復してそんなことを口走った。
 本当にそうだったらどんなに嬉しいだろうか。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち
ファンタジー
旧題:俺と蛙さんの異世界放浪記~外伝ってことらしい~ 俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~の外伝です。 太郎と愉快な仲間達が時に楽しく時にシリアスにドタバタするファンタジー作品です。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...