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薄幸の少女

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 学校は基本的に静かに学問にいそしむためにある。
 静謐こそ正しい姿だ。正しい姿のはずなんだが、ものすごい金切り声が聞こえてくる。
 灰緑色の長い髪を背中に垂らし、細身ながら豊かな胸につけている魔法石がとてつもなく大きい。そしてその台座も精緻な模様の付いた豪華なものだ。顔はヒステリックに歪んでいなければ端正といえる女性、本来は優雅な貴族女性は今も金切り声を張り上げている。
 黙って立っていれば見とれるほど美しいかもしれないが、そんな女性が常軌を逸した状態で唇をゆがめてわめいている姿はなまじ美人なだけ恐ろしい。
 関わりたくないとその場から離れようとしたが、そのそばでしおれているのがサイカニアだと気が付いた。
 明らかに理不尽な言いがかり、内容は聞こえてないけどおびえているサイカニアに向かってまくし立てている様子からなんだかわからないが絡まれていると判断した。
 あのでっかい魔法石からすると、成績優秀でなおかつ実家が裕福というお嬢様だ。
「いい気にならないでよね、たかが役所勤務の娘風情が」
 不当な出自に対する攻撃。間違いないくサイカニアに理不尽な言いがかりをつけている。
 あ、そういえば、灰緑色の髪色をした伯爵様がいたような、その縁者の可能性ありかな。よく覚えていないが。
 身に着けているものからしても中級以上の貴族出身者の可能性が高い。
 サイカニアはうつむいて言われるがままになっている。
「いつまでも続かないわよ、いい気になるのもほどほどにね」
 これ以上続くようなら介入しなければ。俺はもしかしたら伯爵以上のお嬢様に逆らう覚悟を決めた。
 しかし、別のほうから教授がやってくる。
 さすがにまずいと思ったのかそそくさとそのお嬢様はその場を立ち去った。
 サイカニアに殺意のこもった視線を向けたまま。
「ごめん、サイカニア、助けに入れなかった」
 うなだれるサイカニアに俺は謝罪した。
 サイカニアは小さく首を振った。
「飯野、今来てくれただけでありがたいから」
 いかにも無理して笑ってますという笑顔を浮かべる。怪訝そうな教授たちに一礼してサイカニアはその場を立ち去ろうとした。
 俺はそのままサイカニアについていった。
「あれ、いつもそうなの?」
 サイカニアは小さく頷く。
「入学当初から、ずっと嫌われてるみたい。ほかの貴族の人たちもあの人に同調してね」
「もしかしてスターリッケリア伯爵家の関係かな」
 サイカニアはこくんと頷いた。かなりの権勢のある家だ。そんな家の娘ににらまれていたら、君子危うきに近寄らずでサイカニアは孤立してしまったのだろう。
「私、要領悪いのかな、ずっと一人で誰も話しかけてこなくて」
 白い花がしおれるようにうなだれるサイカニアの肩に手を置いた。
「僕がいるから、大丈夫だよ」
 サイカニアはほんのりと笑った。
「慰めに来てくれてありがとう。今までそんな人一人もいなかったの」
 一歩前進か。思わず俺はこぶしをそっと握りしめた。いや、焦るな、ここから少しずつ彼女の心を開かせるんだ。
 俺はそっと唾を飲み込んだ。
「オリエンテーリング、頼りにしていいですか」
「もちろんだ、頑張ろうね」
 オリエンテーリングで俺は必ずや距離を詰めてやる、絶対だ。
 俺は天空に輝く太陽に誓う。
 必ずやサイカニアにいいところを見せて、その心をつかんでみせる。
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