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込み合うカフェの中堅実にも定食を取って俺はクラスメイトと食事と雑談を楽しんでいた。
茶色いシチューの中の肉を掬う。
「この頃バロメッツの献立多くないか?」
「去年豊作だったらしいぜ」
モノが同じようにシチューを食べながら答える。
「天鶏、なんてごちそう出るわけないよね」
王侯貴族の御馳走をアデロ・バシレウスが呟く。
「学食でそれはねえわ」
そんなくだらない雑談をしていた俺が不意に視界に入ってきたものに反応する。あの魔法使いローブがだぼだぼに見えるほど華奢なその姿を思わず凝視した。
トレイを持ったサイカニアが笑いかけてきた。今日はサイカニアは魔法使いのローブ姿だ。黒地に赤い縫い取りがされている。
ああ、何を着ていてもサイカニアの可憐さは健在だ。
「奇遇ですね」
朗らかな笑顔に俺は内心の緊張を押し隠し、何とか挨拶する。
唐突に友人達がトレイをもって立ち上がり、その場を後にする。
「おい?」
しかし、すぐに気を取り直した。
あの連中は気を聞かせてくれたんだ、サイカニアとゆっくり過ごさせてやろうと、なんて優しい連中なんだ、俺はいい友を持った。
思わず涙がこぼれそうになる。
「あの、お邪魔でしたでしょうか」
サイカニアがさって言った彼らを見て眉を寄せる。
「いえ、あいつら用事を思い出したんじゃないですかね」
そう言ってサイカニアに、さっきまでモノが座っていた場所に座らないかと誘いかけた。
サイカニアはどこか寂し気な笑みを浮かべた。
「私、同級生に避けられることが多くて」
「僕はサイカニアさんはとても素敵な人だと思います」
くすくすとサイカニアはくすぐったそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
サイカニアはアルケオの隣に座る。
「私、学園で初めて、同級生の方と同じテーブルで食事したことになりますね」
サイカニアがなぜか同級生の間で浮いているようだ。貴族と平民のみならず、同じ平民からも。
そういえば、コンプトの彼女ジュラも浮いているようだ。玉の輿狙いの女子の中で、そうじゃないまじめな女子はやはり敬遠されるのだろうか。
そして、シチューを食べながら、依然聞きそびれたサイカニアのプロフィールなどを探る。
サイカニアは市役所勤務の父親を持つ中産階級。両親健在、妹が一人。
妹は別の道に進んだらしい。サイカニアは本で読んだ魔法使いにあこがれてこの学舎の門をたたいたらしい。
アルケオの家族の出した条件にこれ以上ないくらい合地している。そのうえアルケオの好みでもある。この幸運に神に大地に伏して感謝したいくらいだ。
ついでに俺も自分のプロフィールを自己紹介しつつ、スプーンを持つサイカニアの所作などを見ていた。
少しはにかんだ様子も愛らしい。しかしまだちょっと親しくなった知り合い以上の関係ではないことはわかっている。
何とか距離を詰めたい。
「そういえば、そろそろオリエンテーリングの時期ですね」
オリエンテーリングとは特定の場所にまつわる魔法や伝承の検証といった作業だ。
ひと月ぐらい泊まり込みで行うことが多い。
サイカニアの言葉に思わずアルケオは息をのんだ。
「ええと、予定とかありますか?」
「実は、ティランの聖剣を勧められているんです」
ティランの聖剣は何度もオリエンテーリングの候補となっていたが、だれも成果を出せなかったという難関中の難関だ。
「随分、難しいところを狙いますね」
「聖剣を封じているという魔法結界だけでも相当な知識を必要とします。それでですね、アルケオさんは回路クラスでしたよね、どこまで進んでいますか?」
「解析Aプラス。術統合術Aマイナス、まあ学年では上位です」
俺は魔法量は中堅より少し上だが、術式解析にはそれなりの評価を受けていた。
「あの、ずうずうしいお願いだと思われるかもしれないですけど」
上目遣いに頼られれて俺が断るはずがなかった。
茶色いシチューの中の肉を掬う。
「この頃バロメッツの献立多くないか?」
「去年豊作だったらしいぜ」
モノが同じようにシチューを食べながら答える。
「天鶏、なんてごちそう出るわけないよね」
王侯貴族の御馳走をアデロ・バシレウスが呟く。
「学食でそれはねえわ」
そんなくだらない雑談をしていた俺が不意に視界に入ってきたものに反応する。あの魔法使いローブがだぼだぼに見えるほど華奢なその姿を思わず凝視した。
トレイを持ったサイカニアが笑いかけてきた。今日はサイカニアは魔法使いのローブ姿だ。黒地に赤い縫い取りがされている。
ああ、何を着ていてもサイカニアの可憐さは健在だ。
「奇遇ですね」
朗らかな笑顔に俺は内心の緊張を押し隠し、何とか挨拶する。
唐突に友人達がトレイをもって立ち上がり、その場を後にする。
「おい?」
しかし、すぐに気を取り直した。
あの連中は気を聞かせてくれたんだ、サイカニアとゆっくり過ごさせてやろうと、なんて優しい連中なんだ、俺はいい友を持った。
思わず涙がこぼれそうになる。
「あの、お邪魔でしたでしょうか」
サイカニアがさって言った彼らを見て眉を寄せる。
「いえ、あいつら用事を思い出したんじゃないですかね」
そう言ってサイカニアに、さっきまでモノが座っていた場所に座らないかと誘いかけた。
サイカニアはどこか寂し気な笑みを浮かべた。
「私、同級生に避けられることが多くて」
「僕はサイカニアさんはとても素敵な人だと思います」
くすくすとサイカニアはくすぐったそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
サイカニアはアルケオの隣に座る。
「私、学園で初めて、同級生の方と同じテーブルで食事したことになりますね」
サイカニアがなぜか同級生の間で浮いているようだ。貴族と平民のみならず、同じ平民からも。
そういえば、コンプトの彼女ジュラも浮いているようだ。玉の輿狙いの女子の中で、そうじゃないまじめな女子はやはり敬遠されるのだろうか。
そして、シチューを食べながら、依然聞きそびれたサイカニアのプロフィールなどを探る。
サイカニアは市役所勤務の父親を持つ中産階級。両親健在、妹が一人。
妹は別の道に進んだらしい。サイカニアは本で読んだ魔法使いにあこがれてこの学舎の門をたたいたらしい。
アルケオの家族の出した条件にこれ以上ないくらい合地している。そのうえアルケオの好みでもある。この幸運に神に大地に伏して感謝したいくらいだ。
ついでに俺も自分のプロフィールを自己紹介しつつ、スプーンを持つサイカニアの所作などを見ていた。
少しはにかんだ様子も愛らしい。しかしまだちょっと親しくなった知り合い以上の関係ではないことはわかっている。
何とか距離を詰めたい。
「そういえば、そろそろオリエンテーリングの時期ですね」
オリエンテーリングとは特定の場所にまつわる魔法や伝承の検証といった作業だ。
ひと月ぐらい泊まり込みで行うことが多い。
サイカニアの言葉に思わずアルケオは息をのんだ。
「ええと、予定とかありますか?」
「実は、ティランの聖剣を勧められているんです」
ティランの聖剣は何度もオリエンテーリングの候補となっていたが、だれも成果を出せなかったという難関中の難関だ。
「随分、難しいところを狙いますね」
「聖剣を封じているという魔法結界だけでも相当な知識を必要とします。それでですね、アルケオさんは回路クラスでしたよね、どこまで進んでいますか?」
「解析Aプラス。術統合術Aマイナス、まあ学年では上位です」
俺は魔法量は中堅より少し上だが、術式解析にはそれなりの評価を受けていた。
「あの、ずうずうしいお願いだと思われるかもしれないですけど」
上目遣いに頼られれて俺が断るはずがなかった。
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