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美しきもの
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優秀で、品行方正な学生であるこの俺はそれなりに多忙だった。そして平民ゆえに、だれもが嫌う役目を押し付けられることも多々あった。
その日俺は友人のモノ・ニクスとともに士官学校のほうに向かった。
魔法使いと騎士は不仲で有名だ。両者ともに貴族出身者が多く。魔法使いの家系と貴族の家系は多少の例外があっても分かれている。
貴族間の相克がそのまま魔法使いと騎士の相克となってしまっているのだ。
しかし平民出身ならそれほどの因縁など持たず、よく騎士団にお使いに駆り出されている。
モノは騎士爵出身ではあるが家はさほど裕福ではなく格式も低いので平民と変わりない暮らしをしている。そのため騎士魔法使いの区別はそれほど感じていない。
また、モノの双子の兄弟であるディノ・ニクスは士官学校生なのでやはりお使いに駆り出されている。
士官学校はやはり物々しい雰囲気だ。周囲の視線が冷たいのはアルケオとモノの黒い魔法使いローブのせいだろうか。
実に厳重なボディチェックの後、二人は士官学校の敷地内に入った。
お使い自体は何度もしているので、勝手知ったるよその学校と事務室でサクサク用事を済ませて、モノの兄ディノのもとに向かう。
モノとディノは双子だが、並んでみても誰も双子とは思わない。全く似ていないのだ。兄弟どころかいとこと間違われることもある。
痩身でいかにもインドア系なモノに対してディノは筋骨隆々として、その顔立ちもいかにも肉食という雰囲気で猛々しい。二人とも濃い茶色の髪と瞳をしているが共通点はそれだけだ。
「よう、モノにアルケオ」
武器を構えて、だれかと交戦中らしいが、それでも軽く首をこちらに向けてあいさつする。
「よそ見してるんじゃねえ」
ディノは筋骨隆々でモノやアルケオからすれば見上げるほど大きいのだが、対戦相手はさらに一回り大きい。
長い黒髪を背中に流し、アルケオが両手でも持つのがやっとという長剣を片手で構えている。
対するディノは禍々しい光を放つ槍を持っている。体格差ゆえのハンディだろうか。
武器の打ち合うけたたましい音に二人は耳を抑えた。
「ああ、こういう体育会系ってホント性に合わねえ」
俺は魔術回路を専門に扱う魔法使いを目指している。モノと同じくインドアだ。静かに魔法方程式を解くことを無上の喜びとしている知性派を自認している。
「そういうものですかねえ」
不意に涼やかな声がした。玲瓏たる声に思わず振り返る。そして俺は目を見開き固まった。
「こんなところで、魔法学校の方に会うなんて思わなかったものですから」
ああ、神様、それはそれは愛らしい少女が目の前にいた。
銀に赤茶の斑の入った髪、額の真下で切りそろえられたその下の黒いつぶらな瞳が俺の心臓を射抜いた。
「魔法に興味あるんですか?」
「いえ、私が魔法学校の生徒なんです、今日は私服ですけど」
着ているのは地味な白いワンピースと紺の上着、あまり裕福な家ではない。となれば相当な成績優秀者だろう。
平民は実力で優遇される。つまり実力があれば学費免除や減額もありうるのだ。
「クラスはどちらに?」
俺はバクバクと高鳴る心臓を抑えた。
「術式クラスを主体としています」
「なるほど、だから会ったことがなかったんだ、僕は回路クラスですから」
術式は魔法を打ち出すことを主体としている。呪文を主に学んでいる。
基本魔方陣は術式回路士気も変わらないので、基礎クラスは同じだが、たぶんそこでも分かれていたのだろう。
アルケオは必死に顔面の筋肉を叱咤してきざな笑みを作ろうとしている。
背後でモノが何とも言えない表情を浮かべていたがそれは気にしないことにした。
「どうしてここに」
魔法学校の生徒は士官学校にあまり近づいたりしないはずだ。
「俺に会いに来たんだよ」
先ほどディノと打ち合いをしていた士官候補生がいつの間にか打ち合いをやめてすぐそばに来ていた。
「幼馴染のアンドリューです」
いかにも親しげな様子にアルケオの鼓動はさらに早まる。こめかみに血がざわめくこの感覚は嫉妬だと自覚する。
「近所の娘のサイカニアだよ」
大柄な男の傍で少女の華奢さが際立つ。
「アルケオ・プリテスです。ここで会ったのもご縁ですよね、これからどうかよろしくお願いします」
声が上ずっていた。しかし、目の前に差し出されたチャンスにダメもとで食らいつかないで何が男かとサイカニアの手を取った。
握られた手をしばらくサイカニアは見ていたが、小さく息を吐く。
「そうですねせっかく知り合ったんですもの、これもご縁でしょう」
サイカニアはにっこりと笑った。
その日俺は友人のモノ・ニクスとともに士官学校のほうに向かった。
魔法使いと騎士は不仲で有名だ。両者ともに貴族出身者が多く。魔法使いの家系と貴族の家系は多少の例外があっても分かれている。
貴族間の相克がそのまま魔法使いと騎士の相克となってしまっているのだ。
しかし平民出身ならそれほどの因縁など持たず、よく騎士団にお使いに駆り出されている。
モノは騎士爵出身ではあるが家はさほど裕福ではなく格式も低いので平民と変わりない暮らしをしている。そのため騎士魔法使いの区別はそれほど感じていない。
また、モノの双子の兄弟であるディノ・ニクスは士官学校生なのでやはりお使いに駆り出されている。
士官学校はやはり物々しい雰囲気だ。周囲の視線が冷たいのはアルケオとモノの黒い魔法使いローブのせいだろうか。
実に厳重なボディチェックの後、二人は士官学校の敷地内に入った。
お使い自体は何度もしているので、勝手知ったるよその学校と事務室でサクサク用事を済ませて、モノの兄ディノのもとに向かう。
モノとディノは双子だが、並んでみても誰も双子とは思わない。全く似ていないのだ。兄弟どころかいとこと間違われることもある。
痩身でいかにもインドア系なモノに対してディノは筋骨隆々として、その顔立ちもいかにも肉食という雰囲気で猛々しい。二人とも濃い茶色の髪と瞳をしているが共通点はそれだけだ。
「よう、モノにアルケオ」
武器を構えて、だれかと交戦中らしいが、それでも軽く首をこちらに向けてあいさつする。
「よそ見してるんじゃねえ」
ディノは筋骨隆々でモノやアルケオからすれば見上げるほど大きいのだが、対戦相手はさらに一回り大きい。
長い黒髪を背中に流し、アルケオが両手でも持つのがやっとという長剣を片手で構えている。
対するディノは禍々しい光を放つ槍を持っている。体格差ゆえのハンディだろうか。
武器の打ち合うけたたましい音に二人は耳を抑えた。
「ああ、こういう体育会系ってホント性に合わねえ」
俺は魔術回路を専門に扱う魔法使いを目指している。モノと同じくインドアだ。静かに魔法方程式を解くことを無上の喜びとしている知性派を自認している。
「そういうものですかねえ」
不意に涼やかな声がした。玲瓏たる声に思わず振り返る。そして俺は目を見開き固まった。
「こんなところで、魔法学校の方に会うなんて思わなかったものですから」
ああ、神様、それはそれは愛らしい少女が目の前にいた。
銀に赤茶の斑の入った髪、額の真下で切りそろえられたその下の黒いつぶらな瞳が俺の心臓を射抜いた。
「魔法に興味あるんですか?」
「いえ、私が魔法学校の生徒なんです、今日は私服ですけど」
着ているのは地味な白いワンピースと紺の上着、あまり裕福な家ではない。となれば相当な成績優秀者だろう。
平民は実力で優遇される。つまり実力があれば学費免除や減額もありうるのだ。
「クラスはどちらに?」
俺はバクバクと高鳴る心臓を抑えた。
「術式クラスを主体としています」
「なるほど、だから会ったことがなかったんだ、僕は回路クラスですから」
術式は魔法を打ち出すことを主体としている。呪文を主に学んでいる。
基本魔方陣は術式回路士気も変わらないので、基礎クラスは同じだが、たぶんそこでも分かれていたのだろう。
アルケオは必死に顔面の筋肉を叱咤してきざな笑みを作ろうとしている。
背後でモノが何とも言えない表情を浮かべていたがそれは気にしないことにした。
「どうしてここに」
魔法学校の生徒は士官学校にあまり近づいたりしないはずだ。
「俺に会いに来たんだよ」
先ほどディノと打ち合いをしていた士官候補生がいつの間にか打ち合いをやめてすぐそばに来ていた。
「幼馴染のアンドリューです」
いかにも親しげな様子にアルケオの鼓動はさらに早まる。こめかみに血がざわめくこの感覚は嫉妬だと自覚する。
「近所の娘のサイカニアだよ」
大柄な男の傍で少女の華奢さが際立つ。
「アルケオ・プリテスです。ここで会ったのもご縁ですよね、これからどうかよろしくお願いします」
声が上ずっていた。しかし、目の前に差し出されたチャンスにダメもとで食らいつかないで何が男かとサイカニアの手を取った。
握られた手をしばらくサイカニアは見ていたが、小さく息を吐く。
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サイカニアはにっこりと笑った。
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