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アルケオの失望
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俺、アルケオ・プリテスは基本的に野心を持たない男だった。そこそこ整った容姿に、平民ながらかなり裕福な家庭。そして一応優秀とされる成績を収めている。このまま贅沢さえ言わなければそれなりに結構な人生を送れるとわかっている。
そんな俺がいきなり不幸のどん底に突き落とされた。
容姿も環境も成績も自分によく似ているが、いまいち自分より地味。ぶっちゃけ下に見ていた。そんな友人、コンプト・グナソウスが俺を差し置いて、可愛い彼女を作っていたことが分かったのだ。
二人、連れ立って歩いているところに遭遇してしまった俺は表情をこわばらせないように顔面の筋肉に必死に力を入れた。
手をつなぐ、そのしぐさだけで二人がただならぬ関係であることは読み取れた。
コンプトがジュラ・マイアと呼ばれているその彼女とは書庫で知り合ったらしい。
灰色の髪にくりくりした薄茶の瞳の丸顔な彼女は地味ながら愛らしかった。
一見して目立つ容姿ではないが、好感の持てる笑顔と、隣のにやけ切った顔が実に腹立たしい。
俺は赤の混じった黒髪に身長が少しだけコンプトより高い。
対してコンプトは薄茶の髪に薄茶の瞳、全体的に茫洋とした顔立ちと印象で。三日見なければ存在後と忘れ去られると言われる暗い影が薄い。
絶対自分のほうがましなのに歯噛みしても現実は変わらない。
だからと言って俺にそう簡単に彼女ができる可能性は限りなく低かった。
俺の通っているのは魔法使い専門学校。国の中枢を担う魔法使いを養成する機関だが、アルケオの母国は王政貴族国家。魔法使い専門学校も貴族御用達。俺やコンプトのような平民出身者は極めて少数派だった。
俺の実家は魔法関連の商品も扱う商家だったので、できれば魔法専門学校で嫁を見つけて来いと親父に言われていたが、学校女性の大多数である貴族女性と平民の結婚にはものすごいハードルがある。
さらに平民女性と貴族男性ならまだハードルが低いということでほとんどの平民女性は玉の輿狙いという相手がいないという状況だった。
それでもあいつよりまし、そう下に見ていた相手にとてつもなく希少価値の高い玉の輿願望のない平民女性をかっさらわれたのだ。
卒業間際になればある程度現実を悟って平民で妥協しようとする女性ともでてこようがそれはまだまだ先の話だ。だって半年前に入学したばかりだし。
コンプトが彼女持ちであり、俺が独り身という状況がまだ数年続くということになる。
うちひしがれ切った俺は二人の後ろ姿が見えなくなった瞬間崩れ落ちた。
魔法使い専門学校キャンパスは今日も様々な色のローブをまとった生徒たちであふれている。
在校生から、用事があってやってきた卒業生まで、人人人だ。
空には極楽鳥が浮遊している。極楽鳥は足を持たず生涯地上に降りない、その翼は飛ぶには短すぎるが、それでも浮遊している不条理な鳥だ。
俺はその虹色の翼を見あげているふりをして涙がこぼれないようにこらえた。
不意に俺の黒いローブを引っ張る気配を感じた。
ハルキゲニア・スパルサだった。
純白の髪に真っ赤な瞳、貴族でも最低の騎士爵であるが貴族の生まれには変わりない。
普段は自分と身分や成績の釣り合った少女たちと一緒に行動しているのだが、今日に限って一人だった。
ハルキゲニアは俺のローブを握ったままどこかもの言いたげな目をしてじっとしていた。
「何の用だ」
俺はこいつとは敬語では話さない。もともと貴族としては名ばかりであるし、成績も悪い。
貴族と平民の学校内での大きな差は貴族はどれほど悪い点数を取ったとしてもそのまま在学することが可能だが、平民は一定以上の点数を取らねば即退学。
本来貴族だけに門徒を開いているこの学内で、貴族以外の連中を実力もないのに優遇する必要はないということで。
ただし、実力さえ示せば、その実力がそのまま優遇となる。
俺自身も中堅より少しだけ上の成績を収めている。
科目によっては上級も狙える。そうしたそれなりに優秀な平民男性に狙いを定める一派もいるのだ。
ハルキゲニア、とその仲間達は学年最下位の劣等生集団だった。そのため多少の報酬を払ってアルケオに家庭教師のようなことをしてもらっている。
そしてその狙いは明らかだ。
俺の実家の資産と将来。下級貴族なら裕福な平民も視野に入れている。
残念ながら俺にその気はない。貴族女性を妻に迎えようとすれば多額の金銭を政府に収めねばならない。俺は長男ではないので家族が俺の結婚にそれだけの金を払うわけがないとわかっているのだ。
だから俺を獲物に定めても無駄だ、俺は捕まるつもりはない。
「行っちゃだめ」
ハルキゲニアはそれだけを言った。
そんな俺がいきなり不幸のどん底に突き落とされた。
容姿も環境も成績も自分によく似ているが、いまいち自分より地味。ぶっちゃけ下に見ていた。そんな友人、コンプト・グナソウスが俺を差し置いて、可愛い彼女を作っていたことが分かったのだ。
二人、連れ立って歩いているところに遭遇してしまった俺は表情をこわばらせないように顔面の筋肉に必死に力を入れた。
手をつなぐ、そのしぐさだけで二人がただならぬ関係であることは読み取れた。
コンプトがジュラ・マイアと呼ばれているその彼女とは書庫で知り合ったらしい。
灰色の髪にくりくりした薄茶の瞳の丸顔な彼女は地味ながら愛らしかった。
一見して目立つ容姿ではないが、好感の持てる笑顔と、隣のにやけ切った顔が実に腹立たしい。
俺は赤の混じった黒髪に身長が少しだけコンプトより高い。
対してコンプトは薄茶の髪に薄茶の瞳、全体的に茫洋とした顔立ちと印象で。三日見なければ存在後と忘れ去られると言われる暗い影が薄い。
絶対自分のほうがましなのに歯噛みしても現実は変わらない。
だからと言って俺にそう簡単に彼女ができる可能性は限りなく低かった。
俺の通っているのは魔法使い専門学校。国の中枢を担う魔法使いを養成する機関だが、アルケオの母国は王政貴族国家。魔法使い専門学校も貴族御用達。俺やコンプトのような平民出身者は極めて少数派だった。
俺の実家は魔法関連の商品も扱う商家だったので、できれば魔法専門学校で嫁を見つけて来いと親父に言われていたが、学校女性の大多数である貴族女性と平民の結婚にはものすごいハードルがある。
さらに平民女性と貴族男性ならまだハードルが低いということでほとんどの平民女性は玉の輿狙いという相手がいないという状況だった。
それでもあいつよりまし、そう下に見ていた相手にとてつもなく希少価値の高い玉の輿願望のない平民女性をかっさらわれたのだ。
卒業間際になればある程度現実を悟って平民で妥協しようとする女性ともでてこようがそれはまだまだ先の話だ。だって半年前に入学したばかりだし。
コンプトが彼女持ちであり、俺が独り身という状況がまだ数年続くということになる。
うちひしがれ切った俺は二人の後ろ姿が見えなくなった瞬間崩れ落ちた。
魔法使い専門学校キャンパスは今日も様々な色のローブをまとった生徒たちであふれている。
在校生から、用事があってやってきた卒業生まで、人人人だ。
空には極楽鳥が浮遊している。極楽鳥は足を持たず生涯地上に降りない、その翼は飛ぶには短すぎるが、それでも浮遊している不条理な鳥だ。
俺はその虹色の翼を見あげているふりをして涙がこぼれないようにこらえた。
不意に俺の黒いローブを引っ張る気配を感じた。
ハルキゲニア・スパルサだった。
純白の髪に真っ赤な瞳、貴族でも最低の騎士爵であるが貴族の生まれには変わりない。
普段は自分と身分や成績の釣り合った少女たちと一緒に行動しているのだが、今日に限って一人だった。
ハルキゲニアは俺のローブを握ったままどこかもの言いたげな目をしてじっとしていた。
「何の用だ」
俺はこいつとは敬語では話さない。もともと貴族としては名ばかりであるし、成績も悪い。
貴族と平民の学校内での大きな差は貴族はどれほど悪い点数を取ったとしてもそのまま在学することが可能だが、平民は一定以上の点数を取らねば即退学。
本来貴族だけに門徒を開いているこの学内で、貴族以外の連中を実力もないのに優遇する必要はないということで。
ただし、実力さえ示せば、その実力がそのまま優遇となる。
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科目によっては上級も狙える。そうしたそれなりに優秀な平民男性に狙いを定める一派もいるのだ。
ハルキゲニア、とその仲間達は学年最下位の劣等生集団だった。そのため多少の報酬を払ってアルケオに家庭教師のようなことをしてもらっている。
そしてその狙いは明らかだ。
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残念ながら俺にその気はない。貴族女性を妻に迎えようとすれば多額の金銭を政府に収めねばならない。俺は長男ではないので家族が俺の結婚にそれだけの金を払うわけがないとわかっているのだ。
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