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船出
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本当に窮屈だった。アリサはしみじみとそう思った。
船というのは予定が立てづらい。二三日ぐらいの誤差で済むなら運のいい方、場合に掘っては半月ほどずれ込むことも珍しくない。
そんなわけで三日間ほとんど与えられた部屋でアリサは過ごした。三日で済んで本当に良かった。
たとえどんなに広い部屋でもその部屋でしか行動できないとなるとほぼ軟禁と変わらない。
たまにミリエルが気を利かせてお菓子など差し入れてくれたが彼女も忙しい人でほとんど顔を合わせることは無かった。
手荷物を背負ってアリサは漸く旅立てるとウキウキしながら港に立った。
帆を下ろした帆船がいくつも並ぶそこで、アリサは付き添いに乗る船を教えてもらった。
付き添いは目つきの鋭い中年男だ。茶色い髪に茶色い瞳、目つきが悪いことを覗けば代わり映えしない顔立ちと言える。そして背丈は高からず低からず、そして痩せてもいなければ太ってもいない。実に密偵向きの男だと思う。
おそらくアリサを隠れ蓑にするつもりなんだろうなと想像した。
付き添いは目的地までアリサを送ってくれるらしく並んで立っている。
「言っておくが、船の中は狭い、お前に与えられた場所は寝台くらいだと思え」
寝台と言ってもアリサに与えられた部屋のアリサが十人寝られるような広大な寝台ではなく安宿の大の大人が手足を丸めてようやく寝られるような小さな寝台ぐらいだという。
それくらいなら十分だ。そして盗難の恐れもある。船員たちは面倒がって何かとられても取り合ってくれない。
「それは大丈夫です、荷物は自分で運べるくらいしか持っていないので、肌身離さず身に着けていることが可能です」
アリサはにこにこと笑う。
この男はどれほど知っているんだろう。だが知っていようと知られていまいが、アリサは猫をかぶり続ける。
船の中は予想以上に狭かった。しかし、あの部屋でしか行動できなかったことに比べれば甲板を歩くことができる分過ごしやすそうだった。
匂いもあったが、アリサは知っている。ほんの一日で鼻は麻痺する。においが気になるのはほんのわずかな時間だ。
アリサの寝台には干してない布団が置いてある。そこでどれほど過ごす前提なのかは知らないが。あまり長居したくはないなと思った。
「何日ぐらいかかりますか」
正確にはわからないにしろおおよそのところぐらいは聞いておきたかった。
「十日というところだ」
結構長い、そして最大でずれて半月はないようだと思う。
「五日後に中継地点の島に上陸する。ただし乗り遅れたらもう船に乗れないからそこは考えて行動しろ」
アリサの船台はサフラン商会とミリエルが負担していた。帰りはアリサが給金をためて都合するんだろうか。
そのあたりはあちらの様子次第だなとアリサは判断し寝台に腰かけた。
船で出される食糧以外にミリエルが干し果物と乾燥仕切ったチーズを持たせてくれた。チーズは匂いが漏れないよう厳重に油紙でくるんである。
「これに手を付ける事態にならないといいな」
アリサはそんなことを考えているうち船が大きく揺れた。
「出向だ」
付き添いの男はそう呟く。
アリサは荷物を背負ったまま慌てて甲板に上がる。さっきまでアリサが立っていた場所がどんどん遠くなる。船は存外早く進む。
潮風に髪を弄らせてアリサは遠ざかっていく港をただ眺めていた。
船というのは予定が立てづらい。二三日ぐらいの誤差で済むなら運のいい方、場合に掘っては半月ほどずれ込むことも珍しくない。
そんなわけで三日間ほとんど与えられた部屋でアリサは過ごした。三日で済んで本当に良かった。
たとえどんなに広い部屋でもその部屋でしか行動できないとなるとほぼ軟禁と変わらない。
たまにミリエルが気を利かせてお菓子など差し入れてくれたが彼女も忙しい人でほとんど顔を合わせることは無かった。
手荷物を背負ってアリサは漸く旅立てるとウキウキしながら港に立った。
帆を下ろした帆船がいくつも並ぶそこで、アリサは付き添いに乗る船を教えてもらった。
付き添いは目つきの鋭い中年男だ。茶色い髪に茶色い瞳、目つきが悪いことを覗けば代わり映えしない顔立ちと言える。そして背丈は高からず低からず、そして痩せてもいなければ太ってもいない。実に密偵向きの男だと思う。
おそらくアリサを隠れ蓑にするつもりなんだろうなと想像した。
付き添いは目的地までアリサを送ってくれるらしく並んで立っている。
「言っておくが、船の中は狭い、お前に与えられた場所は寝台くらいだと思え」
寝台と言ってもアリサに与えられた部屋のアリサが十人寝られるような広大な寝台ではなく安宿の大の大人が手足を丸めてようやく寝られるような小さな寝台ぐらいだという。
それくらいなら十分だ。そして盗難の恐れもある。船員たちは面倒がって何かとられても取り合ってくれない。
「それは大丈夫です、荷物は自分で運べるくらいしか持っていないので、肌身離さず身に着けていることが可能です」
アリサはにこにこと笑う。
この男はどれほど知っているんだろう。だが知っていようと知られていまいが、アリサは猫をかぶり続ける。
船の中は予想以上に狭かった。しかし、あの部屋でしか行動できなかったことに比べれば甲板を歩くことができる分過ごしやすそうだった。
匂いもあったが、アリサは知っている。ほんの一日で鼻は麻痺する。においが気になるのはほんのわずかな時間だ。
アリサの寝台には干してない布団が置いてある。そこでどれほど過ごす前提なのかは知らないが。あまり長居したくはないなと思った。
「何日ぐらいかかりますか」
正確にはわからないにしろおおよそのところぐらいは聞いておきたかった。
「十日というところだ」
結構長い、そして最大でずれて半月はないようだと思う。
「五日後に中継地点の島に上陸する。ただし乗り遅れたらもう船に乗れないからそこは考えて行動しろ」
アリサの船台はサフラン商会とミリエルが負担していた。帰りはアリサが給金をためて都合するんだろうか。
そのあたりはあちらの様子次第だなとアリサは判断し寝台に腰かけた。
船で出される食糧以外にミリエルが干し果物と乾燥仕切ったチーズを持たせてくれた。チーズは匂いが漏れないよう厳重に油紙でくるんである。
「これに手を付ける事態にならないといいな」
アリサはそんなことを考えているうち船が大きく揺れた。
「出向だ」
付き添いの男はそう呟く。
アリサは荷物を背負ったまま慌てて甲板に上がる。さっきまでアリサが立っていた場所がどんどん遠くなる。船は存外早く進む。
潮風に髪を弄らせてアリサは遠ざかっていく港をただ眺めていた。
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