ぐろりあ

karon

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午睡

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 私の意識は途切れ途切れに目覚めては眠っている。
 いつの間にか私はベッドから降りて、絨毯の上に座っていた。
 足を投げ出し身体を脱力しきった姿勢で。その姿勢以外全く動けない。
 だけど変だ。私は目の前のベッドを見た。
 ベッドが大きすぎる。明らかに私の身長より高い位置にマットレスがある。
 そして気づく、私はグロリアと同じくらいに縮んでいるのだ。
 不意に私を抱き上げる手が。それは栗色の髪をした異国人めいた美貌の女性。
 ガラスのように青い瞳に映る私は、とてつもなく地味で、可愛くない人形。
 ベリーショートの髪が、子供のいたずらで切り刻まれたようにみじめったらしく見える。
 純和風な顔立ちはこけしより顔の表情が乏しい。
 そんなみじめな人形の私を女は満面の笑みで抱きしめた。
 何かが吸われていく。そんな気がすると同時に私は再び意識を失う。
 何度も意識が目覚めた後、見知らぬ美しい女が私を眠らせる。
 不意に気付いた。あれはグロリアだ。
 グロリアが私を乗っ取って、私を人形に閉じ込めた、入れ替えた?
 分からないけれど、グロリアさえいなければこんなことにならなかったはずだ。
 足音がする。またグロリアがやってきた?
 だがやってきたのは旦那だった。久しぶりに見るのか?とにかく私の気分としてはそう。
 その旦那はずいぶんとやつれていた。もともと細かったのにさらに頬がそげている。目だけがぎらぎらと鈍く底光りしているようだ。
 その旦那は絨毯の上に座り込んでいる私を無雑作に蹴った。
 私を見下ろす目は、どこか乾いている。
 私は動けないまま横倒しになった。
 私は本棚に寄りかかって座っていたようだ。不意に本のタイトルが読み取れた。
 以前旦那が読んでいた未来のイブ。
 現実の女に絶望した主人公が求めたのは理想の女、それは世にも美しい人形の少女。
 はっきり言ってふざけんなって思った。
 現実の女に絶望した?そもそもこの、物語の中の世界で、女は結婚して専業主婦になる以外のすべての道を切り落としたのは他ならない男だろう。
 現実の欲望?単に生きていきたいと思っているだけ、そのために必要なのが、稼ぎのいい男というだけ。
 働いてお金を稼ぐことが可能なら、そちらを目指す女だってたぶんいた。でもそれができないように社会自体をそうしておいて、女が嫁ぎ先として男の財産を値踏みするのがそんなに卑しいことか?
 そして理想の美女が人形。女は自分の意思を持つことすら許されないというの。
 私はこの本も、それを愛読する旦那のことも実は嫌いだった。旦那のことはそれ以外はまあ許せていたから言わなかったけど。
 旦那は嬉しそうにグロリアに触れる。
 旦那はやつれているだけじゃない。どこか薄汚れている。
 洗濯も風呂の支度も私の仕事だった。私がこうなってから、誰もそれをしない。
 だからと言って公衆浴場という手もあるし、確かちょっと車で行ったところに健康センターもあったはず。
 いや、食事もまともにとっていない。
 辛うじて、生きるぎりぎりの量だけをとっているけれど、それもいつまで続くか怪しいものだ。
 グロリアは私に手を伸ばす、グロリアがふれると私の中の何かが吸われて意識を保っていたいけれど視界が白くなる。
 私に手を伸ばすグロリアとそれをなにやら嫌そうな目で見ている旦那を見ているうち、視界は真っ白で何も見えなくなった。
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