ぐろりあ

karon

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寝室

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 体調はさらに悪化した。
 それでもだるい身体に鞭打ちパートに出る。
 いや、お金に困っているんじゃない。ただ家にいたくなかった。寝ているほうが楽なのはわかっていたけれど。あのベッドに寝ていたくなかったのだ。
 あの夢見が悪かった日から私はグロリアの傍にいたくない。
 一度旦那のベッドのわきにおいてほしいと頼んだけれど、旦那のベッドは窓際だ。アンティークドールに直射日光は良くないと却下された。
 自分でもわかっている。ただの人形があるだけなのに、どうしてこんなに嫌な気分になるんだろう。
 私はそっと頬を撫でる。
 食欲がないせいか少し痩せているようだ。私はもともとやせぎすなので痩せてもそれは貧相になっただけだ。
 たぶん神経過敏になっているだけだ。そう、グロリアはただの人形なんだから。
 そっとグロリアのドレスをめくってみる。
 古い生地はとんでもなくもろい。ちょっと触っただけでもろっと崩れる。
 グロリアのロングスカートの下の足には球体関節があった。
 思わず目を瞬かせる。
 球体関節人形はたぶんアンティークドールより新しい様式のはずだ。
 袖をまくってみると、肘にも球体関節がついていた。
 これはいったい何なんだろう。
 絶対本物のアンティークドールじゃない。本物なら、布でできた体に陶器で焼かれた手足が縫い付けられているものだ。
 かといって贋物というわけでもない。それならこんな解りやすい間違いであり、手のかかる球体関節なんかつけるわけがない。
 そうなると、この人形は思っていたよりもっと新しいのかもしれない。
 アンティークドールに似せた球体関節人形という前衛芸術的なものかも。
 そこまで考えて思考を放棄した。
 馬鹿々々しい、ちょっと体調を崩しただけだろう。明日社長おすすめの病院に行けばいい。そこで精密検査でもなんでも受ければいい。私の体調不良が買ってきた骨董人形のせいなんて、ホラー小説そんなに読んだつもりはなかったんだけど。
 でも寝室にこれはやめてほしいなと、私は思った。

 翌日私は起き上がれなくなっていた。
 しまった、昨日のうちに病院に行っていればよかった。
「お願い、ちょっと病院に送っていってほしいんだけど」
 旦那に頼む。
 身体がだるくて、歩くのもおっくうだ。昨日なら何とかバスを乗り継いで病院に行けたのだが。
「悪い、今日は仕事の都合で、まあ、今日はゆっくりしていろよ、明日も調子悪いなら病院に連れて行ってやるから」
 普段寝込まないから、体調が悪いと言っても相手にしてくれない。
 旦那は私が寝ているベッドを見下ろし、そしてグロリアの頭をそっと撫でる。
 グロリアの唇が吊り上がった。不意にそんな目の錯覚に襲われた。

 
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