パンデミック

karon

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釣り堀に

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 佐藤が帰ってきたときフロント嬢が佐藤に声をかけた。
「実は、大貫さんが病院に行ったんです、あ、大貫さんが病気やけがをしたわけじゃないんですが、山田さんが倒れて、大貫さんが付き添って行ってしまったんです」
「病院ですか?」
 この町には病院は二つ、一つは個人診療所で、診察室と待合室があるだけのこじんまりとした病院で。軽い疾病程度はそちらに行く。
 もう一つは、佐藤は軽くめまいを覚えた。おそらく敵の手に乗っ取られていると思われる。敵の本拠地中の本拠地だ。
「迎えに行ってきます」
 ホームセンターの手提げを片手にスマホで病院の位置を確認する。
「総合病院で間違いないんですね」
「あーそれはまあ」
 自力歩行できない人間は個人診療所を選ばない。
「昨日ちょっと風邪気味って言ってたけど、急に倒れるまで悪化するって珍しいな」
 ゆかりが首をかしげている。
 山田さんがテロの副産物に侵されている可能性は高い。あれは風邪と一緒で空気感染するのだ。
「マスクを渡しておくべきだったか」
 病人はできれば増えてほしくないのだが。
 やれやれと歩いて病院まで行くことにした。
 ホテル内のパソコンはセキュリティーキーを一度でも間違えれば即すべてのデータが消滅するプログラムをかけてある。
 それに取るべき情報はすでに取った後だ。
「やれやれ、乗り込んでいくことになった」
 軽くため息をついた。歩いていけばわずか数分、それくらいこの町は狭い。タクシーを呉羽が使ったのは山田なる女性が大変ふくよかだったからだろう。呉羽は割合細身だった。
 散歩代わりにてくてく歩いて、たどり着いてみればそれはくすんだ白亜の建物だった。
 病院の周囲は駐車場と申し訳程度の緑。そして総合病院の看板が建てられた門。
 間違いようがないほど普通の病院だった。
 信号を渡った向こう側に薬局の看板もある。全国にどこにでもある病院の一風景だった。
 そして、妙に体格のいい看護士がいた。
 看護師は最近男性も増えてきたが女性が圧倒的に多い。
 ただ、その身のこなしを見れば、どういう反省を送ってきたかは大体察しが付く。無意識に相手の足運びに視線が向いてしまう。
 佐藤の視力に問題はない。眼鏡は自分の視線を相手に悟らせないようにするための小道具だった。
「申し訳ありませんが、山田という女性が運び込まれてきませんでしたか?」
 そう確認したが、山田という女性の情報は与えてもらえなかった。
「それなら付き添いの方は?」
 それも知らないという。
 目の前の平凡な顔の中年女性はそれ以上頑として情報を与えようとしない。
 受付で粘っても無駄と判断し、周囲を見回した。
 風邪と思われる症状で苦しそうに座り込んでいるで待合室は満員だった。
 その中に山田という女性の顔を探したがそれはいっこうに見つからない。付き添ったはずの呉羽もだ。
 勝手に動き回るわけにもいかない。それにあのホテルのフロント嬢、磯野嬢であれば証言はしてもらえる。警察に話をするべきか。
 病院がらみで隠ぺいが行われているなら、磯野嬢一人の証言では少し弱い。
 やむを得ず、駐車場のあたりを歩く。もしかしたらタクシーがまだ待っているかもしれない。
 そう思ってそれらしいタクシーを探すことにした。
 待っているタクシーのそばを歩いていくと、いきなり背中に固いものが押し付けられた。
「振り返るな」
 押し殺した声がした。
「手を挙げるべきかな」
「そんな目立つまねされちゃ困る」
 多少動かないと魚も引っかからないなそんなことを佐藤は思った。
 
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