18 / 21
学園祭最終日 5
しおりを挟む
「一つ聞こう、君は私が誰か知らなかった?」
「ええ、特に気にしたこともありませんでしたし」
王子様が男子棟にいるということは知っていた。それは学園では常識だったからだ。しかしわざわざ顔を拝みに行こうなどということは考えなかった。
「それに関係ないでしょう、私はブルジョワ、もちろん将来仕事でお付き合いはあるかもしれませんけれど、それにしたって直接お会いする機会などないでしょうし」
我が家の最高級絹織物は王室御用達なので王宮までお父様が直々に運んでいくが王族と我が家のかかわりなどそれくらいのものだ。
「私は君が好きだと言った」
「さようですか、それは命令ですの」
私はブルジョワであり、上の命令は絶対服従なので王族の命令なら聞かなければならない。たとえ相手がどれほどいけ好かない男でも命令なら妾になることもやむを得ない。
「あの、どう考えても私の勘違いだったみたいで」
公爵令嬢が恐る恐る口を開く。
「誰がお前に口をきいていいと言った」
うずくまった公爵令嬢に怒鳴りつけた。
「淑女にそのような口を利くものではないと思いますけれど」
私はうずくまった令嬢の横に座った。
「それで、どうなさいますの」
「あの、私は彼女に謝らなければならないと思います」
公爵令嬢はそっと目を伏せて涙のにじんだ目で私を見た。
「私は何という誤解をしたのでしょう」
そして新たな涙がはらはらと零れ落ちた。
「過ちを理解したなら詫びるといい」
「ジャネット・ウィービング。貴女を誤解していたことは心からお詫びさせてもらいます。私は勘違いをしていたわ。貴女は殿下のことをこれっぽっちも欲しいと思っていないのね」
最後の言葉を聞いたとき王子様は目をむいた。
「貴女は殿下のことこれっぽっちも愛していない。むしろ迷惑だと思っているのね」
「どうして殿下が私と恋愛をしているつもりになったのか全く分からないのです」
私としても心からの本音で答えた。
王子様はいきなり私の前に膝をついて私の手を取った。
「君はブルジョワ、庶民のはずだ。ただ愛する人間と手に手を取って共に歩むことができる」
確かに一般庶民は貴族に比べれば恋愛は比較的自由だがあくまで比較的だ。
「つまり自発的に恋愛をして結婚をするような関係にあこがれているということでしょうか」
「そうだ」
正気かこいつ。
「あのですね、一般庶民だとしても親同士の折り合いが悪くて愛し合う二人が結ばれないなんてことはざらにあるんですよ」
私は噛んで含めるように言った。
「自発的に恋愛ですか」
「私が君を選んだんだぞ」
「ですからご命令ですかと聞いたのですが、王族の命令なら私に逆らうすべはありません。そして自発的な恋愛をお望みなら申し訳ありませんがお断りします、この場合不敬罪はどうなるんでしょうね」
私はにっこりと笑って見せた。
ブルジョワだからこそなめられたら終わりだ。何しろ我々は一般庶民から貴族と同格まで這い上がったのだから。
弱気になるな、どこまでも強気で押せと死んだお爺様もおっしゃっていたし。
「ええ、特に気にしたこともありませんでしたし」
王子様が男子棟にいるということは知っていた。それは学園では常識だったからだ。しかしわざわざ顔を拝みに行こうなどということは考えなかった。
「それに関係ないでしょう、私はブルジョワ、もちろん将来仕事でお付き合いはあるかもしれませんけれど、それにしたって直接お会いする機会などないでしょうし」
我が家の最高級絹織物は王室御用達なので王宮までお父様が直々に運んでいくが王族と我が家のかかわりなどそれくらいのものだ。
「私は君が好きだと言った」
「さようですか、それは命令ですの」
私はブルジョワであり、上の命令は絶対服従なので王族の命令なら聞かなければならない。たとえ相手がどれほどいけ好かない男でも命令なら妾になることもやむを得ない。
「あの、どう考えても私の勘違いだったみたいで」
公爵令嬢が恐る恐る口を開く。
「誰がお前に口をきいていいと言った」
うずくまった公爵令嬢に怒鳴りつけた。
「淑女にそのような口を利くものではないと思いますけれど」
私はうずくまった令嬢の横に座った。
「それで、どうなさいますの」
「あの、私は彼女に謝らなければならないと思います」
公爵令嬢はそっと目を伏せて涙のにじんだ目で私を見た。
「私は何という誤解をしたのでしょう」
そして新たな涙がはらはらと零れ落ちた。
「過ちを理解したなら詫びるといい」
「ジャネット・ウィービング。貴女を誤解していたことは心からお詫びさせてもらいます。私は勘違いをしていたわ。貴女は殿下のことをこれっぽっちも欲しいと思っていないのね」
最後の言葉を聞いたとき王子様は目をむいた。
「貴女は殿下のことこれっぽっちも愛していない。むしろ迷惑だと思っているのね」
「どうして殿下が私と恋愛をしているつもりになったのか全く分からないのです」
私としても心からの本音で答えた。
王子様はいきなり私の前に膝をついて私の手を取った。
「君はブルジョワ、庶民のはずだ。ただ愛する人間と手に手を取って共に歩むことができる」
確かに一般庶民は貴族に比べれば恋愛は比較的自由だがあくまで比較的だ。
「つまり自発的に恋愛をして結婚をするような関係にあこがれているということでしょうか」
「そうだ」
正気かこいつ。
「あのですね、一般庶民だとしても親同士の折り合いが悪くて愛し合う二人が結ばれないなんてことはざらにあるんですよ」
私は噛んで含めるように言った。
「自発的に恋愛ですか」
「私が君を選んだんだぞ」
「ですからご命令ですかと聞いたのですが、王族の命令なら私に逆らうすべはありません。そして自発的な恋愛をお望みなら申し訳ありませんがお断りします、この場合不敬罪はどうなるんでしょうね」
私はにっこりと笑って見せた。
ブルジョワだからこそなめられたら終わりだ。何しろ我々は一般庶民から貴族と同格まで這い上がったのだから。
弱気になるな、どこまでも強気で押せと死んだお爺様もおっしゃっていたし。
2
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します

お粗末な断罪シナリオ!これって誰が考えたの?!
haru.
恋愛
双子の兄弟王子として育ってきた。
それぞれ婚約者もいてどちらも王位にはさほど興味はなく兄弟仲も悪くなかった。
それなのに弟は何故か、ありもしない断罪を兄にした挙げ句国外追放を宣言した。
兄の婚約者を抱き締めながら...
お粗末に思えた断罪のシナリオだったけどその裏にあった思惑とは一体...
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる