貴方は誰ですか

karon

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学園祭最終日 5

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「一つ聞こう、君は私が誰か知らなかった?」
「ええ、特に気にしたこともありませんでしたし」
 王子様が男子棟にいるということは知っていた。それは学園では常識だったからだ。しかしわざわざ顔を拝みに行こうなどということは考えなかった。
「それに関係ないでしょう、私はブルジョワ、もちろん将来仕事でお付き合いはあるかもしれませんけれど、それにしたって直接お会いする機会などないでしょうし」
 我が家の最高級絹織物は王室御用達なので王宮までお父様が直々に運んでいくが王族と我が家のかかわりなどそれくらいのものだ。
「私は君が好きだと言った」
「さようですか、それは命令ですの」
 私はブルジョワであり、上の命令は絶対服従なので王族の命令なら聞かなければならない。たとえ相手がどれほどいけ好かない男でも命令なら妾になることもやむを得ない。
「あの、どう考えても私の勘違いだったみたいで」
 公爵令嬢が恐る恐る口を開く。
「誰がお前に口をきいていいと言った」
 うずくまった公爵令嬢に怒鳴りつけた。
「淑女にそのような口を利くものではないと思いますけれど」
 私はうずくまった令嬢の横に座った。
「それで、どうなさいますの」
「あの、私は彼女に謝らなければならないと思います」
 公爵令嬢はそっと目を伏せて涙のにじんだ目で私を見た。
「私は何という誤解をしたのでしょう」
 そして新たな涙がはらはらと零れ落ちた。
「過ちを理解したなら詫びるといい」
「ジャネット・ウィービング。貴女を誤解していたことは心からお詫びさせてもらいます。私は勘違いをしていたわ。貴女は殿下のことをこれっぽっちも欲しいと思っていないのね」
 最後の言葉を聞いたとき王子様は目をむいた。
「貴女は殿下のことこれっぽっちも愛していない。むしろ迷惑だと思っているのね」
「どうして殿下が私と恋愛をしているつもりになったのか全く分からないのです」
 私としても心からの本音で答えた。
 王子様はいきなり私の前に膝をついて私の手を取った。
「君はブルジョワ、庶民のはずだ。ただ愛する人間と手に手を取って共に歩むことができる」
 確かに一般庶民は貴族に比べれば恋愛は比較的自由だがあくまで比較的だ。
「つまり自発的に恋愛をして結婚をするような関係にあこがれているということでしょうか」
「そうだ」
 正気かこいつ。
「あのですね、一般庶民だとしても親同士の折り合いが悪くて愛し合う二人が結ばれないなんてことはざらにあるんですよ」
 私は噛んで含めるように言った。
「自発的に恋愛ですか」
「私が君を選んだんだぞ」
「ですからご命令ですかと聞いたのですが、王族の命令なら私に逆らうすべはありません。そして自発的な恋愛をお望みなら申し訳ありませんがお断りします、この場合不敬罪はどうなるんでしょうね」
 私はにっこりと笑って見せた。
 ブルジョワだからこそなめられたら終わりだ。何しろ我々は一般庶民から貴族と同格まで這い上がったのだから。
 弱気になるな、どこまでも強気で押せと死んだお爺様もおっしゃっていたし。

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