5 / 17
代替わり
しおりを挟む
背後を振り返れば、見逃していた店名が見えた。
『小物屋、飛び立ち草』
こんもりとした葉の中から、鳥のくちばしのようなつぼみが飛び出す様から名付けられた花の名前が使われていた。
瀟洒なその建物と、あのどす黒い建物がつながっているとは想像もつかなかったがそれもまた持ち主をまねたようにも見える。
「とりあえず、賭けは俺の勝ちだな」
マディソンの言葉に、部下の顔が引きつる。
「ちょっと待ってくださいよ」
年齢、性別、本名すべてが不明の呪具屋闇夜鷹。しかし、さすがに警察の取り調べであれば、そのすべてを明かさざるを得ないだろう。
そう考えての賭けだった。
年齢はさすがに幅が大きすぎたため、男か女かで賭けた。
結果として、女性、マディソンの勝ちだった。
「たかがお茶一杯だろう、けちけちするな」
不満そうな部下にそういう。どうせ、職場の、安いだけが取り柄のお茶だ。
「おかえり」
呪具屋専門の部署に一応顔を出した。
「取り調べは終わったかい?」
「ああ、久しぶりでちょっと様子が変わっていたよ」
「そうなのか、まあ代替わりしたからな」
「代替わり?」
背後の部下が不思議そうに聞いた。
「そう、先代の時も似たような事件で取り調べたよな、お前と俺で」
呪具屋専門の部長を務めるかつての同僚をマディソンはちょっと後ろめたい気分で見た。
「当代は、フェアリスちゃんだったよ」
呪具屋専門部長は目じりのしわを深くした。
「しかし、あのお嬢ちゃんがもういっぱしの呪具屋になったか、俺たちも年を取るはずだ」
先代の取り調べの時、ドアの隙間からこちらを除いていた小さな少女の姿を思い出す。
フェアリスは当時の面影を少しだけ残していたが、やはり見違えた。
「もう結婚してるそうだぞ、実際あの小さなお嬢ちゃんの片鱗すらほとんど残っていない」
「先代の娘ですか、あの、最初から知ってたなんて言いませんよね」
世にも恨みがましい顔でマディソンを睨む。
「おいおい、結構正直な賭けだぜ、何せ、確実にあのお嬢ちゃんが跡目を継いだか俺にはわからなかったんだからな、別の弟子が継いだ可能性も小指の先ほどはあった」
「詭弁って知ってますか?」
「小指の先ほどは大げさだよ」
呪具屋専門部長が言う。
「呪具屋の子供が呪具屋になれると決まったもんじゃない、むしろそういう可能性は稀だ。弟子がついている可能性のほうが高いと思うね」
魔力は遺伝が不安定だ。魔力を持った両親から魔力を持たない子供が生まれることもあるし、魔力を持たない両親から魔力を持った子供が生まれることもある。
呪具屋は、魔力持ちの中でも特殊な才能が必要とされる。二代続くことは極めてま
『小物屋、飛び立ち草』
こんもりとした葉の中から、鳥のくちばしのようなつぼみが飛び出す様から名付けられた花の名前が使われていた。
瀟洒なその建物と、あのどす黒い建物がつながっているとは想像もつかなかったがそれもまた持ち主をまねたようにも見える。
「とりあえず、賭けは俺の勝ちだな」
マディソンの言葉に、部下の顔が引きつる。
「ちょっと待ってくださいよ」
年齢、性別、本名すべてが不明の呪具屋闇夜鷹。しかし、さすがに警察の取り調べであれば、そのすべてを明かさざるを得ないだろう。
そう考えての賭けだった。
年齢はさすがに幅が大きすぎたため、男か女かで賭けた。
結果として、女性、マディソンの勝ちだった。
「たかがお茶一杯だろう、けちけちするな」
不満そうな部下にそういう。どうせ、職場の、安いだけが取り柄のお茶だ。
「おかえり」
呪具屋専門の部署に一応顔を出した。
「取り調べは終わったかい?」
「ああ、久しぶりでちょっと様子が変わっていたよ」
「そうなのか、まあ代替わりしたからな」
「代替わり?」
背後の部下が不思議そうに聞いた。
「そう、先代の時も似たような事件で取り調べたよな、お前と俺で」
呪具屋専門の部長を務めるかつての同僚をマディソンはちょっと後ろめたい気分で見た。
「当代は、フェアリスちゃんだったよ」
呪具屋専門部長は目じりのしわを深くした。
「しかし、あのお嬢ちゃんがもういっぱしの呪具屋になったか、俺たちも年を取るはずだ」
先代の取り調べの時、ドアの隙間からこちらを除いていた小さな少女の姿を思い出す。
フェアリスは当時の面影を少しだけ残していたが、やはり見違えた。
「もう結婚してるそうだぞ、実際あの小さなお嬢ちゃんの片鱗すらほとんど残っていない」
「先代の娘ですか、あの、最初から知ってたなんて言いませんよね」
世にも恨みがましい顔でマディソンを睨む。
「おいおい、結構正直な賭けだぜ、何せ、確実にあのお嬢ちゃんが跡目を継いだか俺にはわからなかったんだからな、別の弟子が継いだ可能性も小指の先ほどはあった」
「詭弁って知ってますか?」
「小指の先ほどは大げさだよ」
呪具屋専門部長が言う。
「呪具屋の子供が呪具屋になれると決まったもんじゃない、むしろそういう可能性は稀だ。弟子がついている可能性のほうが高いと思うね」
魔力は遺伝が不安定だ。魔力を持った両親から魔力を持たない子供が生まれることもあるし、魔力を持たない両親から魔力を持った子供が生まれることもある。
呪具屋は、魔力持ちの中でも特殊な才能が必要とされる。二代続くことは極めてま
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」
GOM
キャラ文芸
ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。
そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。
GOMがお送りします地元ファンタジー物語。
アルファポリス初登場です。
イラスト:鷲羽さん
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あやかし猫の花嫁様
湊祥@書籍13冊発売中
キャラ文芸
アクセサリー作りが趣味の女子大生の茜(あかね)は、二十歳の誕生日にいきなり見知らぬ神秘的なイケメンに求婚される。
常盤(ときわ)と名乗る彼は、実は化け猫の総大将で、過去に婚約した茜が大人になったので迎えに来たのだという。
――え⁉ 婚約って全く身に覚えがないんだけど! 無理!
全力で拒否する茜だったが、全く耳を貸さずに茜を愛でようとする常盤。
そして総大将の元へと頼りに来る化け猫たちの心の問題に、次々と巻き込まれていくことに。
あやかし×アクセサリー×猫
笑いあり涙あり恋愛ありの、ほっこりモフモフストーリー
第3回キャラ文芸大賞にエントリー中です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる