後宮ダンジョン

karon

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ダンジョンの核

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 漸く核にたどり着いた。そこはやはり帝王の寝室だった。
 周辺に笛や壊れた弦楽器、そして鈴が散乱していた。
 芸達者な下級妃あたりが余興を演じるために用意されている物らしい。
 そして、奇麗な刺繍の入った薄い布が破れて散らばっている。おそらく側室たちが帝王の望に応じて着飾るための衣装だろう。
 ここまで薄い布を織りあげるのは相当な技術がいる。おそらくこの着物一枚でバジリコだったら一年食いつなげられる。
 とてつもなく広い寝室に、巨大な寝台があったのだろうが、その寝台は無残に破壊されていた。敷布のまつわりついた木材がおそらくそれだったのだろうという推測を与えてくれる。
 惨憺たる破壊された元は豪華だったらしい寝室。それを見て深いため息をついたのは誰だったのだろうか。
 それらを一瞥した後バジリコは目を閉じた。
 バジリコは声を聴いていた。
 ダンジョンの核そこには明確な知能と意思を持つ存在がいる。
 知能と意思はある。だけれどそれはバジリコの知るそれとはとてもかけ離れた存在だ。
 それは歌のように、それは悲鳴のようにあるいは笑い声。聞こえるのはその時々で違う。
 ダンジョンの核。それは世界に空いた穴。
 その穴からやってくる異形の者たち。そしてその背後にいる明確な意思。
 ただ一つだけわかることがある。
 彼らはこの場所に来たいのだ。
 何故この場所に来たいのかはわからない。旅に病んだわけでもないだろう。
 今ここでダンジョンの核を何とか出来るのはバジリコだけだ。
 魔導士であるバジリコだけがそれを成すことができる。
 バジリコは静かに目を閉じて流れに身を任せた。
「バジリコがお仕事を始めたよ」
 ミントがそう呟く。
 忘我の域に達した巫女のようにバジリコは流れに身を任せ心を飛ばす。
 歪んだガラス越しに見る景色のように向こう側が透けて見えるけれど、それを理解することはかなわない。かなった場合は自分の正気と引き換えだ。
 バジリコは足を踏み鳴らした。
 流れをリズムに取り込んでいく。
 バジリコは踊る。流れに合わせて。
 爪先はステップと同時に陣を組み、振り回す腕は呪文を空中に描き記す。
 無言でステップを踏むバジリコを取り囲んで守りに入った。
 このような任務に就くのが初めてであろう上級妃三人ですらだ。
 空中を泳ぐ魚のようなものが泡のように湧き出してきた。
「あ、これ高い奴」
 ミントが叫ぶ。
 ダンジョン生物の中には珍しいものや、有用とみなされたものがかなりあり、ダンジョン消滅の仕事をした際にそれを手に入れて売り払うのは余禄として認められていた。
 その魚のような生き物はその鱗が宝石の代わりになるという意味で高価だった。
 ミントは迷わずそれを自らの道具箱にしまう。バジリコの老後のための貯金をけなすミントだが、金が嫌いなわけではない。
 銀線で編まれた紐に自らの髪を編み込んだそれはミントの呪具。それに巻かれたものはほどかれるまで一切の行動を阻害される。
 ミントの明らかに小さな箱に質量を無視してしまわれた魚のような生き物をオパールは不思議そうに見ていたが、魔導士や呪術師の道具はそういうものだと納得したようだった。



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