後宮ダンジョン

karon

文字の大きさ
上 下
9 / 36

生存者に遭遇

しおりを挟む
 ジンジャーが斬り捨てた生き物の死骸をバジリコはしばらく観察していた。
「けっこう高度な生き物が発生しているみたいね」
 それは四肢備えた生き物だった。最初の原生生物のような単純な構造のものから複雑な構造のものが発生するとそのダンジョン化は第二段階に達したことを意味する。
「このままどんどん高度な、手ごわい生き物が生まれてきているとしたら、やっぱり広がるかしらね」
 鱗の生えた狸に似た、丸っこい手足をした生き物を捨てる。
 ダンジョンの生き物として利用価値はあまりない。
 ダンジョンの利用価値のある生き物はそらんじているのが冒険者の基礎だ。
 あまりうまみがない代わりさして手ごわくない生き物の死骸は最初に発生した原生動物らしいのが食い荒らしている。
 入り組んでわかりにくい建物、その中をわさわさと植物がはびこっている。
 蔓性の植物に足を取られそうにならないよう慎重に進む。
 ダンジョンを破壊するにはダンジョンを作るコアを破壊しなければならない。その場所は普通奥の方だが、この広大な建物の奥となると上級妃のいるあたりということになる。
「せめて食堂の場所くらい教えてくれればいいのに」
 同行を拒否した宦官たちは最低限の情報すら惜しんだ。
 後宮の官吏があの連中の仕事だということをわかっているんだろうか。
「そういえばどうして宦官は被害者にならなかったの?」
 ジャスミンの疑問は当然と言えよう。
 宦官は中にいる女性使用人の呼び出しと、新しい側室が後宮入りするときに送っていくのが主な仕事であり、雑事は女性使用人に一任されている。
 そして定期的に見回るのも仕事だが、ダンジョン化が起きた時はたまたまその時間ではなかったらしい。
 下草を踏みしだく音がした。
 足音は人の立てるものかそれ以外の音か聞き間違える者はいない。
 それは鹿によく似ていた。しかし大きく開けた口にはぞろりと牙が生えそろい、ふさふさとした鬣が生えている。
 結構上位の生き物だ。ジャスミンとジンジャーが武器を構える。
 その時唐突にそれはつんのめった。
 地をついた前足が何かに切断され身体が崩れる。
 後を追って地面に落ちた首を切断される。リーンと涼やかな金属音が周囲に響いた。
 その音をする方向を見るとすらりとした女が掲げた右手にチャクラムを回している。
 そのチャクラムが今いた肉食の鹿を始末した武器なのは疑うまでもない。
 チャクラムは涼やかな音とともに縮んでいき、そのまま女の腕輪になった。
「別チームがいるって聞いた?」
 ミントが思わず聞く。
 すらりとしたその女は優雅な足取りでバジリコのところまで歩いてくる。
 血のように赤い髪と赤い瞳をしていた。着ているものは丈夫な麻ののチェニックに膝までのスカートそれに防具を身に着けていた。
「あなた方は誰だ」
 女はそう聞いた。
「あたしたちは冒険者よ、この後宮がダンジョン化したのでそれを解決するために雇われたの」
 そう言ってジンジャーは残りの三人をちらりと見た。
「あたしはバジリコ」
「あたしはミント」
「ジンジャー」
「ジャスミン」
 それぞれに名乗ると女は深く頷いた。
「私はオパール・ファイヤー、陛下に側室としてお仕えしているもの」
 そしてそれはそれは優雅に四人に向かって一礼して見せた。
「われらの苦境にご支援いただけるようだ、感謝する」
 四人はからくり人形のようにうなずいた。
「こちらに我らが本拠としている場所がある」
 そう言って先に進むオパールに四人はついていった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...