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合同授業
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授業はほとんどの科目はクラスごとだが、選択科目に限り男女合同授業になる。
俺の取っているのは美術だった。
ただし、授業はひたすら無言で課題となる絵を模写したり写生したり、あと課題の絵を仕上げたりするのがすべてだ。
描いている途中で絵を覗き込んだ教授が、ここがよくないここが悪いと注意されるくらいでほとんど個人作業だ。
本日は大理石の彫像を写生することだった。
横にいるメアリアンがちっと舌打ちをする。
細かい模様を彫り込んだ鎧を着こんだ武人の彫像なので描くのが面倒くさいのだろう。
俺は逆に細かければ細かいほど燃えるたちだった。
俺は簡単に当たりを入れてサクサク描き進んでいく。
メアリアンはうなりながら何度もパンくずを使って描いては消し描いては消ししている。
「こういうのは思い切りだって」
小声でそっとメアリアンに囁くとメアリアンは睨みつける。そして俺の絵を覗き込んだ。
「なんでこの短時間でここまで描けるのよ」
そう言われても俺は単に絵が得意だからだとしか言えない。俺が人よりいい成績をとっているのは美術の授業だけと言っても過言ではない。
「そこ、私語は禁止だ」
教授の叱咤が飛ぶ。
教授は皺んだ手で、木炭をとりメアリアンの絵を覗き込むとあっちこっちにバツ印を書き込んだ。
メアリアンが泣きそうになる。
別に職業絵師になるわけじゃないのだが、とにかくこの教授は厳しい。
そして俺の絵を覗き込むとふんと鼻を鳴らして俺を無視してそのまま立ち去った。
メアリアンの名誉にかけて言うが、別にメアリアンは下手じゃない。それなりに正確に描けている。
そして教授に無視されるのは今に始まったことじゃない。ここ数年俺の絵を一瞥してそれ以上何も言わないのが通例となっている。
いまさら教授の一人や二人に嫌われたって今更だ。
俺は迷いなく木炭を走らせていた。
そして、全員一通りかけたところで授業が終わった。
「あの、お上手ですね」
不意にか細い声が聞こえた。
俺が道具を片付け、絵をイーゼルから外していると小柄な少女が話しかけてきた。
「そうでしょうか?俺としてはもう今一つなんですよね、何かつかめそうでつかめない」
俺は細かい模様をしっかりと書き込んだ絵を試すがめす見て言う。
そして我に返る。俺はいったい誰と会話していた?
恐る恐る振り返るとくりくりとした目を見開いて俺の絵を見ているルナ嬢がいた。
「ルナ嬢?」
「ちょっと気になって見に来てしまいました」
ルナ嬢は悪戯っぽく笑う。
「絵を見ても教授は文句をつけてきませんもの、あの教授すら文句のつけようのないみごとな絵だということでしょう」
俺の傍らでルナ嬢はにこにこと笑っている。そう俺の傍らで。
大事なことなので二度いう。
そして、ルナ嬢と語らう俺を誰もが妙なものを見る目で見ていた。
そしてメアリアンは哀れなものを見る目で俺を見た。
俺の取っているのは美術だった。
ただし、授業はひたすら無言で課題となる絵を模写したり写生したり、あと課題の絵を仕上げたりするのがすべてだ。
描いている途中で絵を覗き込んだ教授が、ここがよくないここが悪いと注意されるくらいでほとんど個人作業だ。
本日は大理石の彫像を写生することだった。
横にいるメアリアンがちっと舌打ちをする。
細かい模様を彫り込んだ鎧を着こんだ武人の彫像なので描くのが面倒くさいのだろう。
俺は逆に細かければ細かいほど燃えるたちだった。
俺は簡単に当たりを入れてサクサク描き進んでいく。
メアリアンはうなりながら何度もパンくずを使って描いては消し描いては消ししている。
「こういうのは思い切りだって」
小声でそっとメアリアンに囁くとメアリアンは睨みつける。そして俺の絵を覗き込んだ。
「なんでこの短時間でここまで描けるのよ」
そう言われても俺は単に絵が得意だからだとしか言えない。俺が人よりいい成績をとっているのは美術の授業だけと言っても過言ではない。
「そこ、私語は禁止だ」
教授の叱咤が飛ぶ。
教授は皺んだ手で、木炭をとりメアリアンの絵を覗き込むとあっちこっちにバツ印を書き込んだ。
メアリアンが泣きそうになる。
別に職業絵師になるわけじゃないのだが、とにかくこの教授は厳しい。
そして俺の絵を覗き込むとふんと鼻を鳴らして俺を無視してそのまま立ち去った。
メアリアンの名誉にかけて言うが、別にメアリアンは下手じゃない。それなりに正確に描けている。
そして教授に無視されるのは今に始まったことじゃない。ここ数年俺の絵を一瞥してそれ以上何も言わないのが通例となっている。
いまさら教授の一人や二人に嫌われたって今更だ。
俺は迷いなく木炭を走らせていた。
そして、全員一通りかけたところで授業が終わった。
「あの、お上手ですね」
不意にか細い声が聞こえた。
俺が道具を片付け、絵をイーゼルから外していると小柄な少女が話しかけてきた。
「そうでしょうか?俺としてはもう今一つなんですよね、何かつかめそうでつかめない」
俺は細かい模様をしっかりと書き込んだ絵を試すがめす見て言う。
そして我に返る。俺はいったい誰と会話していた?
恐る恐る振り返るとくりくりとした目を見開いて俺の絵を見ているルナ嬢がいた。
「ルナ嬢?」
「ちょっと気になって見に来てしまいました」
ルナ嬢は悪戯っぽく笑う。
「絵を見ても教授は文句をつけてきませんもの、あの教授すら文句のつけようのないみごとな絵だということでしょう」
俺の傍らでルナ嬢はにこにこと笑っている。そう俺の傍らで。
大事なことなので二度いう。
そして、ルナ嬢と語らう俺を誰もが妙なものを見る目で見ていた。
そしてメアリアンは哀れなものを見る目で俺を見た。
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