おもてなしのお菓子

karon

文字の大きさ
上 下
2 / 3

メイドの困惑

しおりを挟む
 メイド、マギーはうっかりさんだった。
 子供のころからそそっかしく聞き間違いや勘違いも多い。
 そんなマギーが大事な大事なお客様のおもてなしの一端を任されることになったのはひとえに祖母譲りのお菓子の腕があってこそだった。
 それ以外のマギーはほかのメイドがマギーと同じ班になったときはちょっと顔色が悪くなるような仕事ぶりだった。
 マギーは決められたことはできる、しかしそれからちょっと外れたことを命じられると途端にグダグダになるのだ。
 そしてマギーが大役を任されたことに周囲のメイドは戦慄を隠せないでいた。
「大丈夫なの?」
 掃除係がマギーに聞いた。
「ええと、タルトを焼くだけですよねえ」
 マギーは首をかしげる。
「そうね、タルトを焼くだけよね」
 掃除係は冷たい汗を背中に感じていた。
「一応、見本を作って差し上げればいいのではないの」
 年かさのメイドがそう言ってマギーに台所に行くよう指示した。
 マギーは厨房に入りそしてマギーのうっかりさんを知っているほかのメイドが食材を用意した。
 小麦粉やバター、蜂蜜とジャム。それを確認してからマギーは腕まくりして作業を始めた。
 粉とバターをすり合わせある程度まとまったところで蜂蜜を追加、それから水を足した。
 そして時間をかけてタルト生地をこねていく。あるていどまとまったら麵棒で生地をのしていく。
 そして普段の不器用さが嘘のように生地にきれいな模様をつけていく。
 そして一度竈で空焼きし、ジャムを焼いた生地にたっぷりと塗り込んだ。
 そして再びタルトを焼いた。
 表面のジャムが乾いたのを確認してマギーはタルトを竈から取り出す。
 ふちに波打つようなきれいな模様が中心の真っ赤なジャムを引き立ててキレイといえる出来栄えだった。
「少し冷ましてからお嬢様にお出ししよう」
 焼かれて照りの出たジャムが食欲をそそる。誰にでも得意なものはあるというがマギーはタルトづくりに全振りしているのだなとメイドはそう思いつつそれをマーゴットに届けた。
 届けられたタルトを見てマーゴットは思わず見入った。
 こげ茶の中の真紅が誠に美しいジャムタルトだ。
「ああ、これなら侯爵夫人も喜んでいただけるでしょう」
 食べてみれば味もまことにいい。
「でもやはりもう少し豪華さがあってもいいわね」
 そしてしばらく考え込んでいた。
「いいわ、じかに伝えるからこれを作ったメイドを呼んできて」
 そして呼び出されたマギーに伝えた。
「卵とミルクも使ってちょうだい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幕末レクイエム―士魂の城よ、散らざる花よ―

馳月基矢
歴史・時代
徳川幕府をやり込めた勢いに乗じ、北進する新政府軍。 新撰組は会津藩と共に、牙を剥く新政府軍を迎え撃つ。 武士の時代、刀の時代は終わりを告げる。 ならば、刀を執る己はどこで滅ぶべきか。 否、ここで滅ぶわけにはいかない。 士魂は花と咲き、決して散らない。 冷徹な戦略眼で時流を見定める新撰組局長、土方歳三。 あやかし狩りの力を持ち、無敵の剣を謳われる斎藤一。 schedule 公開:2019.4.1 連載:2019.4.19-5.1 ( 6:30 & 18:30 )

鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜

八ケ代大輔
歴史・時代
徳川家康を天下に導いた十六人の家臣「徳川十六将」。そのうちの1人「槍の半蔵」と称され、服部半蔵と共に「両半蔵」と呼ばれた渡辺半蔵守綱の一代記。彼の祖先は酒天童子を倒した源頼光四天王の筆頭で鬼を斬ったとされる渡辺綱。徳川家康と同い歳の彼の人生は徳川家康と共に歩んだものでした。渡辺半蔵守綱の生涯を通して徳川家康が天下を取るまでの道のりを描く。表紙画像・すずき孔先生。

やり直し王女テューラ・ア・ダンマークの生存戦略

シャチ
歴史・時代
ダンマーク王国の王女テューラ・ア・ダンマークは3歳の時に前世を思いだす。 王族だったために平民出身の最愛の人と結婚もできす、2回の世界大戦では大国の都合によって悲惨な運命をたどった。 せっかく人生をやり直せるなら最愛の人と結婚もしたいし、王族として国民を不幸にしないために活動したい。 小国ダンマークの独立を保つために何をし何ができるのか? 前世の未来知識を駆使した王女テューラのやり直しの人生が始まる。 ※デンマークとしていないのはわざとです。 誤字ではありません。 王族の方のカタカナ表記は現在でも「ダンマーク」となっておりますのでそちらにあえて合わせてあります

葉桜よ、もう一度 【完結】

五月雨輝
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞特別賞受賞作】北の小藩の青年藩士、黒須新九郎は、女中のりよに密かに心を惹かれながら、真面目に職務をこなす日々を送っていた。だが、ある日突然、新九郎は藩の産物を横領して抜け売りしたとの無実の嫌疑をかけられ、切腹寸前にまで追い込まれてしまう。新九郎は自らの嫌疑を晴らすべく奔走するが、それは藩を大きく揺るがす巨大な陰謀と哀しい恋の始まりであった。 謀略と裏切り、友情と恋情が交錯し、武士の道と人の想いの狭間で新九郎は疾走する。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

よあけまえのキミへ

三咲ゆま
歴史・時代
時は幕末。二月前に父を亡くした少女、天野美湖(あまのみこ)は、ある日川辺で一枚の写真を拾った。 落とし主を探すべく奔走するうちに、拾い物が次々と縁をつなぎ、彼女の前にはやがて導かれるように六人の志士が集う。 広がる人脈に胸を弾ませていた美湖だったが、そんな日常は、やがてゆるやかに崩れ始めるのだった。 京の町を揺るがす不穏な連続放火事件を軸に、幕末に生きる人々の日常と非日常を描いた物語。

水野勝成 居候報恩記

尾方佐羽
歴史・時代
⭐タイトルを替えました。 ⭐『福山ご城下開端の記』もよろしくお願いします。 ⭐福山城さま令和の大普請、完成おめでとうございます。 ⭐2020年1月21日、5月4日に福山市の『福山城築城400年』Facebookでご紹介いただきました。https://m.facebook.com/fukuyama400/ 備後福山藩初代藩主、水野勝成が若い頃放浪を重ねたあと、備中(現在の岡山県)の片隅で居候をすることになるお話です。一番鑓しかしたくない、天下無双の暴れ者が、備中の片隅で居候した末に見つけたものは何だったのでしょうか。 →本編は完結、関連の話題を適宜更新。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

処理中です...