おもてなしのお菓子

karon

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伯爵令嬢の困惑

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 これはヨーロッパのある国のちょっと昔の小さな話。
 とても小さなでも本人にとってはかなり大変なお話。
  本日は本日はとてもいい日和だ。おもてなし日和だ。
 令嬢マーゴットはそう思った。
 ここ数日の怒涛の日々を思えばこの平穏がありがたい。
 そう、すべては一か月前にさかのぼる。
 本日我が家に侯爵夫人がいらっしゃる。そのおもてなしが本来接待する立場である両親ではなく何故かマーゴットになったのがすべての発端だった。
 まず父、いきなり国境沿いの領地の端に盗賊騒ぎ父親は急ぎそちらに向かい当日までとてもたどりつけそうになかった。
 さらに母親が急病で倒れ仕事ができる状態ではなかった。
 かくして侯爵夫人の接待は長女であるマーゴットにまかされることになった。
 いきなりの大役にマーゴットは持っていた扇を取り落とした。
 そして、全使用人を集めて知恵を借りた。
 とにかく掃除を行き届かせてそして飾る花などを探した。
 そして料理の手配。
 野菜は新鮮なものを、肉は熟成期間があるのでそれを逆算して仕入れなければならない。
 料理長はそれなりに経験を積んでいたのだが問題はお菓子。
 お菓子は豪奢の象徴だった。
 名のある貴婦人は優秀な菓子職人を雇い自らの名を関した菓子を発表しそれを自らのお茶会などで供している。
 そして、マーゴットの家にも菓子職人はいた。
 そしてマーゴットはとにかく新作菓子を作れと命じた。
 侯爵夫人をもてなすための特別な菓子をと。
 菓子職人は青ざめていた。しかし彼なりに試作を始めたのでマーゴットは安心していたのだ。
 三日前に書置きを残して菓子職人がいなくなったのを見るまでは。
 探さないでくださいという書置きと失敗作の菓子の試作だけを残して。
 それを見てマーゴットは倒れてしまった。
「どうしようどうしよう」
 マーゴットは栗色の巻き毛を揺らして錯乱していた。
「とにかく、こちらの郷土菓子を出したらどうでしょう」
 見かねた乳母がそう提案した。
「古くからこちらに伝わる菓子も都から来た方には珍しいのかもしれませんし」
 乳母の提案でそうした菓子を作れるか使用人に聞き取りをした。
 そして一人のメイドがジャムタルトを作れると名乗り出た。
 一番若いメイドだった。周りのメイドはなぜか奇妙な顔をしてそのメイドを見ていた。
 そばかすの浮いた田舎娘というメイドはきょとんとした顔でマーゴットを見ていた。
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