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真相解明
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ルナ子はパソコンに向かっていた。
ほしいデータと参考文献の欄をプリントアウトする。
「参考文献は明日買いに行くとして」
ルナ子はカレンダーを確認した。店の定休日。それは必ずというわけではない。お客様のために休日でも店を開けることもあるからだ。
スケジュールに予定なし。それを確認する。
さて、斉藤さんはどうするか。ルナ子はキーボードを操る手をしばらく止める。
小鳥遊さんのつては斉藤さんしかない。そして設楽さんは月見里さんに頼んである。
休日にルナ子は別の喫茶店でお茶を飲んでいた。
自分の店にもハーブティーの種類を増やすべきだろうかと。そんなことを思いながら、カモミールティを飲んでいた。
カモミールは肉料理の後に合うだろうか。
そんなことを考えながらひとをまっていた。
灰色のスーツ姿の月見里さんが現れた。
ルナ子は静かに目を伏せた。
「設楽さんから連絡なかった?」
そう言って、カップのお茶をすする。
「実は、いろいろとあやしいのよ、設楽さん」
ルナ子はそう言って。月見里さんに座るように促した。
「実際、困ってるのよ、あの事件。営業妨害もいいところだわ」
いかにも呆れたそんな風を装い、ルナ子は呟く。
「たかがじんましんで警察を呼ぶ?」
ルナ子の様子にいささか同情をおぼえたのか、月見里さんはあいまいに相槌を打つ。
「斉藤さんの紹介で、お食事会を受けさせていただいたけど、小鳥遊さんてどういう方なのかしら」
「どういうって、父の会社の社長のお嬢さんよ、会社の親睦会なんかで知り合って」
「ああ、社長令嬢」
いいところのお嬢さんということは、あらかじめ聞いていた。
「そう言えば、田中さんが来てね、面白いことを言っていたわ」
ルナ子は思わせぶりな顔をして言う。
「私は見なかったんだけど、彼女、見たんだって」
そう言って、ルナ子は月見里さんに視線を固定する。
「田中さんと隣だったそうだけど、貴女は見なかったのかしら」
月見里さんはルナ子をじっと見つめた。
「ごめんなさい、心当たりはないわ」
「そう。ならいいけど」
ルナ子は、ハーブティーを指差した。
「結構おいしいわよ、カモミールブレンドですって」
月見里さんは曖昧な笑みでそれに答えた。
ややぽっちゃりとした田中さんは、あまり動きまわるのが得手ではなかった。
だから斉藤さんや、設楽さんがいろいろと動き回る役目を与えられたけれど、田中さんに与えられた役目はたった一つ。
病院の診断書のコピー、それは卵アレルギーではなかったけれど、それがなんの役に立つのかさっぱり分からない。
「もちろん、これが、小鳥遊さんをわざと卵アレルギーにした証拠になるなら、こちらも慰謝料請求してもいいわよね」
そんなことを小さく口に出してみる。
手の甲には包帯が巻かれたまま。さて、これからどうしよう。
とりあえずいつもの通りお茶にしよう。
店主不在の店に勝手に入る。酒井ちゃんはお茶だけを入れてくれる。
そして、あらかじめ焼いておいた日持ちのするバターケーキ。
「酒井ちゃん、これ、ルナ子さんに渡しておいてね」
そう言って診断書を手渡す。
酒井ちゃんは怪訝な表情で診断書の入った封筒を見ていた。
「なんか関係あるんですか」
昨日の事件と。そう言いたげだが、田中さんにもわからない。
設楽さんは、月見里さんの部屋にいた。
設楽さんがいかにも偶然を装って月見里さんに声をかけた。
設楽さんを見て月見里さんは眉をしかめる。しかし、設楽さんは内密の話があると言って、月見里さんに人に聞かれない場所を要求し、そのまま部屋にあがりこんだのだ。
こっそり携帯を手の中に隠し持ちつつ、月見里さんの部屋をきょろきょろと見回す。
「そんな珍しいものは置いていませんよ」
月見里さんの冷たい声。設楽さんはあわてて、手を振った。
ごく平凡なアパートの一室。部屋の隅に小さな本棚。パソコンと書き物をするための机。
反対側にはテレビと小さなテーブルと座椅子。
ベッドは隣の部屋にあるのだろう。あるいは布団か目のつくところにはなかった。
入ってきた場所の、反対側のすりガラスの向こうは台所だろう。
まあこぎれいな部屋を設楽さんはもう一度見まわした。
「お茶を入れますね」
そう言って月見里さんは台所にはいる。
その隙を縫って、こっそり消音にした携帯で、部屋の中を撮影する。
電源の入っていないパソコンに触れることはなかった。
そして何食わぬ顔で携帯をポケットに隠す。
「そう言えば、田中さんのこと知ってる」
今度は適当に田中さんがあやしいと言ったことを呟き始めた。
ルナ子は設楽さんにメールで画像を送ってもらう。
画像を拡大し、確かめる。
「やっぱり」
そう言って画像をにらむ。
ルナ子の手元にある参考資料の付箋を付けた場所を開く。
「とにかく、ここでけりをつけなきゃ」
ルナ子はそう言って、腕を組んだ。
翌日、ルナ子はランチタイムのお客全部を呼び寄せた。
裏方に回っていた酒井ちゃんもそばに控えている。
「本日はようこそ」
にっこりとルナは笑う。
そしてテーブルにはドライフルーツと、ハーブティーがすでにセッティングされていた。
そしてあの時の順番通りに並んでもらう。
全員がルナ子を注視している。
「それでは皆様お茶をどうぞ」
ルナ子はそう言って酒井ちゃんに合図を出した。
酒井ちゃんは白磁のティーポットを持ち上げる。
「小鳥遊様、田中様の手の甲の包帯にお気がつかれまして」
ルナ子がそう言って田中さんを指差す。
「小鳥遊様、田中さまも被害者の一人なのですよ」
そう言ってルナ子は全員に笑いかける。
「そう、問題は食べ物ではなかった」
そう言って、月見里さんを見た。
「貴女は最初から容疑の外にいた。だって位置的に料理に細工ができなかったから、でも本当の原因が料理でなかったなら話は違う」
「なんだって言うの」
「田中様、当店ではお料理の味を邪魔しない無香料のオリーブ石鹸を洗面所に用意しておりますわね」
「ああ、そうだったわね」
「ですがおっしゃいましたよね、レモン石鹸だと」
「石鹸がすり替えられていた?」
設楽さんが、不思議そうな顔をする。
「あれはレモン石鹸ではありませんでした。おそらくは卵石鹸」
意外な言葉に、全員が目を向いた。
「保湿効果を求めて、卵を練りこんだ石鹸だったのです」
「卵石鹸?」
聞き返す小鳥遊さんにルナ子は答えた。
「重篤なアレルギー患者は、皮膚にアレルゲンを刷り込まれても反応するはずです」
「でも、私の手は」
田中さんが自分の包帯を指差す。
「田中さんは卵アレルギーではありません。ですからそれは卵のせいではないのですよ。私はそれを光毒症だと思っております」
未知の単語に田中さんは目を瞬かせた。
「光毒症とは、柑橘系のエッセンシャルオイルがついた皮膚に光が当たると炎症を起こすことを言います。卵石鹸は無香料だと異臭が強いものです。そのため大量にレモンのエッセンシャルオイルを投入したのでしょう。それが皮膚の弱い田中様に炎症を起こさせたのだと思われます」
田中さんはなるほどと手を打った。
「石鹸というものは手作りできるのです、そのための参考文献も書店で手に入ります」
ルナ子が視線で合図を送ると、酒井ちゃんが後ろのワゴンから大判の書物を出した。
「目次に、卵石鹸の作り方、牛乳石鹸の作り方、ちゃんと載っておりますね」
そして再び月見里さんを見た。
「石鹸を元に戻せたのは、田中様の後に来た貴女だけですわ」
月見里さんはうめく。
「でも、私に限らないでしょう」
「設楽さんに送っていただきました」
ルナ子はプリントアウトした写真を取り出した。
月見里さんの部屋、その本棚にハンドメイドコスメティークの文字が確かにあった。
小鳥遊さんの視線が険しくなる。
「もし、もともと年季の入った制作者なら、レモンエッセンシャルオイルの危険性も当然ご存じのはず、つまりこの目的のためだけに用意なすったのですね」
だとすればかなり計画的だ。石鹸の製作期間は一カ月かかる。
月見里さんはすでに言い逃れの機会を失っていた。
「小鳥遊様に恨みがあったのでしょうが、それを聞いて差し上げるわけにはいきません」
「だって私は」
「恨みがあるなら、人を巻き込むんじゃない」
ルナ子さんは冷ややかに切り捨てた。
「飲食店で中毒騒ぎ、どれだけ損害があったと思う」
その視線はただ冷たい。
「毒を盛りたいなら好きにして、あたしの店以外でね」
ほしいデータと参考文献の欄をプリントアウトする。
「参考文献は明日買いに行くとして」
ルナ子はカレンダーを確認した。店の定休日。それは必ずというわけではない。お客様のために休日でも店を開けることもあるからだ。
スケジュールに予定なし。それを確認する。
さて、斉藤さんはどうするか。ルナ子はキーボードを操る手をしばらく止める。
小鳥遊さんのつては斉藤さんしかない。そして設楽さんは月見里さんに頼んである。
休日にルナ子は別の喫茶店でお茶を飲んでいた。
自分の店にもハーブティーの種類を増やすべきだろうかと。そんなことを思いながら、カモミールティを飲んでいた。
カモミールは肉料理の後に合うだろうか。
そんなことを考えながらひとをまっていた。
灰色のスーツ姿の月見里さんが現れた。
ルナ子は静かに目を伏せた。
「設楽さんから連絡なかった?」
そう言って、カップのお茶をすする。
「実は、いろいろとあやしいのよ、設楽さん」
ルナ子はそう言って。月見里さんに座るように促した。
「実際、困ってるのよ、あの事件。営業妨害もいいところだわ」
いかにも呆れたそんな風を装い、ルナ子は呟く。
「たかがじんましんで警察を呼ぶ?」
ルナ子の様子にいささか同情をおぼえたのか、月見里さんはあいまいに相槌を打つ。
「斉藤さんの紹介で、お食事会を受けさせていただいたけど、小鳥遊さんてどういう方なのかしら」
「どういうって、父の会社の社長のお嬢さんよ、会社の親睦会なんかで知り合って」
「ああ、社長令嬢」
いいところのお嬢さんということは、あらかじめ聞いていた。
「そう言えば、田中さんが来てね、面白いことを言っていたわ」
ルナ子は思わせぶりな顔をして言う。
「私は見なかったんだけど、彼女、見たんだって」
そう言って、ルナ子は月見里さんに視線を固定する。
「田中さんと隣だったそうだけど、貴女は見なかったのかしら」
月見里さんはルナ子をじっと見つめた。
「ごめんなさい、心当たりはないわ」
「そう。ならいいけど」
ルナ子は、ハーブティーを指差した。
「結構おいしいわよ、カモミールブレンドですって」
月見里さんは曖昧な笑みでそれに答えた。
ややぽっちゃりとした田中さんは、あまり動きまわるのが得手ではなかった。
だから斉藤さんや、設楽さんがいろいろと動き回る役目を与えられたけれど、田中さんに与えられた役目はたった一つ。
病院の診断書のコピー、それは卵アレルギーではなかったけれど、それがなんの役に立つのかさっぱり分からない。
「もちろん、これが、小鳥遊さんをわざと卵アレルギーにした証拠になるなら、こちらも慰謝料請求してもいいわよね」
そんなことを小さく口に出してみる。
手の甲には包帯が巻かれたまま。さて、これからどうしよう。
とりあえずいつもの通りお茶にしよう。
店主不在の店に勝手に入る。酒井ちゃんはお茶だけを入れてくれる。
そして、あらかじめ焼いておいた日持ちのするバターケーキ。
「酒井ちゃん、これ、ルナ子さんに渡しておいてね」
そう言って診断書を手渡す。
酒井ちゃんは怪訝な表情で診断書の入った封筒を見ていた。
「なんか関係あるんですか」
昨日の事件と。そう言いたげだが、田中さんにもわからない。
設楽さんは、月見里さんの部屋にいた。
設楽さんがいかにも偶然を装って月見里さんに声をかけた。
設楽さんを見て月見里さんは眉をしかめる。しかし、設楽さんは内密の話があると言って、月見里さんに人に聞かれない場所を要求し、そのまま部屋にあがりこんだのだ。
こっそり携帯を手の中に隠し持ちつつ、月見里さんの部屋をきょろきょろと見回す。
「そんな珍しいものは置いていませんよ」
月見里さんの冷たい声。設楽さんはあわてて、手を振った。
ごく平凡なアパートの一室。部屋の隅に小さな本棚。パソコンと書き物をするための机。
反対側にはテレビと小さなテーブルと座椅子。
ベッドは隣の部屋にあるのだろう。あるいは布団か目のつくところにはなかった。
入ってきた場所の、反対側のすりガラスの向こうは台所だろう。
まあこぎれいな部屋を設楽さんはもう一度見まわした。
「お茶を入れますね」
そう言って月見里さんは台所にはいる。
その隙を縫って、こっそり消音にした携帯で、部屋の中を撮影する。
電源の入っていないパソコンに触れることはなかった。
そして何食わぬ顔で携帯をポケットに隠す。
「そう言えば、田中さんのこと知ってる」
今度は適当に田中さんがあやしいと言ったことを呟き始めた。
ルナ子は設楽さんにメールで画像を送ってもらう。
画像を拡大し、確かめる。
「やっぱり」
そう言って画像をにらむ。
ルナ子の手元にある参考資料の付箋を付けた場所を開く。
「とにかく、ここでけりをつけなきゃ」
ルナ子はそう言って、腕を組んだ。
翌日、ルナ子はランチタイムのお客全部を呼び寄せた。
裏方に回っていた酒井ちゃんもそばに控えている。
「本日はようこそ」
にっこりとルナは笑う。
そしてテーブルにはドライフルーツと、ハーブティーがすでにセッティングされていた。
そしてあの時の順番通りに並んでもらう。
全員がルナ子を注視している。
「それでは皆様お茶をどうぞ」
ルナ子はそう言って酒井ちゃんに合図を出した。
酒井ちゃんは白磁のティーポットを持ち上げる。
「小鳥遊様、田中様の手の甲の包帯にお気がつかれまして」
ルナ子がそう言って田中さんを指差す。
「小鳥遊様、田中さまも被害者の一人なのですよ」
そう言ってルナ子は全員に笑いかける。
「そう、問題は食べ物ではなかった」
そう言って、月見里さんを見た。
「貴女は最初から容疑の外にいた。だって位置的に料理に細工ができなかったから、でも本当の原因が料理でなかったなら話は違う」
「なんだって言うの」
「田中様、当店ではお料理の味を邪魔しない無香料のオリーブ石鹸を洗面所に用意しておりますわね」
「ああ、そうだったわね」
「ですがおっしゃいましたよね、レモン石鹸だと」
「石鹸がすり替えられていた?」
設楽さんが、不思議そうな顔をする。
「あれはレモン石鹸ではありませんでした。おそらくは卵石鹸」
意外な言葉に、全員が目を向いた。
「保湿効果を求めて、卵を練りこんだ石鹸だったのです」
「卵石鹸?」
聞き返す小鳥遊さんにルナ子は答えた。
「重篤なアレルギー患者は、皮膚にアレルゲンを刷り込まれても反応するはずです」
「でも、私の手は」
田中さんが自分の包帯を指差す。
「田中さんは卵アレルギーではありません。ですからそれは卵のせいではないのですよ。私はそれを光毒症だと思っております」
未知の単語に田中さんは目を瞬かせた。
「光毒症とは、柑橘系のエッセンシャルオイルがついた皮膚に光が当たると炎症を起こすことを言います。卵石鹸は無香料だと異臭が強いものです。そのため大量にレモンのエッセンシャルオイルを投入したのでしょう。それが皮膚の弱い田中様に炎症を起こさせたのだと思われます」
田中さんはなるほどと手を打った。
「石鹸というものは手作りできるのです、そのための参考文献も書店で手に入ります」
ルナ子が視線で合図を送ると、酒井ちゃんが後ろのワゴンから大判の書物を出した。
「目次に、卵石鹸の作り方、牛乳石鹸の作り方、ちゃんと載っておりますね」
そして再び月見里さんを見た。
「石鹸を元に戻せたのは、田中様の後に来た貴女だけですわ」
月見里さんはうめく。
「でも、私に限らないでしょう」
「設楽さんに送っていただきました」
ルナ子はプリントアウトした写真を取り出した。
月見里さんの部屋、その本棚にハンドメイドコスメティークの文字が確かにあった。
小鳥遊さんの視線が険しくなる。
「もし、もともと年季の入った制作者なら、レモンエッセンシャルオイルの危険性も当然ご存じのはず、つまりこの目的のためだけに用意なすったのですね」
だとすればかなり計画的だ。石鹸の製作期間は一カ月かかる。
月見里さんはすでに言い逃れの機会を失っていた。
「小鳥遊様に恨みがあったのでしょうが、それを聞いて差し上げるわけにはいきません」
「だって私は」
「恨みがあるなら、人を巻き込むんじゃない」
ルナ子さんは冷ややかに切り捨てた。
「飲食店で中毒騒ぎ、どれだけ損害があったと思う」
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