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花嫁 願い
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この廃屋にどれくらい隠れていられるだろう。
先ほどの男達はあきらめてくれただろうか。
私と愛亜と清秋の三人は埃のたまった床の上に立ち尽くしている。
この街に知り合いなどあの方とそのご家族しかいない。
私達はこれからどうすればいいのだろう。
「愛亜、これからどうするの」
「そうですねえ、まず手紙を書かなければなりませんが、筆も紙もないのでどうしようもないです」
手紙、お父様に、それはこの国まで迎えに来てくれと、そしてこの国から元の国に戻れということ?
私はあの方に嫁ぐはずだったのに、それが叶わないというの。
「愛亜、あの方を救って差し上げられないかしら」
「無理言わないでください、国が相手ですよ」
この国の首脳部があの方を捕らえている。それをどうやって救い出すのか。
そう言われてしまえば方法などわからない。でも理不尽な理由であの方が囚われているのを許すわけにはいかないと思うわ。
「お嬢様、まず自分の身を救ってからようやく人を救えるのですよ」
愛亜は無情なことを言う。自分の命だけを守れというの。だけどあの方が助かるなら私はいくらでも自分の命をささげる覚悟なのに。
「こんなところにいたぞ」
その声に私の肩はびくりと震える。
あの男達が追ってきたのだ。
「お嬢様」
愛亜もどうしていいのかわからず狼狽えた顔で周囲を見回している。
止めようとした清秋もあっさりと叩き伏せられた。
「三人とも来てもらおう」
もはや逆らうすべもない。ああ、無念だあの方を救ってあげられなかった。
ただ無為に自分の命を散らすだけ。あの方を救えるなら死ぬのも怖くなかったわ。
私達は引きずられて無理やり連れていかれる。
たどり着いたのは佶家ほどではないけれど立派な家だった。
掃除も行き届いて、そして従順そうな使用人がたくさんいる。それなりに裕福な商家に見える。
なのに、どうしてこんな男達が出入りしているんだろう。
お父様のところにはこんな男達なんて一人もいなかったのに。
清秋は引きずられて泣いている。そして愛亜は厳しい顔をしてまっすぐに前を見ていた。
「お嬢様、落ち着いてください、冷静さを失ったら負けです」
そう言って愛亜は無理やり腕を引く男を睨みつけた。
「それが、佶家の嫁かい?」
そういったのは萎んだような老婦人だった。
シワシワの真っ白な顔に真っ赤な紅を指している。アンナお年を召したご婦人があんな分厚い化粧をしているのを私は初めて見た。
「それで、ちょっと私の言うことを聞いてくれれば悪いようにしないよ」
にんまりと笑う。だけどその赤い唇だけがまるで違う生き物のように歪んでどこか不気味だった。
「私に何をしろと?」
私の後ろでは愛亜と清秋が何やら話しているようだけど、そちらは小声なので聞き取れなかった。
先ほどの男達はあきらめてくれただろうか。
私と愛亜と清秋の三人は埃のたまった床の上に立ち尽くしている。
この街に知り合いなどあの方とそのご家族しかいない。
私達はこれからどうすればいいのだろう。
「愛亜、これからどうするの」
「そうですねえ、まず手紙を書かなければなりませんが、筆も紙もないのでどうしようもないです」
手紙、お父様に、それはこの国まで迎えに来てくれと、そしてこの国から元の国に戻れということ?
私はあの方に嫁ぐはずだったのに、それが叶わないというの。
「愛亜、あの方を救って差し上げられないかしら」
「無理言わないでください、国が相手ですよ」
この国の首脳部があの方を捕らえている。それをどうやって救い出すのか。
そう言われてしまえば方法などわからない。でも理不尽な理由であの方が囚われているのを許すわけにはいかないと思うわ。
「お嬢様、まず自分の身を救ってからようやく人を救えるのですよ」
愛亜は無情なことを言う。自分の命だけを守れというの。だけどあの方が助かるなら私はいくらでも自分の命をささげる覚悟なのに。
「こんなところにいたぞ」
その声に私の肩はびくりと震える。
あの男達が追ってきたのだ。
「お嬢様」
愛亜もどうしていいのかわからず狼狽えた顔で周囲を見回している。
止めようとした清秋もあっさりと叩き伏せられた。
「三人とも来てもらおう」
もはや逆らうすべもない。ああ、無念だあの方を救ってあげられなかった。
ただ無為に自分の命を散らすだけ。あの方を救えるなら死ぬのも怖くなかったわ。
私達は引きずられて無理やり連れていかれる。
たどり着いたのは佶家ほどではないけれど立派な家だった。
掃除も行き届いて、そして従順そうな使用人がたくさんいる。それなりに裕福な商家に見える。
なのに、どうしてこんな男達が出入りしているんだろう。
お父様のところにはこんな男達なんて一人もいなかったのに。
清秋は引きずられて泣いている。そして愛亜は厳しい顔をしてまっすぐに前を見ていた。
「お嬢様、落ち着いてください、冷静さを失ったら負けです」
そう言って愛亜は無理やり腕を引く男を睨みつけた。
「それが、佶家の嫁かい?」
そういったのは萎んだような老婦人だった。
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「それで、ちょっと私の言うことを聞いてくれれば悪いようにしないよ」
にんまりと笑う。だけどその赤い唇だけがまるで違う生き物のように歪んでどこか不気味だった。
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私の後ろでは愛亜と清秋が何やら話しているようだけど、そちらは小声なので聞き取れなかった。
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